『万』の魔人
銃弾の雨に真正面からぶつかりながら、少年は王の率いる群衆に向かって駆け出した。
無数の弾を浴びせられ、体から火花が飛び散るも、少年の体には傷一つつけることはできない。
「ひっ……」
距離にして50mは離れていたはずだ。その距離を一瞬のうちに詰められ、衛兵達の顔が恐怖でひきつる。
そんな衛兵の顔面めがけて、少年は腕を凪いだ。
一撃をもろに食らった衛兵は体が消し飛び、同直線上にいた衛兵たちは、余波の衝撃で、塵のように空中へ弾き飛ばされた。
この一撃で、8割ほどの衛兵達はパニックになり、逃走を始めたり、混乱しながら銃を乱射し始めた。
統制が崩れ混沌とする戦場に、左腕が魔人化した男が少年に向かって突っ込んできた。
「衛兵達は下がれ! 魔人は魔人でなければ殺せん!」
男は小さく呪文のような言葉を唱えると、黒い霧のようなオーラが集まり、剣となって左手に顕現した。
顕現した剣を少年の肩をめがけて振り下ろす。 何もせずに正面から食らった少年の体にヒビが入り、地面には衝撃のあまり、大きな亀裂が入った。
が、
「サンキューな。不老不死って言うもんだから、どうぶっ殺せばいいか考えてたんだけどよぉ」
少年は肩にめり込んだ剣の刃を手で掴むと、それをみるみるうちに、それを別な形へと変貌させていく。
「何も考えなくていいってことだよなぁ!」
剣はツルハシとなり、その一振りを頭に食らった魔人は一撃で絶命した。
「貴様ぁ‼」
その光景を見ていた魔人の1人が激昂し、少年に向かって手をかざすと、手から大きな炎の波が繰り出され、濁流のように少年を飲み込んだ。
「……」
近くにいるだけで喉を焼くような灼熱の波に飲まれても、少年はびくともしない。 それどころか炎に手をかざすと、少年の手に炎が収束し、圧縮された炎が槍の形になって、少年の手の中に顕現する。
「なん――」
なんだあれは、と言い切る前に、少年が投げた炎の槍が魔人の顔面を貫いた。
貫いた槍はそのまま岩肌に突き刺さり、その衝撃で圧縮された炎が解放され、辺りに爆炎を撒き散らす。
「なんだ?! やつの異能は何なんだ?!」
「……やつの手に何も触れさすな!」
魔人になれば、強靭な肉体に加えて、何らかの異能を授かる。その肝心の異能がわからず、混乱する魔人たちに、王が叫んだ。
「おそらく、触れたものの形を変える異能だ! 触れられたら最後、やつにどのようにされるかわからんぞ!」
「んー、多分正解」
王の忠告に、少年が指を鳴らした。
今まで贄を捧げて魔人になってきた者達だが、それで授かる異能は、炎を操る、無から剣を出す。念力でものに触れずとも何かを動かせる、など能力がシンプルなものが大体だった。
少年が授かったのは『触れたものの形を変える力』
その手で人に触れれば、思うがままの形の肉塊にできるし、相手の得物に触れれば自分の武器として作り替えられ、炎を無力化し、地形を変える。
魔人となり授かった能力の中でも、これほど応用の利く異能は存在しなかった。
「これが、『万』の門の力……」
歴代最強の異能に、並みの魔人では傷一つ付けられない最強の肉体。
贄として消費されてきた下流の人間が、世界を支配する魔人達の頂点に君臨した瞬間だった。




