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贄の王  作者: 糸音
第一章 贄と魔人の門

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世界に殴り返せ

「……‼ 門が……‼」


 門が再び輝きを放ち、今度は魔法陣の中央の数字も消えた。

 中断ではなく、完了。

 儀式が終わった合図だった。


「……っ!」


 門が大きな咆哮を上げ、空気を震わせながらゆっくりと、その存在を消滅させていった。

 そして門があった場所に、


「あれは……」


 異形の存在が死体を一つ抱えながら、下を向いて立っていた。

 3m弱はある巨大な躰。皮膚の代わりに張り付いた黒い黒鉄の鎧。

 その硬い皮膚には鋭いヒビのような模様が広がっており、脈打つように深紅の光を放っている。

 顔は口以外の顔のパーツを剥いで、そのまま鉄兜を張り付けたように人の形を失っていた。かろうじて残っている口も、口元が耳元まで大きく裂け、歯並びの悪い、不揃いな葉が常に表に出ている、化け物のような形相だ。

 魔人といっても元人間だ。力が大きい魔人ほど、人の名残を失っているが、今まで魔人になった人間は、顔半分だったり、上半身だったり、右腕だけだったり、人としてのなごりが感じられる箇所が必ずあった。


 だが、目の前の魔人はそれがない。

 後頭部から長く伸びた白い髪は、人間だった証なのかどうなのか。周囲のものには判断がつかない。


「お前は……倅か?」


 王が問うも、魔人は何も答えずに、抱えていた死体を優しく地面に置いた。


 魔人が思い返していたのは、人間だった頃の日々のことだった。














 おっちゃん。

 俺、魔人ってやつになったよ。


 すっげえ力が溢れてくる。今まで溜まってた疲れとか、喉の渇きとか、空気の熱さとか。そんなもん一切感じねえ。

 疲れもしないし、喉も乾かない体になったんだろうな。

 ちょー強い肉体で不老不死ってのは、多分こういうことなんだろうな。


 だけどさ、なんだろう。心が湧いてこねえんだ。

 魔人になってさ、だから何だって思ってる。魔人になって、どうしたらいいのかわかんねえ。

 上の奴らはこんなのになりたかったのかって、正直呆れちまってる。


 ただ一つ分かったのは、俺より賢い奴らが、なんで皆死にたがってたか、てことだけだ。


 正直さ。全部気づいてたんだ。


 オーナーが俺の稼ぎをちょろまかしてたってことも。

 本当なら俺はとっくに1億稼いで、人間になれていたことも。

 約束が守られない以上、中流になれる保証はないって、なんとなく気づいてた。


 でもさ。気付いていたくなかった。 

 俺は馬鹿でいたかったんだよ。

 馬鹿でいたら前向きになれるじゃん。

 万が一賢くなっちゃったらさ、俺の夢とか努力とかに意味がないことに気づいちゃったらさ——


 ——死んだ方がましだってことに気づいちゃったら、きっと死んじゃってたんだよ。俺は。

 それに気づいて死ぬよりも、忘れて楽しく生きていたかったんだよ。


 でもメガネ君とか、俺より賢い奴らは皆気付いてたんだよな。俺たちは生き方を選べないことに。

 生き方が選べねえから、妥協する方法や、死に方を探しただけなんだよな。


 賢い奴らは俺とは違って、殴られても殴り返さなかった奴ばかりだった。

 意味がないって知ってたんだよな。

 でもきっと、ムカつく奴らに殴り返せなくても、足ぐらいは引っ張ってやりたいって思ってたんだろうな。


 贄にできなきゃ困ることを知ってたから、困らせてやりたかったんだと思う。あいつらなりの喧嘩の仕方だったんだよな。


 俺は別に人殺しなんかしたくなかったけど。

 あいつらの困った顔は、ちょっとだけ胸がスカッとしたよ。


 でもさ。スカッとしたけど、こっからどうすればいいのか分かんねえ。

 生かされたからには、死んじゃダメなんだと思う。


 だけどさ、おっちゃん。


 魔人ってのは、不老不死ってやつなんだろ?


 この先が分からないよ。







 死ねない俺は、どう生きたらいい?




 蘇るのは、馬鹿でいられた日々ばかり。

 心をぐるぐると巡らす少年に、王が張り詰めた声で問いかけた。


「もう一度問う‼ ……お前は私の倅か?!」 


 死体があったなら、贄の補充が必要だったはずだ。

 だが、中に入った二人は出てこなかった。何かがあったのは間違いない。

 前にいるのは、誰なのか。


 確かめるような、希望に縋るような強い叫びに対し、少年はだるそうに人間だった頃の名残で頭を掻いた。


「せがれぇ……?」


 鐘の中で反響するような、くぐもった声が空気を揺らした。

 その声色に王の目が開いた。


「——それって、中に入ってきたキンパツ君?」


 その淡々とした返しが答えだった。


「殺せえええええええええええええええええええ‼」


 王の怒号と同時に衛兵たちが銃を構え、少年に向かって乱射した。

 一発食らえば致命傷だった銃が不思議と脅威に感じなかった。本能が効かないと言っている。

 その直感通り、命中した銃弾は鈍い音を立てて砕けて散った。


 銃で撃たれて、少年は改めて実感した。


 魔人になっても、思った以上に俺は俺なんだなあと。


 魔人になっても何も変わらねえ。

 心はずっと、下流の時のままだ。

 毎朝うるせえ鐘の音で起きて、仕事終わりに汗を流すだけのシャワーを浴びて、上の奴らのあまり物で作ったフライドチキンが人生最高の料理の馬鹿のまま。


 今までの人生みたいにさ、こっからの俺の人生に誇りとか意味とか生まれることはないんだって思ってる。


 だって俺は俺のままなんだもん。馬鹿のままで生まれ変わることはねえ。

 誰かが言ってた『馬鹿は死んでも治らねえ』ってのは本当だったんだなあ。


 だから——


「……おっちゃんやメガネ君は、殴られても殴り返さないけどさあ」


 殴られたら殴り返さないと気が収まらないのもそのままなんだろう。


 今まで銃をだされりゃ黙るしかなかったけど、

 今は銃より強い体がある。


「……俺は殴られたら殴り返すぜ?」


 きっと、今からやることに意味はない。

 それでも、少年の理性を抑えつける蓋は外れてしまった。

 蓋を開けて出てきたのは、これまでため込んだ——怒りという名の火薬。




「や“れるもんならやってみなああああああああああああ‼‼」




 銃で火が付いた火薬が爆発し、空気を揺らすほどの怒号となって辺り一帯を震わせた。

 体に駆け巡る激情に身をゆだね、少年は魔人の率いる軍団に狂ったように駆け出した。


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