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贄の王  作者: 糸音
第一章 贄と魔人の門

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血の中に飛び込んで

 

 門の外では、大勢の者たちが、強く不気味な輝きを放つ門を見守っていた。

 門の光が収まり、魔法陣の中央に描かれた数字の紋様が消えれば儀式が終わった合図だ。


「お前ももうすぐ力を持つ。私以上のだ。力を授かり、魔人となって国を治める覚悟は良いか」

「はい。父上の横に並び、国を治めるようになるこの時を心待ちにしておりました」


 人間の顔を失った魔人の横にいた、見目麗しい金髪の男が、魔人と同じように門を見据えながら答えた。

 彼はこの国の王族だ。そして、この儀式で力を受け取り、国を治める立場となる。


「私の力で、必ずこの国を他国の脅威に脅かされることのない強国にしてみせます」


 決意のこもった言葉に、王は満足そうに頷いた。

 その様子を見て、王子も誇らしそうに頷いて返した。


「! 儀式が終わったぞ!」


 門の光が収束し始め、辺りがざわざわとどよめき立った。

 王がそのどよめきを手で制すと、辺りが一気に静まり返る。


「……違う」


 光は収まったが、門の数字が消えていない。

 つまり、完了ではなく、中断。


 状況を察した王子が家臣に合図を送ると、王子の手に銃が渡され、家臣の後ろから武器の類を没収された衛兵が出てきた。


「確認してまいります」

「頼んだ」


 魔人は中に入れない。


 恐らく死人が出たのだろうが、断定できない以上、確認には自分が向かわなければならない。

 衛兵を先に進ませ、銃を奪われないようにやや離れた距離から銃口を突きつけながら、王子たちは中に入っていった。


「台座を調べろ」

「はい」


 この作業に下流の人間を使わないのは、中流の人間には教養があるからだ。

 こういう異常時の為に、毎回贄は指定の数よりも多めに用意してある。

 衛兵たちは任務をちゃんと完遂すれば、殺されないと理解している。


 いつか死ぬ贄よりも、明日が約束された中流の人間の方が、妙な気を起こすことはない。


「一人、死んでます。おそらく毒です」

「毒か……。どこの収容所のだ?」

「6番収容所の贄かと」

「……あそこの管理体制を見直す必要がありそうだな」


 少し苛立ったように、王子は前髪をかき分けてため息を吐いた。


「他に死んでいる者は?」

「いません」

「わかった。死体を台座から降ろしてくれ。必ず先に君が下りるんだぞ。君が贄の判定になる」

「ご忠告ありがとうございます」


 王子の指示通り、衛兵は死体を引きずりながら台座の外へ向かい、自分が先に降りてから、血を吹いたおっちゃんの死体を台座から降ろした。

 これでようやく儀式が再開できる。


 王子が安堵し、銃口を下ろしたとき。


「王子‼ 後ろ‼」

「? ——ぐあっ?!」


 ボロ着れの中に身を潜めていた少年に背後から襲われ、顔を殴り飛ばされた王子は銃を落としながら、地面を2、3転しながら倒れこんだ。


「貴様、何者——、があああああああああああああ?!」

「お前っ⁉ 王子に何を——」


 動けないように王子の骨を折る少年に衛兵が襲い掛かるも、生憎相手は20対1でも敵わない『白い悪魔』だ。

 一人で、それも丸腰で敵う相手じゃない。


 瞬く間に地に伏した二人の足を引きずりながら、少年は台座の方へと歩いていく。


「お前……?! 何者だ?! なぜ動ける?! どうやって、……いや、今から何をする気だ?!」


 手足を折られて動けない王子が引きずられながら叫ぶと、少年はそれを蔑むように一瞥してから、感情のこもっていない冷たい声で答えた。


「お前ら二人。贄にすんのよ」


 状況を理解した王子の顔が絶望に染まる。

 折れた手足であがけども、力強い少年の手はほどけることはない。


「やめ——」


 少年は二人を台座の中へ放った。ゴミを投げるように。

 王子たちの体が台座に転がった瞬間、宙に持ち上がり、黄金の杯の上空へと移動していく。


「やめろ‼ やめろおおおおおおおおおおおおおおお‼」


 必死に叫ぶことしかできない王子に、少年は親指を下に向けた。

 それと同時に二人の体は血に変わり、杯の中へと零れていった。


 皆混ざって、同じ血だ。


 必要分の贄が捧げられた杯は満足したように輝きを放つと、上って来いと示すように、台座の中央に杯の中へと続く、赤い階段が現れた。


 少年はその階段を上り、杯の中に溜まった1万人分の血の中に飛び込んだ。


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