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贄の王  作者: 糸音
第一章 贄と魔人の門

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3つの選択肢

軽い読み味ながらも、重めのダークファンタジー。

楽しんでいただければ幸いです。

 

 物心ついた頃、彼には3つの選択肢があった。


 1つ。山のような洗濯物や、油まみれの皿や鍋を、朝から日暮れまで洗い続ける仕事。

 2つ。指導者に従い、畑を耕したり、川から水を引き水路をのばしたりする仕事。

 3つ。落石とガスの噴き出しが当たり前の鉱山に潜り、ガスマスクとツルハシだけを頼りに、背負ったかごいっぱいに鉱石を掘り出す仕事。


 彼はどれか一つ、好きな仕事を選んでこなさなければならない。

 汗に弱い者は1つ目を、体力がある者は2つ目を。

 3つ目を選ぶのはよほどの力自慢かつ、バカか荒くれだった。


 そして彼は今ガスマスクを顔に付けながら、いつ命を失うのか分からない鉱床の底でツルハシを振るっている。


「やりい! レア鉱石ゲット! こいつは高く売れるぜ!」


 視界の悪い地の底でツルハシの軽快な音を響かせながら、彼こと、白髪の少年は鉱石を掘っていた。

 ガスマスクで声はくぐもっていたが、声色はやけに明るかった。

 額のライトで照らされた鉱石を見せつけるように掲げると、周囲で作業をしていた人間も思わず「おお……」と感嘆の声を上げる。


「今日のノルマ5週目終了! あと4籠は詰められるな!」


 少年の周囲には、同じようにして鉱石を掘っている人間が少なからずいた。

 3つの仕事の内、唯一命を張らないといけないこの仕事に人がそこそこ集まるのは、ノルマさえ達成すれば、その日は自由に過ごしていいからだ。

 ノルマは約4尺程度の大きさの籠を鉱石いっぱいで詰めること。

 それが終われば帰って休むもよし。酒やたばこに浸るもよし。


 そして少年の後ろには、いっぱいに鉱石が詰まった籠が5つある。

 休むのが自由なら、働き続ける自由もある。

 少年は時間の限りツルハシを振るっていた。






 そんな風に鉱石を掘り続けていると、作業終了を知らせる鐘の音が鉱床内に響き渡った。ここからは分からないが外は日が沈みかけている。

 その音を聞いて大半の者は肩を落とした。彼らの籠は一杯に埋まっていない。1籠埋められるだけでも御の字なのだ。

 そもそもの話、終われば帰っていい職場で終業時刻まで残っているということは、少年を除けばそういうことである。

「ノルマさえ終われば自由」などと甘い言葉に釣られた新入りは、自分の籠を見て黙り込む。




「見ない顔だなルーキー。分けてやろうか」




 重い息を吐きながら出口へ向かう細い腕の男の籠に、直径30㎝ほどの鉄鉱石が投げいれられた。

 突然重心が後ろに傾き、細い腕の男は小さな悲鳴を上げて後ろに倒れこんでしまった。


  仰向けになって視界に入ったのは、大量の籠を引きずって歩く白髪の少年の姿だった。


 肩まで野放図に伸びた白い髪が特徴的な少年だった。

 伸びた前髪は、視界を塞がない程度にある程度切り分けられているが、口に掛りそうなほど伸びた髪が何本かヘッドライトからはみ出ている。

 獣のように鋭い歯がライトの光で白く光り、ギラギラと深い輝きを宿した琥珀色の目が無邪気な視線をこちらに向けている。


 少しはだけた作業着の隙間からは、細身ながらも極限まで引き締まった肉体が見えている。

 土埃としけたため息で溢れるこの鉱床で、異様なほどの生命力に満ちたその姿に、思わず細い男は目を見開いた。


「安心しな。見返りを求めるわけじゃねえ。授業料ってやつだ」

「……? 授業料なら、僕が払う側じゃ?」

「ん? そうか? そうなのか? じゃあプレゼントってことで!」


 ナハハと馬鹿っぽい笑い声が暗い鉱床内に響いた。

 少年が手を差し出すと、男は引き上げられる形で立ち上がった。


「あんたすごいな……そんなに掘れるなんて。何年くらいこの仕事を?」

「ざっくり2、5(にご)年ってとこ」

「ざっくりの範囲がやけに広いな……」

「細けえこたあ気にしねえ主義よ。一番デキるのは間違いなく俺だけどな」


 呆れながら返すも、少年はそれを気にも留めず、なおも馬鹿っぽく笑って親指を立てた。

 何であの労働の後で笑う余裕があるのか不思議に思っていると、不意に少年が指を4本立ててきた。


「筋肉と喧嘩の腕に自信がないなら、他の職場いったほうが良いぜ。なんせここは4Kだからな」

「4K?」

「きつい! 汚い! 危険! そして——」


 意味深に少年が間を開けると、鉱床の出口が見えてきた。

 久しぶりの外の光に目を細めながら男が出口に立つと、その先に広がっていた光景に絶句した。





「カモられる」





 外には身なりの良い屈強な男たちが待ち構えており、労働者たちに殴りかかって籠の鉱石を奪い取っていく様が広がっていた。


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