大野 錦さま
大野 錦さまhttps://mypage.syosetu.com/1970422/
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大学進学で上京したが、当然住むアパートは安い1Kだ。
築10年の物件。
7帖ほどの部屋、小さなキッチン、どっちも狭いが風呂とトイレが別々なのはありがたい。
2階建てで、同じような号室が8つずつある。
7帖ほどの部屋は南向きで、小さなベランダもある。
家賃が月4万と、立地を考えれば良心的で、両親にも負担をあまりかけない。(ダジャレではない)
さて、今日はバイトを終えての帰宅中。
僕はこの住むアパートのあることに初めて気づいた。
「あれ? 端っこの部屋って、出窓がついているのか」
南側から一番右の号室。つまり西の号室だけ、7帖の部屋に出窓がついている。
大体高さも幅50センチ、奥行き20センチで、1階の人の部屋には花が飾られ背後にはカーテン。
2階の人はものを置いてはいないが、同じくカーテンを掛けている。
そして、僕の号室はこの2階の一番西の号室の隣である。
「いいな~、ああいうのって。少し家賃高いんだろうけど」
自分の号室に帰宅しようとすると、トントントンと階段を上がる音がして、その一番西の号室の人物が現れた。
「あ~、こんちは~」
彼、確か僕とは別の大学の三年生。
僕も挨拶すると質問をした。
「あの~、部屋に出窓がありますよね。やっぱり家賃って少し高いんですか?」
「えっ、そうなの? 俺のところ月4万だけど」
な、なんだと、少し間取りが違うというのに家賃が同じだと!
く、悔しい!
あの部屋を何としてでも僕の部屋にしたい!
「す、すみません。部屋に上がらせてもらっていいですか?」
了承した彼(208号室なので、208さんとする)は、僕(207号室なので、207とする)を部屋に案内してくれた。
出窓の前には古い椅子が置かれてあり、208さんはそれに座り、カーテンを開ける。
古いためか、椅子から「ギシィ」と変な音がした。
「……いい。この出窓。何もない日にぼーっとここで外を見ていたい」
「207君、ここからだと近所の夏祭りで花火大会の様子がよく分かるんだぜ」
な、なんだとー!
ますますうらやましい!
それなのに同じ家賃!
僕は少し意地悪なことを思いついた。
「208さん、こんないい出窓がついてて、全部家賃が同じっておかしいですよ。1階が同じなのは理解できますが、2階も同じなのはいわくつき物件なんじゃないですか?」
「そんな噂聞いたことないぞ」
「そりゃ、大家さんは言いませんよ! 調べますので、もしこの部屋がいわくつきなら、僕の部屋と交換しませんか! 僕、霊感とかそういうの全くないんで!」
「えぇ~、めんどくさいこと言うな君」
「部屋にほとんどものを置いてないじゃないですか。僕の部屋もこんなもんです。入れ替えはすぐ済みますよ!」
こうして僕はいわくつきを調べる、というより偽の事故をそれらしく捏造することにした。
2週間後。
僕は208さんの号室のインターホンを鳴らす。
「あ~、どうしたの207君」
「208さん、やっぱりこの部屋っておかしいらしいですよ」
「えっ、自殺者がいたとか?」
「違います。建築当時、この部屋の内装工事をしていた方が突然死されたそうです。病名までは詳しく書かれていませんが。これが当時のこの地域新聞のコピーです」
この2週間、僕は熱心にそれらしき新聞記事の偽造コピーを作っていた。
そして、僕は208さんに、この号室の本当の家賃はプラス2000円の予定だったが、完成後に家賃は他と同様にされた、と話した。
「ふぅ~ん。なんか確かに薄気味悪いな」
「どうです。1週間、いえ3日だけ部屋を交換して住んでみませんか?」
「まっ、3日だけならいいか」
こうして僕は208さんと3日間の部屋の交換をした。
そう、この3日間に色々なうめき声を録音した機器を設置して、元に戻った時に作動させるのだ。
こうして208さんを怖がらせて、彼から僕の元へ部屋を交換しようって狙い。
「よし、このアパートは天井が開けられるから、天井裏に機器を置いておこう」
出窓の前に置かれた古い椅子に乗った僕が天井を開けようとしていると……。
バギィ!
椅子の脚が折れる音が聞こえた。
◇ ◆ ◇ ◆
ピーポー、ピーポー、ピーポー。
「そうなんです。隣ですごい音がしたので、急いで自分の部屋を開けました」
A大学の三年生「208」は警察に事情を説明している。
「208」の部屋でB大学の一年生「207」が死亡しているのが見つかった。
壊れた椅子から落下し、落下時に出窓の箇所に頭を強く打ったのが直接の死因。
検視担当の警官が現場を見る。
「かわいそうに、この出窓に頭を打たなければ、軽い打撲で済んでいたのに。天井の修理でもしようとしてたのかな?」
おしまい
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【しいなの感想】
そんなことで他人を陥れようとするから……