スイッチくんさま
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# マドリードの間取り
マドリードの郊外、海に近いこの高台のアパートメントに越してきたのは、建築家の美咲だった。日本での仕事を辞め、スペインで新しい生活を始めようと決めたのだ。
彼女が一番気に入ったのは、広々としたテラスだった。地中海を遠くに望むことができ、朝日と夕日の両方を楽しめる絶好の位置にある。テラスの手すりにはつる植物が絡み、テーブルと椅子が置かれていた。美咲はここで朝のコーヒーを飲むのが日課になっていた。
「間取りというのは、単なる部屋の配置ではない」と美咲はよく言っていた。「それは生活のリズムであり、光と影の踊りであり、空間における人間の動きの予測なのだ」
彼女のアパートメントは、決して広くはなかったが、巧みに設計されていた。リビングルームから寝室、キッチン、そしてテラスへと続く流れは、まるで穏やかな小川のようだった。各部屋の間に明確な境界線はなく、光が自由に行き来できるように設計されていた。
ある日、隣に住むスペイン人のカルロスが彼女を夕食に招待した。彼はタパスバーのオーナーで、料理の腕前は地元でも評判だった。
「美咲、あなたの専門は建築だが、私の専門は盛り付けの間取りだ」とカルロスは笑いながら言った。テーブルには様々な色と形のタパスが美しく配置されていた。
「料理の盛り付けも、建築と同じなんですね」と美咲は感心した。「空間をどう使うか、色のバランス、高さの変化...すべてが間取りのセンスに通じていますね」
カルロスはワインを注ぎながら答えた。「そうだよ。私はプレート上に小さな街を作るようなものだ。各料理は建物であり、ソースは道路、ハーブは公園のようなものさ」
その夜、二人は互いの「間取り」について語り合った。美咲は鉛筆とノートを取り出し、カルロスのタパスの配置を素早くスケッチした。カルロスは感心して見つめていた。
数週間後、美咲はカルロスをテラスでの夕食に招待した。彼女は日本の建築の原則を取り入れ、テラスを改装していた。海からの風がより心地よく流れるようになり、夕日の光がテラスのあちこちに美しい影を作り出した。
「これがあなたの言う間取りのセンスか」とカルロスは感嘆の声を上げた。「空間が呼吸しているようだ」
美咲は微笑んだ。「カルロスのタパスからインスピレーションをもらったの。料理と建築は、空間と素材と時間の芸術なのよ」
マドリードの夕暮れが二人を包み込む中、彼らは食事を楽しんだ。テーブルの上のタパスは、まるで小さなマドリードの街のように配置され、テラスの間取りは、海からの風と夕日の光を完璧に取り込んでいた。
そして美咲は思った。間取りとは結局のところ、人々が集い、物語を共有する場所を作ることなのだと。
【しいなの感想】
オサレ!(๑•̀ㅂ•́)و✧