辻堂安古市さまの青春
辻堂安古市さまhttps://mypage.syosetu.com/2604008/
「君と駆ける」
「じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい。気をつけて行くのよ」
「分かってるー」
日曜日の朝、シューズの紐を少し硬めに締め、一つ伸びをしてから走り始める。うちの陸上部は日曜日がオフになっているけど、部員みんなで話し合って、早朝ランニングをしようと決まったからだ。
「決勝レースに出てみたい」
「チーム優勝したい」
「県大会に行きたい」
理由は様々だけど、「ベストを尽くしたい」という気持ちは一緒。俺だって部長としても、1個人としても、今年は優勝したいという気持ちが強かったから、色々どこがベストなコースか探してみた。
俺らが住んでいるところは少し田舎で、近くにクロカンランニングができる林道がある。そこならアスファルトで足を痛めることもないだろうということで皆が賛成し、2ヶ月位前から走ることになった。
……んだけど。
何故かここ3週間ばかり、副部長の理沙と二人きりでランニングしている。……何故だ?
「今日は家の都合が」
「筋肉痛ひどくて」
「寝坊しちゃって」
「は、腹が……すまん食いすぎた」
ポコポコと入って来るメッセに、最初は「仕方ねぇなあ」で済ませていたものの、やっぱりどー考えてもコレはおかしい。
(え?もしかしたら俺1人で熱血してたんだろうか?)
そんな考えがよぎって、全然走りに集中できない。それに……理沙はどう思ってるんだろうか?
正直な事を言えば、最初は「理沙と二人きりなんてラッキーか?」と、ちょっと思ってたんだけど、こうなると不安の方が大きくなる。だってそうだろ?
「義理と立場上仕方なく一緒に走ってるだけよ」
とか言われたら、ちょっと立ち直れない。
そんな事をモヤモヤ考えながら走っていると、突然理沙が立ち止まった。
「ねえ、ちょっと話があるんだけど」
あ、考えてるそばから、か?
ちょっと待ってダメージに備えるから。
深呼吸で息を整えるフリしてー……よし来い!ちくしょー!
「あのさ、2人でのランニングってやっぱり無いよね」
「そーだな(少し喜んでたよクソー)」
「………やっぱ続けられ無いよね?」
「かもな(覚悟はできてる!ちくしょーめ!)」
「じゃあもうやめる……?」
仕方ないよな、こればっかは。
いいよ、俺が1人で盛り上がってただけだし
「私は、別に良いんだけ」
………は?あれ?
「2人きりのランニングでも」
ん?どーいうこと?
「もう!ニブイ!」
…………え?
…………あ?
…………そーいう、事?
「えーと…………良いの?俺で?」
顔を下に向けたまま、コクンと頷く理沙。
わ、え、ちょっとどーしたら良いんだコレ?ってテンパってたら、いきなり他のメンバーがどこからか飛び出して来た!
「おめでとー!」
「おせーよ!」
「3週間も待たすなよ!このバカ!」
「うわぁああ?なんでお前らココに?は?え?」
げ。まさかのドッキリ?
「ちげーよ!俺達、理沙の応援してたんだよ」
「そーそー。みんな2人の気持ち知ってたのに、なかなかくっつかないからさ」
「やーそれにしても。見事にテンパってたな?」
「『え』『あ』ばっかだったな。ぷくくく」
お…………お前らぁぁぁぁ!
「ほら、トレーニングすっぞ?お二人さん!あ、それとも二人きりにしてくれってか?」
「ばっかやろー!ちゃんとトレーニングみんなですっぞ!」
「へーへー」「やりますか」
「ほら理沙行くよ!でも、おめでとー!」
「うん!協力ありがとー!」
協力……と言うことは、知らなかったの、俺だけかよ!
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「………もしもーし?コラ!陸斗?そろそろアップに行かないと!何ぼーっとしてんの?」
「ああ理沙、悪い悪い。ちょっと昔の事思い出しててさ」
「昔の事って?」
「中学の時の早朝ランニング」
「……!もう!大事な決勝前なのに!」
顔を赤らめた理沙がパッチーンと背中を叩く。いてて……でもこれで気合いが入った。
「じゃ、日本一獲って来ますか」
「行ってらっしゃい。ゴールで待ってるね」
今は彼女兼専属トレーナーになった理沙がふわりと俺の首にタオルをかけて走って行く。
ああ、待っててくれ。
君がそこにいるなら絶対に一番でフィニッシュラインに飛び込んでみせる。
次は世界だ。
【しいなの感想】
爆発しろ