大野 錦さまの青春
大野 錦さまhttps://mypage.syosetu.com/1970422/
カキーン! オーライ! オーライ!
校庭では野球部が練習をしている。
まるで成層圏にまで届くような大声。
「青春だよね~。それにくらべて私たちって」
「そうかな。私は十分青春してるな、って思うよ」
校庭が見える、東京のとある高校の図書室の席。
文芸部の雫と愛佳にとって、ここが部活動の場所。
共に二年生で今は二学期。
いや、部員は五名なのだが、残りの三人は三年生。
この文芸部は、卒業まで部員としての席は置くが、受験勉強をしたいものは、自主的に部活動をセーブしてもいいとされる。
なので、二学期に入ってから三年生たちはほとんど来ていない。
「は~、今月の課題読書の感想文。明日で最後なのになかなか終わらないよ~」
愛佳が言うと、雫は「私はもう終わったよ」と言う。
「雫ってすごいよね。感想文も詩も短歌も小説もなんでもすぐ書けるから、やっぱり作家とか目指してるの?」
「ちょっと、そんなこと親に言ったらお父さんから『夢見がち』だって怒られるって。出版社には就職したいな~とは思ってるけど」
「それよりも先輩たちが卒業したら、私たちだけ二人だけ?」
今年の春に先輩たちと部の勧誘活動を熱心に行ったが、今の一年生たちから入部希望者は結局ゼロ。
「実は来年そうならないように、『あること』をしたんだ。愛佳には内緒で」
「えっ、何をしたの?」
「秘密。だってあまり意味がないかもしれないし。あとそろそろで結果がわかるから、その時に教えるよ」
すると、図書室に顧問の女の先生が慌てた感じで現れた。
「高橋雫さん! あなたの出した作品、小説部門で最優秀賞を受賞したって、ついさっき連絡が来たました!」
「えっ!? 本当ですか!」
高橋雫はこの夏に「全国高校生文芸コンクール」へ作品を応募していたのだ。
それを知っているのは、作品を読んでもらった顧問の先生だけ。
そして、程無くして三人の男女が先生に続いて現れた。
三年生たちだ。
「すごいな、高橋さん! 最優秀賞だなんて!」
「先輩たち、何で? 予備校に行ってたんじゃないんですか?」
「私が呼んだのですよ」
先生が答える。
「すごい、雫! 『あること』ってこれ?」
「そう、でも最優秀賞って! 自信はあったけど良くて入選かな、と思っていたんだけど」
愛佳と三年生たちは先生がコピーして保存してある雫の受賞作品を読む。
「うわ~、これすごい面白い!」
「なんでこんな書いてたの私に教えてくれなかったの?」
雫は「ごめん」と愛佳と三年生たちに謝ると、自分にしか聞こえない声でつぶやいた。
「この受賞作品が来年の新入部員の勧誘へと導くコンパスになるといいなぁ……」
おしまい
【しいなの感想】
まぶしい!