のどあめさまの青春
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成層圏、コンパスの続きになります。
短い話ですがよろしくお願いいたします。
タイトルは「青春潰し」です。
(本文開始)
それは弟子の無邪気な言葉から始まった。
「僕、魔道具なら興味が持てる!面白くて夢中になってたらお昼ごはん忘れちゃった!」
微笑んで弟子を見ていた魔法使いの目が一瞬だけ大きく見開いた。
「時間を忘れるほど夢中になったか…」
「僕、魔道具開発をしたいな。だめかな?」
意外な事に、師匠の答えは弟子の望む通りではなかった。
「それは、君がもう少し大人になってからだね」
「え~!なんで?」
「魔道具に夢中になりすぎると戻ってこれなくなるんだよ。その間に大事な者を失くしてしまうからね、私の様に」
師匠の後悔と悲しみを知らない弟子は口をとがらせる。
「僕、結婚しないし子どもも持たないもん」
「魔法使いの人生は長い。気が変わるかもしれないだろ?」
「それはない。僕みたいな子どもを作りたくないから結婚なんてしない!」
長年、親に魔力持ちである事を否定されて育った弟子の傷は浅くはない。
「そうか。だが君が魔力持ちである以上、自分の身を守り世渡りする術を持たないといけない。魔道具作りをするだけじゃだめなんだ。それは君も分かるだろう?」
拾われる前に悲惨な暮らしをしていた弟子は頷いた。
「うん。自分の身を守る力が無いと悪い大人にカツアゲされる 」
痩せ細りボロボロだった弟子の様子を思い出す度に師匠の胸は痛む。
「そうだ。君はまだ無力な子どもだ。昔ほど魔法が珍重されない今の世なら尚更だ。あのジェームズだって魔法学校出身だから一通り魔法は使えるし護身もできるんだよ」
「そっか。ジェームズさんも自分の身は守れるんだ。なら身につけないとだめなんだね」
納得する弟子であった。良い子だ、と師匠は弟子の頭を撫でた。
「子どもはしっかり食べて寝て大きくなるのも仕事だよ。そろそろお茶の時間だから行きなさい」
「は~い。今日のおやつ何かな~。楽しみ~」
行ってしまった弟子の背中を見て魔法使いはため息をついた。
◇
「長官のおっしゃる通りだと思いますよ。小さな子どもに深入りさせないのが正解です」
独身なのに、なぜか長官の子育て相談の相手をするはめになったジェームズは少し戸惑った様子で視線を揺らした。
「魔道具作りは魔性ですからね。何もかも忘れて夢中になってしまう」
「だろう?私もだよ。それであの人はいなくなってしまった」
苦い表情をする銀髪の魔法使い。
ジェームズは榛色の目を細め、窓の外を見ながら話し出した。
「僕の場合は焦りすぎたんです。一日も早く彼女を迎えに行きたくて」
一人前になる為の膨大な学習と課題。必死に取り組むうちに彼女への手紙を出す時間を惜しみ。貴重な彼女との逢瀬さえも、その時間があれば課題の魔道具作りに使いたいと焦り。
「そうして。彼女は行ってしまった」
榛色の瞳には痛恨の想いがあった。
「確か、領主のお嬢さんを接待しているのを見られたんだっけ」
「ええ。いつも彼女が泊まる宿で会って事情を話せば分かってもらえると思ってたんですがね。宿へ行った時には手遅れでした 」
銀髪の魔法使いは肩をすくめる。
「ただでさえ僕ら魔法使いは常人とは時間感覚が狂っていくのにな。まして魔道具作りなんかすると。本当に僕らの青春潰しだよ、魔道具作りは」
ジェームズはポツリと言った。
「それでも。昔、彼女が語ってくれた夢の道具を実現したくて。魔道具に青春を潰されたかもしれませんが、僕には生き甲斐です」
彼女がいなくなってからは
そんな言葉が聞こえるようで、銀髪の魔法使いは静かにジェームズから目を反らし外の景色を見やる。
青い空に筋雲が広がっていた
おしまい
【しいなの感想】
なるほど!