いかすみこさまのコンパス
いかすみこさまhttps://mypage.syosetu.com/2169339/
私の亡くなった父は、方角を知るのにコンパス(方位磁石)が要らない人でした。
東西南北は勘で分かり、自動車の運転でも登山中でも道に迷う事はありませんでした。
しかし、それが一変する事態が起こりました。
認知症です。
スーパーの駐車場で、車を置いた場所にすら迷うようになりました。
認知の他に心臓も持病を抱えていたので、主治医より運転禁止という指示を出してもらい、免許を返納し事なきを得たと思いました。
甘い考えでした。
父が寝室のベッドを動かしてしまうのです。
『北枕だから直した』
とは本人の談。
ベッドは南枕で設置していましたが、東西南北がわからなくなった父は逆だと勘違いしてしまったのです。
これを嫌がったのは、同じ部屋で就寝していた母。
私は『北枕でも南枕でもいいじゃん』という考えですが、団塊世代の母は北枕で眠るのは絶対嫌だと言い張りました。
仕方なく、父がベッドの向きを変えたら戻す日々が続きました。
ただ、何度も続けば流石にイヤになります。
私は父に100均で買ったコンパス(方位磁石)をプレゼントしました。
これで安心だと思ったら、次の日にまたベッドを動かしています。
「お父さん、昨日あげたコンパスは? 」
父はしばらく考え込んでいました。
「何のことだ? 」
東西南北すらわからなくなった人に、物の行方をわかるわけがありませんでした。
コンパスの場所を指し示す、コンパスがあればなと溜息をつきながらベッドの位置を戻す日々はその後も続きました。
【しいなの感想】
御苦労、お察しいたしますm(_ _)m