のどあめさまのコンパス
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「一度は通る道」
「ヘンリ…じゃなかった、先生でもなかった、ししょ~!どうして魔法陣の円は手書きじゃないとだめなのですか?」
茶髪の男の子が手をあげて質問する。
「私が話した内容を聞いてなかったのか、我が弟子よ」
銀髪の魔法使いが重々しく返す。
「円とは」
「万物が巡るもの、それの象徴であり、魔力を巡らすには一番効率的な形だからでしょ。もう覚えたよ」
「なら」
「だ~か~ら~。円は手書きでなくても良くない?コンパスつかっちゃだめなの?」
師匠は気がついている。
小さな弟子が、なかなか綺麗に円が書けずにやり直しをさせられて焦れていることを。
「イメージを定着させるには、初めのうちは自分で書いた方がいいんだよ。第一、コンパスじゃ魔力を流しにくいだろ?」
「ペンだって道具じゃん」
ああ言えばこう言う。
ようやく子どもらしくふっくらしてきた頬を膨らませる弟子を困った様に師匠は見る。
「だいたい、魔法使いって意外と脳筋と言うか頭が古くない?なんで何百年前のやり方を延々と続けてるの?」
「それを話したら今、君が習っている勉強全般が当てはまるな。人の子の成長発達が昔から変わっていないからこそ一番効果的な教育法が残っているんじゃないのかね?」
「うう … 」
むっとした師匠が論破すると弟子の肩が震えだして顔は茶色の髪に隠れてしまった。きっと目には涙がたまっているのだろう。まだ六歳の子どもに言いすぎた。
師匠は内心、ため息をつきながら声をかけた。
「魔道具開発には魔法陣が必要なんだよ。後でジェームズに話を聞いてみるとよい」
ジェームズ は魔道具開発を主にしている魔法使いである。魔道具に興味を持つ弟子が懐いているのだ。
「ほら、手伝ってあげるから、もう一度描いてごらん」
弟子のペンを持つ小さな手に大きな手が重なり綺麗な円を描いていく。
◇
しばらくして。
「じゃ~ん!」
弟子が懐からだしたのはコンパス。
「見て見て!このコンパスならペンと同じ位、魔力が通るんだよ!」
「ほう、見せてごらん」
コンパスの先には魔石を溶かしたインキを入れたペンだけでなく、持ち手に魔力を伝える導線が付けられている。子どもが作った初めての魔道具にしては良い出来だ。
「なかなか良い出来だね」
「ジェームズさんに教えてもらったんだ。導線を考えたのは僕だよ」
「自分で考えたのか。君には魔道具作りの才能があるかもしれないね」
それから多少の口論はあったものの。
前回よりスムーズに魔法陣が描けた弟子はご機嫌でおやつを食べに行った。
小さな背中を見ながら魔法使いはため息をついた。
「この魔法を教えたら拗ねそうだなあ。また泣かれるのかなあ」
弟子の作った魔法陣に手をかざした後に別の紙に手をかざす。瓜二つの魔法陣が二枚できあがっていた。
◇
「弟子が世話になったね」
突然、工房に訪れた銀髪の魔法使いに焦げ茶色の髪をしたジェームズ は笑って答えた。
「とんでもない事です、長官。昔の様で懐かしかったですよ。僕も作りましたからね」
「君もかい?」
ジェームズも少しでも時間を節約できないかと魔法陣を描けるコンパスを自作したという。
「私も糸やコンパスでやってみたけどね。結局、中身はペンで書かなければならないし、いちいち持ち替えるのが面倒になって使わなくなったな。複写魔法を覚えてしまったら尚更ね」
「そうですね。魔法使いなら一度は通る道ですかね」
おしまい
【しいなの感想】
これまた意外なことに企画初めて(だよね?)のハイファン!
何より最強なのはコピペだった! という……?