しいなここみのコンパス2
『まんまる花火より……』
彼女を誘った初めての夏祭り──
僕のために頑張って、浴衣を着てくれた彼女が、愛しかった。
高くてつまらない屋台の食べ物も、彼女と一緒だとどんな高級レストランの食事よりも美味しかった。
夜空を花火が彩った。
僕らは並んで、それを見上げた。
暗闇を一瞬あかるく染めて、すぐに消える花火が、どんどん打ち上がる。
儚さが美しかった。
寂しいなんて思わなかった。
今、この時が、ここにあることに、心から感謝したくなる気持ち──
だけど僕にはなんだか不満だった。
コンパスで描いたような、まんまるの花火がどれほど色鮮やかでも、見ているうちに飽きてしまったんだ。
確かに綺麗だけど単調で、整いすぎていて、工夫は感じるけど意外性が感じられなくて、僕は思わず視線を移した。隣に座る、彼女のほうへ──
「綺麗だねぇ」
彼女の生々しい唇が、そう言って動く。
「は〜まや〜」
ちょっと違うぞと思いながら、ただ心が楽しくなって、僕は微笑んだ。
「好きだよ、花名」
僕がそう言うと、彼女が振り向いた。
「え? なんか言った?」
にへらっとした目が、僕を見つめる。
その橙色の肌を、花火のあかりが彩る。
彼女の丸顔。それは手描きのように、ちょっといびつで、複雑な趣きがあって──
だからこそ、その夜僕は、それを一番かわいいと思ったんだ。