高橋モモル24号さま
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◇ シューズメーカー・タカハシ ◇
ナイキ、ミズノ、アディダス⋯⋯数ある有名シューズメーカーの中で、マイナーシューズメーカー・タカハシの挑戦は、ネット通販を武器に世界に向けて大きく羽ばたこうとしていた⋯⋯。
これは「靴」に人生をかけた一人の男と、その娘の物語である。
古めかしい看板を掲げた靴屋が東京都内にある。都内の靴屋といってもたくさんあり、東京と聞くと都会のイメージだが⋯⋯実際は八王子の西の小さな町工房に過ぎない。
「靴屋 高橋」 の仕事の大半は修繕やクリーニングだ。昔はオーダーメイドで革靴なども作っていたが、不景気な世の中で、靴にまでお金を回す余裕がなくなり、依頼は絶えて久しい。
「お父さん、また菊池社長から合併話の件で会いたいって連絡来てるよ」
「あぁ? 菊池なんかほっとけ」
「靴屋 高橋」 の店主高橋 勲は、ぶっきらぼうに娘の遥海に返事をする。
ライバル工房の菊池は大手シューズ販売メーカーに加わり、今では一大シューズショップを手がけるグループになっていた。
昔のよしみでグループへ入れてやる⋯⋯憐憫の情で店を畳むように、毎週のように連絡が来る。
勲には、菊池の意図は分かっていた。大手メーカーとの繋ぎを強めるために、職人が安く欲しいだけなのだ。
「しつこいね菊池さんもさ。でも⋯⋯お客さん来ないよね」
「うむ⋯⋯潮時かもしれん」
勲は店内を見渡す。わずかなにいる常連さんの靴は磨き終わり、修繕が済んでしまう。狭い店内に客が犇めくなんて事は仕事柄ないが、このままではやっていけないのは確かだった。
遥海の嘆息まじりの声には、さすがに勲も申し訳なく感じていた。遥海には、勲が培ってきた技術はしっかりと伝えて来たつもりだ。手製の技術がしっかりしていようと、機械化による技術革新と大量生産の時代の波には逆らえない。店をたたみ、売却資金をもとに娘のやりたい事への独立資金へあてる⋯⋯それが勲の親として、先達として残してやれる精一杯の財産だった。
「⋯⋯ほんとウチのお父さんは頑固だからね。高橋勲より、高橋一徹にすれば良かったのに」
お客さんが来ないのは、単に立地や利用者人口の問題もあると遥海は考えていた。ビシッとしたスーツを着て、しっかり足に合わせた革靴を履いてバリバリ働く、そんな働き盛りのサラリーマンが減っていた。
「立地が悪いっていうなら、移せばいいのよ」
夢見がちではいられない。待っていたって客が来ないのならば、集めに行くしかない。
遥海は電気屋の親友から格安で譲って貰ったPCを使い、インターネット内にホームページを作り、バーチャル店舗での営業を考えた。開発されたばかりのVRゲームなどを狙い、積極的に参加してゆく。新規ユーザー獲得を狙ったのは、最初の登録料無料の所が多いからだ。
ユーザー名は「シューズメーカー・タカハシ」 誘導予定のホームページには、海外の方にもわかりやすく各国語表記対応している。
「遥海⋯⋯こんなゲームしているくらいなら菊池の所に頭を下げに行ってもいいんだぞ」
「シャラップ!マイファザー! 黙ってアイツラ狩るよ!!」
閑古鳥のなく店内に、ゲームに熱中すると人格の変わる遥海の声が響く。勲は父娘でバディを組んでゲーム攻略を手伝わされていた。
「イッサ! ボヤッとしないで右のやつやって! 私は左!」
育て方は間違ったか勲は嘆息混じりに指示に従い、課金で装備を固めた敵プレイヤーと対峙する。
「職人魂舐めんなっよ!」
時間ならたっぷりあった。本格的にゲームが稼働し集客のバランスが変わるまでが勝負。人が集まると課金攻勢が始まり、シューズメーカー・タカハシの技も通用しなくなる。
「ランカーやったわ! お父さんの技は最高よ!」
ゲームだが、愛娘に手放しでよろこばれて悪い気がしない勲は、照れた。手先の器用な父娘の快進撃は続く。遥海が一つだけこだわったのがゲームキャラクターの靴だ。MODによりデザインされた靴の宣伝を行う。
「ほら、お父さん⋯⋯また釣れたよ」
デザインを変えるだけの改造にオーダーが入る。あくまでデザイン重視。ゲームバランスを崩す真似はしないのがモットーだ。
個人より、開発メーカーから直接連絡も入るようになる。シューズメーカー・タカハシは、バーチャルゲーム界で密かに人気のブランドとなり始めていた。
「遥海⋯⋯収入になって来たのはいいが、しょせんゲーム内だろう」
食べていける道筋が出来ただけでもマシだと勲は思ったようだが、本業は廃れていくばかりだ。
「こっからが本番だよ、お父さん」
遥海はいつの間にか作っていた、うずらの卵サイズのミニシューズを勲に見せた。ストラップチェーン付きで、デザインはゲーム内の物と同じだ。
「そしてこれよ」
遥海は簡素なシューズケースからミニシューズと同じデザインがされた、本物サイズの靴を取り出した。
「ゲーマー心理とコレクター魂を付いたグッズ展開だよ。愛着あるものに対しての本物志向は需要高いの。お父さんの腕、あてにしてるんだから」
高橋勲の靴職人としての腕は、一大シューズショップ・グループの菊池社長のお墨付きだ。
「菊池さんからのスカウト話は全部録音、記録してあるからね」
「遥海、お前いつの間にそんな事を⋯⋯」
我が娘ながら恐ろしい娘だと、勲は身震いした。育て方は間違ってなかったようだ。娘に全てお膳立てされたが、職人としてまだまだやれる⋯⋯こんな嬉しい事はない。
「あーっ、また現実と仮想の、ごっちゃ混ぜな依頼来ているよ」
「成層圏で歩ける靴だと? 雲の上でも歩きたい子供か?」
「大手企業の会長の名前だから、いたずらだね」
ゲームのせいなのか、依頼の中には無理な注文も入るのはお約束だ。いつか実現する事もあるかもしれないが、勲も流石に空飛ぶ靴までは作れない。
八王子の小さな靴屋、シューズメーカー・タカハシ────メイド・イン・ジャパンの名に恥じないネットショップブランドとして、世界にその名を知られるくらいに有名になったという。
【しいなの感想】
菊池まで入っとる!Σ(゜Д゜)
なるほどコレクター魂に火を点けたわけですね? 時代に逆らう父と時代に乗れる娘のコラボ最強!(๑•̀ㅂ•́)و✧