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瞬発力企画!  作者: しいな ここみ
第五回目『高橋』
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高橋モモル24号さま

モモル24号さまhttps://mypage.syosetu.com/2543981/



◇ シューズメーカー・タカハシ ◇


 ナイキ、ミズノ、アディダス⋯⋯数ある有名シューズメーカーの中で、マイナーシューズメーカー・タカハシの挑戦は、ネット通販を武器に世界に向けて大きく羽ばたこうとしていた⋯⋯。


 これは「靴」に人生をかけた一人の男と、その娘の物語である。


 

 古めかしい看板を掲げた靴屋が東京都内にある。都内の靴屋といってもたくさんあり、東京と聞くと都会のイメージだが⋯⋯実際は八王子の西の小さな町工房に過ぎない。


「靴屋 高橋」 の仕事の大半は修繕やクリーニングだ。昔はオーダーメイドで革靴なども作っていたが、不景気な世の中で、靴にまでお金を回す余裕がなくなり、依頼は絶えて久しい。


「お父さん、また菊池社長から合併話の件で会いたいって連絡来てるよ」


「あぁ? 菊池なんかほっとけ」


 「靴屋 高橋」 の店主高橋 勲(たかはし いさむ)は、ぶっきらぼうに娘の遥海(はるみ)に返事をする。


 ライバル工房の菊池は大手シューズ販売メーカーに加わり、今では一大シューズショップを手がけるグループになっていた。


 昔のよしみでグループへ入れてやる⋯⋯憐憫の情で店を畳むように、毎週のように連絡が来る。


 勲には、菊池の意図は分かっていた。大手メーカーとの繋ぎを強めるために、職人が安く欲しいだけなのだ。


「しつこいね菊池さんもさ。でも⋯⋯お客さん来ないよね」


「うむ⋯⋯潮時かもしれん」


 勲は店内を見渡す。わずかなにいる常連さんの靴は磨き終わり、修繕が済んでしまう。狭い店内に客が犇めくなんて事は仕事柄ないが、このままではやっていけないのは確かだった。


 遥海の嘆息まじりの声には、さすがに勲も申し訳なく感じていた。遥海には、勲が培ってきた技術はしっかりと伝えて来たつもりだ。手製の技術がしっかりしていようと、機械化による技術革新と大量生産の時代の波には逆らえない。店をたたみ、売却資金をもとに娘のやりたい事への独立資金へあてる⋯⋯それが勲の親として、先達として残してやれる精一杯の財産だった。




「⋯⋯ほんとウチのお父さんは頑固だからね。高橋勲より、高橋一徹にすれば良かったのに」


 お客さんが来ないのは、単に立地や利用者人口の問題もあると遥海は考えていた。ビシッとしたスーツを着て、しっかり足に合わせた革靴を履いてバリバリ働く、そんな働き盛りのサラリーマンが減っていた。


「立地が悪いっていうなら、移せばいいのよ」


 夢見がちではいられない。待っていたって客が来ないのならば、集めに行くしかない。


 遥海は電気屋の親友から格安で譲って貰ったPCを使い、インターネット内にホームページを作り、バーチャル店舗での営業を考えた。開発されたばかりのVRゲームなどを狙い、積極的に参加してゆく。新規ユーザー獲得を狙ったのは、最初の登録料無料の所が多いからだ。


 ユーザー名は「シューズメーカー・タカハシ」 誘導予定のホームページには、海外の方にもわかりやすく各国語表記対応している。


「遥海⋯⋯こんなゲームしているくらいなら菊池の所に頭を下げに行ってもいいんだぞ」


「シャラップ!マイファザー! 黙ってアイツラ狩るよ!!」


 閑古鳥のなく店内に、ゲームに熱中すると人格の変わる遥海の声が響く。勲は父娘でバディを組んでゲーム攻略を手伝わされていた。


「イッサ! ボヤッとしないで右のやつやって! 私は左!」


 育て方は間違ったか勲は嘆息混じりに指示に従い、課金で装備を固めた敵プレイヤーと対峙する。


「職人魂舐めんなっよ!」


 時間ならたっぷりあった。本格的にゲームが稼働し集客のバランスが変わるまでが勝負。人が集まると課金攻勢が始まり、シューズメーカー・タカハシの技も通用しなくなる。


「ランカーやったわ! お父さんの技は最高よ!」


 ゲームだが、愛娘に手放しでよろこばれて悪い気がしない勲は、照れた。手先の器用な父娘の快進撃は続く。遥海が一つだけこだわったのがゲームキャラクターの靴だ。MODによりデザインされた靴の宣伝を行う。


「ほら、お父さん⋯⋯また釣れたよ」


 デザインを変えるだけの改造にオーダーが入る。あくまでデザイン重視。ゲームバランスを崩す真似はしないのがモットーだ。


 個人より、開発メーカーから直接連絡も入るようになる。シューズメーカー・タカハシは、バーチャルゲーム界で密かに人気のブランドとなり始めていた。


「遥海⋯⋯収入になって来たのはいいが、しょせんゲーム内だろう」


 食べていける道筋が出来ただけでもマシだと勲は思ったようだが、本業は廃れていくばかりだ。


「こっからが本番だよ、お父さん」


 遥海はいつの間にか作っていた、うずらの卵サイズのミニシューズを勲に見せた。ストラップチェーン付きで、デザインはゲーム内の物と同じだ。


「そしてこれよ」


 遥海は簡素なシューズケースからミニシューズと同じデザインがされた、本物サイズの靴を取り出した。


「ゲーマー心理とコレクター魂を付いたグッズ展開だよ。愛着あるものに対しての本物志向は需要高いの。お父さんの腕、あてにしてるんだから」


 高橋勲の靴職人としての腕は、一大シューズショップ・グループの菊池社長のお墨付きだ。


「菊池さんからのスカウト話は全部録音、記録してあるからね」


「遥海、お前いつの間にそんな事を⋯⋯」


 我が娘ながら恐ろしい娘だと、勲は身震いした。育て方は間違ってなかったようだ。娘に全てお膳立てされたが、職人としてまだまだやれる⋯⋯こんな嬉しい事はない。


「あーっ、また現実と仮想の、ごっちゃ混ぜな依頼来ているよ」


「成層圏で歩ける靴だと? 雲の上でも歩きたい子供か?」


「大手企業の会長の名前だから、いたずらだね」


 ゲームのせいなのか、依頼の中には無理な注文も入るのはお約束だ。いつか実現する事もあるかもしれないが、勲も流石に空飛ぶ靴までは作れない。


 八王子の小さな靴屋、シューズメーカー・タカハシ────メイド・イン・ジャパンの名に恥じないネットショップブランドとして、世界にその名を知られるくらいに有名になったという。




【しいなの感想】


菊池まで入っとる!Σ(゜Д゜)


なるほどコレクター魂に火を点けたわけですね? 時代に逆らう父と時代に乗れる娘のコラボ最強!(๑•̀ㅂ•́)و✧


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― 新着の感想 ―
 山本大介さま、感想ありがとうございます。  夢は信じ、そして行動に移せば叶う⋯⋯かもしれません。昔ながらの職人は絶滅危惧種なので、娘さんには頑張ってほしいのです。
読ませていただきました。 職人お父さんと今ドキ娘さんのやりとりが良き〜でした。 ドリームズカムトゥルー・・・夢は信じれば叶いますね。 高橋の奇想天外大逆転劇お見事でした。 ありがとうございます。
 しいな様、皆さま、感想ありがとうございます。  着想はコロンさまの靴下からです(←被りませんよ⋯⋯靴下を頭から被る変態みたいに思われた?!)   引き続き皆さまの作品楽しみながら、お題に挑みたい…
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