成層圏から幕田卓馬さま
幕田卓馬さまhttps://mypage.syosetu.com/1131504/
「成層圏ってどにあるの?」
タブレットを眺めていた小学生の息子が言った。
せいそうけん?
あ、清掃券ね。息子が幼稚園の頃、俺の誕生日に作ってくれた券のことか。
ママやパパのお手伝いをしたい! って意気込んで、下手くそな字で書いてくれたっけ。
うれしかったけど、なんだかもったいなくて……、結局、全部は使いきれずに、しまったままになってた。
あれ、どこにしまったんだっけ?
「ああー、アレはね……家の中にあるよ」
苦し紛れにそう答える。
「え? 家の中!?」
息子がおどろいった顔でこっちを見た。
捨ててしまったと思ったのだろうか? そんなわけないだろ、お父さんの大事な宝物さ。
「そうさ、すごく大事なものだから、当然だろ」
「そりゃ大事だと思うけど……」
「放置して無くしちゃったら、お父さんはショックだよ」
「ショックっていうか、たぶん死ぬよね」
「ははは、死ぬ(ほど悲しい)かもしれんな」
「熱くなったり、苦しくなったりしそうだし」
「そう、なくなったら頭がカーって熱くなったり、胸が苦しくなると思う」
子供の頃に作った思い出の清掃券。お父さんにとってはもちろん宝物だけど、お前にとってもそこまで思い入れがあるものだったんだな。
そうだ、たしか寝室の引き出しにしまってたんだ!
久しぶりに使ってみるか。
「よし、持ってくるか」
「なにを?」
「清掃券さ」
「成層圏って、持って来れるものじゃないでしょ!?」
「いや、まだ半分くらい残ってたと思うぞ」
「え? 今って半分しかないの!? でも、オゾン層が破壊されてるって教科書に書いてあったし、そういうものなのかな……」
環境問題にも言及するなんて、大人になったもんだ。紙で作られた券とはいえ、不必要にゴミを増やすのは良くない。いい心がけだ。
俺は小走りで寝室に向かう。
そして茶封筒にしまった『清掃券』を取り出す。
思い出の券を前にして、はにかむ息子の顔が思い浮かぶ。さてどこを清掃してもらおうかな? お風呂掃除でもお願いしちゃおうかな?
スキップしながら息子の前に立ち、清掃券を差し出した。
「じゃあ、これで風呂掃除をお願いします!」
俺の手の中には清掃券。
俺と息子の宝物。
息子は首を傾げて、言った。
「え? なにそのボロい紙切れ……」
【しいなの感想】
おどろいった顔いただきました(*´∀`*)
幼稚園児なら『おそうじ券』じゃないのかな(*´艸`*)