成層圏からAjuさま
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『成層圏のパイソンカマムシ』 Aju
「あ。いいなあ、それ。」
タカハシさんは両手でコーヒーの缶を包むように持って、星空を見上げる。
「あ‥‥あの‥‥わたしの故郷って‥‥エメラルドグリーンでっ‥‥とってもきれいで‥‥」
ちゃんと説明しようと思うのに、わたしの心臓がドキドキしちゃって‥‥。
「それで!‥‥通信機が、直ればっ‥‥」
「通信機って、見せてもらってもいいかな。」
わたしは、星間通信機をタカハシさんに見せる。
こんなの、地球人が見たってわかんないよね?
タカハシさんはしばらくそれを見ていたが、カバンから出した不思議な道具で、それをあっという間に直してしまった。
えっ? この人、何者?
そういえば、わたしはタカハシさんがどこから来た人か、どこに住んでいる人か、聞いたことがなかった。
いつも、事務室で存在感薄く仕事してるだけだもの。
わたしは直った通信機で星間連絡船に連絡をとることができた。
「あの‥‥」
と言いかけて、タカハシさんが夜空を見上げたので、わたしもつられて上を見た。
「あ、流れ星。」
「流れ星は、成層圏を突き抜ける小さな石の塊が燃え尽きる時に出す光なんだよね。」
タカハシさんはそんなことを言う。
帰りたい——って、お願い事を考えたわたしとは発想が違うんだな。
でも‥‥。
あれは流れ星じゃないよ。
それは成層圏を抜けても光ることをやめず、やがて円盤の姿になって、会社のヤードに舞い降りた。
そしてタカハシさんとわたしを乗せた円盤は、夜の空へと舞い上がる。
小さくなってゆく会社のヤード。
次第にまるくなる地平線。
地球の青さと丸さがはっきりわかる高度になると、窓の外は透明度を増し、星の瞬きがなくなった。
成層圏を抜けたのだ。
タカハシさんはシートに座ったまま、そんな窓の外の風景を目を細めて眺めている。
驚く様子もない。
この人は、何者だろう?
そういえば、わたしはタカハシさんについて何も知らない。
そんなタカハシさんは、わたしと同じペアシートに座ってくれている。
肩が触れそうな位置に‥‥。
もう、これだけで、わたし幸せだから。
いつの間にかわたしは、エメラルドグリーンの故郷の夢を見ていた。
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