スイッチくんもお父さん
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# 父の日のサプライズ
毎日の昼食は、会社近くのパン屋で買った惣菜パンとコーヒーだけ。私の父は、そんな質素な昼食で長年過ごしてきた。「お腹がふくれれば何でもいい」と笑う父だが、母は「もっとちゃんと食べなさい」と心配している。でも父は「無駄な時間を使いたくない」と言って、いつもデスクで仕事をしながらパンをかじっている。
今日は父の日。
例年なら、ネクタイや靴下などの実用的なプレゼントを渡して終わりだったが、今年は特別な計画があった。私と母、弟で密かに相談し、父にサプライズを用意することにしたのだ。
平日の昼間、父が会社でパンを食べている頃、母は父の好きなものを選び、弟はプレゼントを包装し、私は予約の電話を入れていた。父の好きなファミレスへの予約。父が帰ってきたら、みんなで食事に行くという計画だ。
その日、父は珍しく早めに帰宅した。「今日は案件が予想より早く終わってね」と少し照れくさそうに言う父に、母が「ちょうどいいわ。今日はみんなで食事に行きましょう」と提案した。
「今日は特別な日だから」という母の言葉に、父は少し戸惑いながらも頷いた。父の日だということを、父自身が忘れているらしい。それもまた、私たち家族にとっては微笑ましいことだった。
ファミレスに着くと、父は久しぶりの家族での外食に嬉しそうだった。いつも仕事に追われている父が、ゆっくりとメニューを見ている姿は新鮮だった。
「たまにはこういうのもいいな」と父が言うと、弟と私は顔を見合わせて微笑んだ。
メインディッシュを食べ終え、デザートの時間。父がコーヒーを注文する中、私はバッグからそっとプレゼントを取り出した。
小さな箱に包まれたそれは、父が長年使っている財布の新しいものだ。父の愛用の財布はすでにかなり古くなっていたが、「まだ使える」と言って新しいものを買おうとしなかった。
「お父さん、いつもありがとう。
……父の日おめでとう」
箱を差し出すと、父は一瞬呆気にとられた表情をしたあと、柔らかな笑顔を見せた。「あぁ、今日は父の日か。すっかり忘れていたよ」
箱を開けると、父の目が少し潤んだように見えた。「こんなの買ってくれなくても...」と言いながらも、嬉しさを隠しきれない様子だった。
「いつも簡単な食事だけで、僕たちのために頑張って働いてくれてありがとう」と弟が言うと、父は照れくさそうに笑った。
「家族のためならね。でも、たまにはこうやって一緒に食事をするのもいいものだね」
父の言葉に、家族全員が温かい気持ちになった。普段は無口で感情表現が少ない父だが、この日ばかりは心を開いて話してくれた。
パンとコーヒーだけの日々の中で、こうして家族と過ごす時間がいかに大切か、父もきっと感じてくれたはずだ。
この父の日の思い出は、きっと家族みんなの宝物になるだろう。
【しいなここみの告知】
バラ投稿の前編もあります(*´∀`*)