モモル24号さまがお父さん
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◇ 江戸川勉の休日 ◇
「お父さん、娘さんをボクのお父さんに下さい!」
ギャルに土下座され懇願されているお父さんと呼ばれた男性は⋯⋯江戸川 勉。土下座しているのは彼の娘カリンの親友で、幼なじみの同級生ミココちゃんだ。ミココちゃんは勉の住む家の隣に引越て来てから、家族ぐるみで仲良くしている。見た目はギャルだが、ボクっ娘だ。
「ミココちゃん⋯⋯意味がわからないし、こんな所で土下座とか困るよ」
勉の妻良子は奥様会の会合だ。ミココちゃんのお母さんと一緒にウキウキ楽しそうに食事会へと出かけている。娘のカリンはアルバイトだ。
昔なら家族の留守に娘のようなミココちゃんがやって来ていてもおかしくはなかったが、今はあらぬ疑いは避けたいと勉は思った。
久しぶりの静かな日曜日の休日。ゆっくり身体を休め、昼ビー行っちゃう? 勉はそう思いついてニヤニヤとしながら、冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出そうとした。その時、ミココちゃんが急に台所に現れたのだ。
「お願いします、娘さんをボクのお父さんに下さい」
フリーズして困惑する勉に、ミココちゃんは再び同じセリフを繰り返し、深く頭を下げた。
「まず意味がわからない。カリンはミココちゃんと同じ年齢、同級生だぞ」
勉が言うまでもなく、一緒に学校へ行き、よく一緒に遊んでいるはずだった。
「知ってますよ〜そんなこと。お父さん、ボクのことバカにしてます?」
ふわふわの金髪ポニーテールを揺らし、冷めた目線で土下座体制で勉を睨む。ポッキリと心が折れそうになるくらい眼光がキツイ。
ギャルになっても、娘のカリンもミココちゃんも優しい良い子なのは変わっていないはずなのにシチュエーションが悪いと勉はあたふたする。
「⋯⋯とりあえず座って。麦茶飲む? 落ち着いて、わかるように説明してくれないかい」
カリンよ──早くバイトから帰って来てくれと願いつつ、勉は冷えた麦酒を諦め、作り置きの麦茶を用意する。窓を開け放ち、世間へのアピールも忘れない。
「それで、娘がカリンではないのなら娘って誰? ミココちゃんのお父さんムッキムキダンディマッチョな公務員だよね」
ミココ家は、家族一人一人の情報量が多い。お父さんは健在なのに、お父さんを欲しい意味がわからない。懇願する理由の情報は足りない。
前歯がキラリと光そうなナイスガイなミココのお父さんとは、勉自身も仲良しだから、喧嘩したのなら仲を取り持つくらいはするつもりだ。
「だから違うってば。娘さん⋯⋯いるでしょ? ベンゾーさん」
食卓のテーブルに座り、ニヤッと微笑むミココちゃん。悪い企みをする表情は娘のカリンとそっくりだ。
「⋯⋯どうしてその名前を知っているのかね」
勉の様子が急に落ち着き、声のトーンが一段下がる。家族にもご近所さんにも、勉のもう一つの顔、その名を知るものはいなかった。
ユラリと立ち上がった勉は、開けた窓をピシャリと閉めた。誰にも知られるわけにはいかない。たとえ可愛い娘を失う事になっても。
「それ。そのシーンってマリンと秘密を共有するとこでしょ」
「⋯⋯!!」
「キャハハ、そのリアクションまでおんなじだし。カリンに後で教えてあげよっと」
「えっ、カリンも知っているのかい」
「モチ。だって話のモデル、まんまボクん家だもん」
勉はがっくりと膝を落とした。家族に内緒にしていた密かな趣味が、よりによって実の娘たちにバレていたのだ。
「この事は良子たちは⋯⋯」
「知らないと思うよ。お母さんたちは大人向けがメインだし、ボクのお父さんはイケマッチョじゃん?」
思わぬ形で思わぬ情報を知った。それでようやく勉も理解した。「娘さんをボクのお父さんに下さい」の意味を。
「娘を⋯⋯マリンをお父さんにって、いったいどうする気なのだ」
震える声で勉は尋ねた。初めてついたブックマーク、⋯⋯れが二つもついて喜んだ時間を返して欲しいと思った。
「ほらTSだよ、TS。流行ってたっしょ? マリンのキャラはおっさん臭いから、ボクの作品のお父さんに転生させてほしいの」
勉は、TSの定義をよく知らない。ミココちゃんは律儀で丁寧だが、勉の目はジワジワと涙が溢れて光る。隠し事が見つかってしまったうえに、面白いと思ったキャラが、おっさん臭いと言われたからだ。
「いや、逆だって。あんなにおっさん臭い描写山盛りな娘、見たことないし。ボクのお父さんになれば、売れるかもよ?」
お母さん達にも相談しようかなぁ〜などと、悪魔の囁きが勉の耳に届く。
「⋯⋯わかった。娘はミココちゃんにやろう」
娘を嫁に出す時の、気持ちはこんな感じになるのだろうか⋯⋯勉は、複雑な気分になる。
想像上の仮の娘とはいえ、娘が嫁に行くのではなくてお父さんになる⋯⋯それも複雑な気持ちをかき回す一因だった。
バイトから戻って来て、勉の娘マリンについて一悶着起きた。カリンも自分の話作りに勉の娘を欲しかったようだ。
娘を取り合う娘と娘のような二人。嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちで、江戸川家の⋯⋯勉の休日は、和やかに過ぎていったのだった。
【しいなの感想】
複雑すぎる……(*´ω`*)