Ajuさまはお父さん
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電話が鳴った。
誰? こんな夜中に‥‥。
そう思いながら、寝ぼけた頭で受話器を取る。
「あ、お父さん‥‥。」
父は消防団の団員だった。
「もう年なんだし、辞めたら?」
とわたしが言っても、父は続けていた。
「年だからこそな。人様の役に立っていられるのは元気の元なんだよ。頭は若いもんに譲って、俺はしゃしゃり出てねぇから。」
そんな父は、あの震災の日も人々に逃げるように呼びかけて広報車で走り回っていた。
そして‥‥。
大きな波が、そんな父を呑み込んでいった。
今も、父は「行方不明」のままだ。
「お父さん。今、どこにいるの?」
『近くまで来たからな、ちょっと寄った。元気そうで、なによりだ。』
それだけを言って、電話は切れた。
窓の方を見ると、カーテンの隙間、ガラスの向こうにふわふわと漂う蛍のような淡い光が見えた。
その時になって、わたしは自分が持っているのがインテリアとして置いていただけの昭和の黒電話だったことに気がついた。
了
【しいなの感想】
ハートフル・ホラー(*´艸`*)