クレイジーエンジニアさま
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題名「トラック会社に新技術の導入は難しいようです」
大型トラック6台保有の小規模運送会社【西椎名物流株式会社】に、一人の怪しい営業マンが現れた。
「ごめんください。【株式会社無謀工作研究所】より、運送会社向けの新技術の営業に来ましたー」
法改正による勤務時間制限やドライバーの人手不足問題など運送会社の経営に逆風は吹いているが、お構いなしとばかりに相変わらず荷主からの値下げ要求は厳しい。
何らかの手を打たないと、孫請けの仕事でしのいでいる会社の未来も危うい。
会社名が明らかに怪しかったが、社長は男の話を聞くことにした。
「えー、弊社はですね。ビジネスがAIに向けて加速する時代に、顧客から見ればコストぐらいしか選ぶ条件のない絶望的な低付加価値産業である運送会社が生き残るためのITでDXでGXなアイテムを開発しております」
応接室に案内された男は業界に対して喧嘩売ってるようなことを言い出したが、あながち間違っていない自覚はあるので社長は殴るのを我慢した。
「イロイロ持ってきましたが、今オススメなのはコレ。【イチキシマヒメのネクタイ】」
男が鞄から取り出したのは、ベージュ生地に金糸で美しい女神の刺繍が施されたネクタイ。
「なかなかいいネクタイだが、それに何かセンサかコンピューターでも仕込んであるのか?」
「電気的なモノは入っていませんが、商売と交通安全の女神の加護が宿っています。コレを着用している相手に原価割れな値切り交渉をすると、恐ろしい幻覚を見る作用があります」
「いや、そういうオカルトアイテムじゃなくて、使える物を紹介してくれ」
「わかりました、次は、【全天視界型トラック用コクピット】です」
男が出した資料には、アニメに出てくる巨大ロボットのコクピットのように改造された運転席が描かれていた。
「大型トラックの死角を補う仕組みと言うのは分かる。でもやりすぎだろ。全周囲見えるのはいいけど上とか下とか意味ないし。そもそも車検通るのか?」
「残念ながら今の【道路運送車両法】に適合していないので公道は走れません。法改正のためのロビー活動はしているのですが、あ、でも鉱山やトンネル工事での坑道内作業車用として引き合いありまして」
「ウチは私道や鉱山の仕事は無いんだ。公道で使える物を紹介してくれ」
「分かりました。では、今度はトラックドライバーの悩みを解決するアイテムです」
次に男が出したのは、自由に動く台座のついた投光器のようなもの。上部に小さなカメラもついている。
「なんだこれは。ライトじゃないよな。変な物つけたら車検通らなくなるんだぞ」
「コレは【煽り運転車両自動迎撃システム】です。後方で危険な動きをする車を検知したら全自動で運転手の眼球に強力な赤外線レーザーをぶち込みます」
「あかーん! 煽り運転は悩みではあるけど、危害加えるような事したら普通に捕まるだろ! 今はドライブレコーダ装着車も多いんだぞ!」
「そうですね。ではまずドライブレコーダから潰すような機能が必要ですね」
「違う! 通報だ! 公道を戦場にするお前さんの会社は業界の敵だ!」
「ごめんなさい! 通報は勘弁してください! まじめにやります!」
「チャンスはやる。次危険思想なブツを出したら即通報だからな」
「ありがとうございます。がんばります」
男は鞄から大量の資料を取り出した。
「【仮眠中運転手寝顔遠隔観察システム】!」
「没! 誰得なんだ! 運転手のプライバシーを侵害するな!」
「【便座内蔵運転席】!」
「没! お前は便座に座って仕事できるんか!」
「【トラック近くで遊ぶ子供怒鳴りつけシステム】!」
「没! 確かにトラック下に入りたがる子供は注意しないといかんけど、驚いた子供が道路に飛び出したら本末転倒だ!」
「【ラジコンカー的遠隔操縦システム】!」
「没! ニーズとしては正当だけど【道路交通法】と【道路運送車両法】に適合させてから持ってこい!」
男と社長の戦いは随分長いこと続いた。
…………
資料の散らばる応接室に、疲れ切った男二人。
「……そもそもお前、トラック乗ったことあるのか?」
「ありません……。大型バイクとクレーン車ならあるんですが……」
「お前さんの運転経歴が気になるが、もうちょっとマトモな物はないのか?」
「あとは、【走行振動からハブ周りの異常を検知するセンサ】と【ヤモリ型全自動窓掃除ロボット】ぐらいしか……」
「それだよ。そういうのでいいんだよ……」
自動車の運転。自動化できそうでなかなかできない仕事。
社長と技術者達の葛藤はまだまだ続きそうです。
めでたし めでたし
【しいなの感想】
笑いました(*´艸`*)
全天視界型トラック用コクピットにカーテンはつけられますか?
仮眠中運転手寝顔遠隔観察システムは……もう、つけられてます。
便座内蔵運転席は欲しい(*>_<*)ノ