ミントさま
ミントさまhttps://mypage.syosetu.com/2310203/
「世界はなぁ、大型トラックでできてんだよ」
酔っぱらった親父が、いきなりそんなことをのたまう。
「この世の全てはなぁ、大型トラックが支えてるんだよ。精密機械の部品でも、ヒーローヒロインの必須アイテムでも、ご家庭のトイレットペーパーでも、ドナドナされる悲しそうな家畜でも。運ぶのは全部大型トラックなんだよ、だから世界は大型トラックでできてんだよ」
「いや、そうはならねーだろ」
酒臭い息でくだを巻く親父にそうツッコむが、親父は続ける
「考えてもみろよ、大型トラックがない世界を。ありとあらゆる物流が止まり、生活は荒れ人々は疲弊する。やがて争いが起こり、互いが互いを憎しみ合い、そうして人類は滅亡するんだぞ。大型トラックはそれを防ぐ、神々のアイテムなんだよ。神が人間に遣わした、救世主で英雄で最終兵器なんだよ」
「最後、『兵器』って言っちゃってるじゃねーか。平和から最も程遠い単語使うなよ」
完全に出来上がっている親父はそれでも、「わかってねーなぁ」とくどくど言い続ける。
「平和ってのはAIが自動生成してくれるものじゃなくて、努力し維持しなきゃ作れねーもんなんだよ。その裏には大量のドライバーがいるんだよ。当たり前の日常を可能にするのは、当たり前のようにいる大型トラックたちなんだよ。つまり、人々は大型トラックにもっと敬意を表すべきなんだよ」
「だからって、なんで大型トラックがその代表なんだよ……」
軽トラとかバイクもその括りに入れるべきだろ。
そう考えてしまう俺もだいぶ親父に毒されているが、アルコールに浸かりきっている親父はそれでもまだまだ止まらない。
「大型トラックはなぁ、キツイし大変な仕事なんだよ。ちょっとの遅刻がドミノ倒しみたいに大勢の人間に迷惑をかける、下手すりゃ何十人もの命を奪う大事故を起こす可能性だってありうる。そんなプレッシャーの中で大型トラックの運転手は常に戦ってるんだよ、運転業務は常に戦争、道路は戦場なんだよ。世界中のトラック運転手はみんな、誇り高い戦士なんだよ」
平和に似つかわしくない単語のオンパレードじゃねーか。
俺は呆れつつ、眠気が回ってきたのかウトウトし始める親父の周りを片付け始める。
毎日のアルコールチェックのため、そして自分自身の安全のため滅多に酒を飲むことのない親父。こうやって酔っぱらう姿を見るのは久しぶりだ、それだけ今日という日――母さんの命日は特別な日なのだろう。
ついに眠りこけ、むにゃむにゃと寝言を零す親父に俺は毛布をかけてやる。
「いつもありがとな、親父」
世界が大型トラックでできているかどうかは知らないが、我が家は親父の大型トラックのおかげで回っている。
その事実に素直に感謝し、「誇り高い戦士」である親父に俺は敬意を払うのだった。
――了――
【しいなの感想】
実際にそういうことを言うオヤジはいる(*´∀`*)