表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瞬発力企画!  作者: しいな ここみ
第八回目『間取り』
103/132

クレイジーエンジニアさま

クレイジーエンジニアさまhttps://mypage.syosetu.com/2519094/



題名「間取りの決定権は力関係により決まるようです」


 第二次世界大戦終盤の1945年2月。勝利の見通しを立てた連合軍は戦後の敗戦国の処遇を決めるための秘密会談を行った。

 そして、その会談では戦後の国際社会の枠組みも決定され、戦勝国の利害関係を最優先とした形で世界中の勢力の境界線が引かれた。


 強い軍事力を持ち戦争に勝利した国々の意向により、戦後における地球上の【間取り】は決められたのである。 


…………


「ヤルタ会談ね。歴史の教科書にも書いてあるわ。でもそれ今関係ある?」


 つい思い付きで目の前にいる妻のSNSに微妙に教育的なメッセージ送ってしまった俺は、結婚1年目にして妻にマイホーム購入を迫られているサラリーマン。


「いや、間取り決めて手付金払ってきたとかいきなり言われたから、つい敗戦国気分でぼやいでしまった」

「戦争してないでしょ。それとも、間取り気に入らないの?」


 妻が持ってきた住宅関連の大量の書類。その中にある間取り図。

 平屋で6畳の和室と掃き出し窓が3枚に分かれた18畳のリビング。

 広めのキッチンと普通に風呂とトイレ。


 シンプル過ぎるが、細かいことを気にしなければ普通の家だ。価格帯についてはあんまり詳しくないけど、俺の給料でも手が届くぐらいの価格。

 パッと見て好物件だとはおもう。


「うーん。間取りはいいんだけど、建てるならライフプランに合わせて、こう、考えたかったなぁ……」


 返済に長期かかるマイホームを買うんだから、建築の人と相談してちょっとしたカスタマイズ設計とかロマンがある。


「そこはゴメン。新築だけど、コレ新築じゃないのよ」

「え? どういう事?」


 いや、本当に意味が分からない。組み立てキットが届いて自分で組み立てる系のログハウスか? 俺工作得意だけど、そこまでできないぞ。


「ローン組んで注文住宅建て始めたところで東京に異動になっちゃった人が居て、建設途中だけど引き取り手を探してた物件なの」

「なんじゃそりゃ。よくそんなの見つけたな。それでちょっと割安なのか」


 社内でも結婚したり出産したり家買ったりした直後に遠方に異動になる例はたまに聞く。ローン残っているうちは物件名義が銀行になる関係で借家にするのも難しいから、気の毒だなぁと思ってはいた。


「タイミング的には気の毒だけど、異動自体は栄転で年収は増えるそうよ。だから支払い済みの頭金は損切りでいいって。おかげで割安で買えるわ」

「なるほど」


 そういう理由なら、相談なしで手付金払ってきたというのもまぁ分かる。

 どうやってこんな物件を探り当てたのかは分からないけど、そこは気にするまい。


「頭金は私の独身時代の貯蓄全額で2割ぐらい。アナタの貯蓄をどのぐらい割り当てるかだけど、あるだけ払えばローンは10年~15年ぐらいで終わりそうよ」

「うーん。好物件だなぁ。でも、この間取りはどういう考えでこうしたのか気になる」


 注文住宅の割にはシンプル過ぎる。

 リビングを削ってでもせめてもう一部屋とか欲しくないか?


「それも聞いてみたわ。リビングに壁を増設することで3部屋にもできるんだって」

「なるほど。それで掃き出し窓が分かれててドアが複数あるのか」


 状況に応じて間取りを変えられる設計か。


「子供の数とか住宅購入時点じゃ読めないことも多いから、イイ設計だなって思って」

「確かに。よく考えられてるな。先の事を考えると平屋ってのもいいな。子供の転落事故とか恐いし」

 

 勢いだけどこの物件は買いだな。

 でもそうなると気になることもあるなぁ。


「どう? 契約していい?」

「この家は買いだと思う。でも、俺が異動になった時はどうするかな」


 家買ったとたんに辞令って言うのは俺の会社でもたまにあるからな。

 海外勤務だってあり得る。そういえば北米に居る出世コースなアイツは元気に暮らしてるかな。


「それは大丈夫よ。私には伊邪那美いざなみ様の加護がついているから」

「何だそりゃ? まぁ、お前が大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうけど」


 確かに妻は強運だ。社内恋愛で交際始めてから俺も何かとツイている。


「じゃぁ、山崎家マイホーム計画進めちゃいますか」

「おう。詳細は任せるから、進めちゃってください」


 妻の旧姓は高橋。

 際立って美人というわけでもないけど、朗らかな雰囲気と柔らかい人当たりと、たまに発揮する強運で俺に幸せを運んでくれる。最強のパートナー。


 世界の間取りも、家の間取りも、人生の間取りも、力関係で決まる。

 生きる力が強い者が未来を決める。

 その方が幸せになれるんだろう。

 俺はそう思う。


 めでたし めでたし



【しいなの感想】


高橋は強し!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ