ep.90 未熟な黒の幼体
葉月、凛貴丸、桜華の3つの光は霧散して消え、静寂が戻って来る。
見方が変われば物の善悪は変わる。自分達の正義を貫くために鬼の討伐に挑んだ人と呼ばれる存在と、人の心を持ちながら人と敵対することで被害を最小限に抑えようとした鬼と呼ばれた存在。その根源にあるのは生への執着、死への恐怖だった。自分が生きていく為に相手の命を喰らう。それは至極当然の事だろう。誰しもが人の命を上に立つことでしか生きられないのだから。
消えゆく光を見送り、カミルは黒竜ニグルヴァーパレスの所在が気になっていた。
葉月達が何故大樹を拠点にしていた理由を考えればすぐに答えが出る。黒竜はこの場にいるんだ。
離れた位置で天へと伸びる大樹へと視線を向けた。
幼体って言っていたからには、そんなに大きくはないはずだ。居るなら鬼に守られていたあの大樹の中だろう。この場に黒の元素が薄い理由も、幼竜が元素を吸い続けた結果というのなら納得もいく。
「考えることは同じか」
ジンムがカミルと並び立ち大樹を見つめる。
「居るならあそこしかありえませんよ。皇国軍が森を探索しているんですから、唯一探索しきれてないのは深部であるこの場だけです」
「なら話が早い。行くぞ」
カミルを促しジンムは大樹へと歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってください!!私達は疲弊してまともな戦力と数えられません。一度体制を立て直しましょう」
アリィは慌てて進言するも「お前達はそこで休んでろ。カミル・クレストがいればそれで十分だ」聞く耳も持たず大樹へと歩いていく。
ジンムが駄目ならばとアリィはカミルを説得しようと試みる。
「相手は幼体とはいえ、黒を司る竜ですよ!?わざわざ渦中に飛び込む必要はありません。貴方は軍属ではありませんから断ったっていいのですよ」
必死に縋るアリィには畏れの表情が浮かんでいる。下手に藪を突く必要はないと必死に訴えかけてくる。けれどカミルは首を横に振る。
「こればかりはヒカミ総司令の言葉に賛同なんですよ。俺にとって竜は畏れる存在ではありませんから」
怨竜や鉱竜、黄竜オミナムーヘルさえも退かせた蒼き輝き――蒼気が竜に対して絶大な力を発揮することを確信しているカミルは、アリィの言い分を否定する。
可笑しな発言をするカミルに、アリィは顔を歪ませた。いつもの怜悧さは鳴りを潜め、ただただ信じられないものを見たとばかりにゆっくりと首を振りカミルへと詰め寄った。
「理を司る存在に挑もうなんて烏滸がましいだけです!!」
見かねたカナタが「まあまあ」と間に割って入る。
「アリィに奥の手があったように、俺にもあるんですよ。奥の手ってやつがね」
その自信に満ちた態度が余計にアリィを困惑させる。
「……勝てる見込みはあるんだろうな?」
「十中八九はやれますよ。あとは運です」
カナタはカミルの目を見つめ決心する。
「行ってこい」
「シドウ太極騎士!?」
アリィの非難の目がカナタに注がれる。
「なにをやっている。さっさと来い」
「今行きます!!」
ジンムに答え、二人に「行ってきます」と告げ大樹へと駆けて行く。
「ちょっと!!カミル!!」
アリィは動けなかった。疲れ切った身体が邪魔をする。空しくカミルの背に伸びた手が宙を漂った。
「確信を持って言い切ったんだ。信じてやれよ」
遠ざかるカミルの背中を、期待と不安が入り混じった感情のまま見送った。
「こいつをくれてやる。お前なら使いこなせるはずだ」
ジンムは右耳の丸鏡のイヤリングを外すとカミルへと手渡した。
咄嗟に受け取るも、使い方も知らないものを使いこなせるというのは不可解だった。
「これって、何の効果があるんですか?」
「お前に資格があるのなら応えてくれる」
「??」
資格って何のだよ……。
的を射ないジンムの返答にカミルは困り顔を浮かべた。
この手のタイプの人って、聞きたいことを答えてくれないんだよな……。何考えてるかもわかんないし……。でも、帝国に戻る手段を知ってそうな節もあるし……、無下にすることもできない。
悩むカミルは、思考を捨てることを選択した。
使えるかどうかは置いといて、一応左耳にイヤリングを装着する。
大樹の前にたどり着くと、ジンムが天へと伸びる幹を伝い視線を上げていく。無数に分かれる枝の中心点、そこに狙いを定めた。
純白の内反りの剣を引き抜くと、刃に極光が溢れ出す。
自分の身の振り方ばかり考えていたけど、ヒカミ総司令のこと、俺は何も知らないんだよな。烙葉の重力さえ跳ね返す謎の力、今回の一件が終わったらじっくりと話を聞いた方がいいかもしれない。
ジンムは剣を空へと掲げると言葉を紡ぐ。
― 我は白を纏う者也 天より降り注ぐ輝きよ
極光と混ざりて 白の極致へ至らん 照らし出せ ルノアール ―
剣に纏う極光が空へと昇り、白の元素を取り込み虹色の光の玉を生み出した。降り注ぐは浄化の光。大樹に阻まれカミルの下までは届かないものの、その圧倒的な光の密度に周囲の気温が上昇していく。
暖かい。直接光に触れていないのに白の力を色濃く感じる。
「白の密度を高めても出てこんか。ならば―――」
極光が収束し、大樹に七色の光の柱が突き出し直撃する。そこから「グギャァァァッ!?」甲高い鳴き声が響き渡った。
「当たりだな」
何かが枝葉にぶつかる音が鳴り、その中にバサァ、バサァ、翼で羽ばたく音が交っている。光の極致魔法ルノアールの影響か、高度を上げずに大樹の影の中を飛び、小さな黒竜ニグルヴァーパレスが姿を現した。全長5~6mほどの線の細い体形をしている。鋭く伸びる爪は他の色の竜の倍の長さを誇り、角と翼が刃のような鋭さを持っているのが特徴的だ。
こいつが黒竜か……。皇国に禍を呼び、多くの者に死を与えた元凶。今まで見てきた六色の竜とは大きさがまるで違う。幼竜と呼ばれた黄竜オミナムーヘルよりも更に小さな姿だった。
徐に右手が黎架の柄に伸びていた。
険しい顔をしているカミルに、ジンムは「殺すなよ。こんな竜でも黒の乱れを正す存在だ」釘を刺す。
「わかってますよ。エンディス大陸から追い出すだけです。黒が豊富なルナーナ大陸辺りにでも行ってくれれば楽なんですけどね」
黎架を抜刀し、黒竜へと構えた。
カミルとジンムが戦闘態勢に入ると、ビュンッ、緑の元素が閃いた。カミル達と黒竜の中間点に緑の元素の塊――風を纏う緑色をした矢が地面に突き刺さっている。
「ニグルヴァーパレスは殺らせないよ」
少女の声が響いた。その声に、カミルは聞き覚えたがある。
声がする方に視線を送ると、そこには2つの人影があった。金髪碧眼の長い髪を靡かせ、無垢のワンピースとパンプス姿のエルフの少女と、金髪をポニーテイルにした無表情のエルフの男性――カミュンとハロルドが現れた。
「カミュン……、ハロルドさん……」
六色の竜のいるところに二人はやって来る。彼女らがここにいるのは必然なのだろう。
ジンムはギロリと二人の存在を睨みつけた。
「竜の巫女か。殺るつもりなんか毛頭ない。ただ、この場から追い出すだけだ。お前達が口を挟むことではない」
「日神、貴様こそ控えるべきだろう?これは我々の領分だ。約束を違えるか?」
ヒカミ総司令とカミュン達は面識があるのか?にしては、険悪な雰囲気だ。
「元凶がその蜥蜴と分かった以上、捨ておくことはできん。我が領域を侵しているのだ、当然の権利だろう」
「ニグルヴァーパレスはまだその力を上手く扱えないの。だから大目に見てあげて」
カミュンが訴えるも「国民を食い散らかした存在だ。擁護はできんだろう」ジンムは一切引く気はないらしい。
「お前達がどこかに連れて行くのであれば関知はせぬが、どうだ?やれるのか?」
カミュンが黒竜に視線を向ける。だが、すぐに首を横に振る。
「動く気はないみたい。私達も竜達の意思を曲げることはできないの……」
「ふんっ、ならば退け。力ずくでも追い出すしかあるまい」
ジンムの剣に光が集う。
「布都御魂か。抑えるのは厄介だな。カミュン、構えろ。あの剣の前では手加減などできん」
ハロルドが交戦の意思を示したことで場の空気が張り詰めた。
「ハロルドさん、俺言いましたよね?竜が立ち塞がるのであれば叩きのめすと」
胸のペンダントから蒼気が溢れ出した。カミルの身体を覆い、対竜の力をその身に宿す。
「カミル!!やめて!!」
カミュンが必死に訴えるも、鼻で笑い一蹴する。
「黒竜のせいで計り知れない被害者が出ているんだ。今すぐ移動しないっていうなら、戦うしかないだろう?」
これはばかりは譲れない。烙葉達がいなくなった今、新たな手駒を生み出す可能性はゼロじゃないんだ。甘い判断は許されない。人々の生活を取り戻すには、黒竜が邪魔なんだ。
唐突に黒の元素が膨らむのを感じ取る。
反応を追ったその先にいたのは、黒竜だった。口を開き、その先に黒い塊が蠢いていた。
攻撃される、そう認識した瞬間に濃密な黒の元素の塊が放たれた。
穢れを含まぬ純粋な黒の力が頭上から落ちてくる。
「衝波斬」
黎架が振るわれ魔力が蒼気を纏う斬撃となりて飛び出した。落ちて来る黒の塊を喰らい、奪った元素の力で一気に巨大化する。
「駄目ッ!?」
カミュンの叫びに呼応するかのように黒竜が羽ばたき、巨大化した衝波斬を躱した――かのように思われた。
斬撃の軌道が曲がる。黒竜を追尾し、双翼の左翼の半分を喰らい世界へと還元されていく。
「あぁ……」
カミュンの声は消えてしまいそうなほどか細く弱弱しい。
やっぱりそうか。
理外の力である念動力の応用。圧縮魔力を用いた衝波斬は、念動力を発動させられる条件を満たしていた。そうであるのなら、操れない道理はない。カミルは確信する。蒼気と念動力の相性の良さを。
片翼の半分を失った黒竜は、飛行に影響が出たのか高度が徐々に下がって来る。
カミルは視線をハロルドへと向ける。
「先に手を出したのは黒竜ですよ?」
「………」
カミルの言葉にハロルドは何も言い返せずにいる。
「もう片翼もやればどっか行ってくれますかね?」
「駄目ッ!!」
間髪入れずにカミュンが否定する。
カミュンが騒ぎ立てている間にハロルドは思考を巡らせていた。
竜を討てるほどの力に布都御魂、何とも間が悪い。争えば確実に黒竜に被害が出る。しかも、黒竜自身には此処を動く気が無いときた。黒の元素で釣っていくか?
ふっ。浅はかな考えに自嘲した。
奴らの望みはエンディス大陸からの排除だ。仮に釣りに成功したところで、広大な大地を進み海を渡れるはずもない。そもそも多少の元素で釣れるとも思えんな。
「カミュン達が現れたってことは、すぐ近くで鬼人との戦いを窺っていたんでしょ?そこが一番気に食わない。黒竜の為なら人が死んでも構わないってことだよな?」
カミルの表情が怒りに染まっていく。
「そんなわけないじゃない!!」
「嘘は良くないな。本当にそう思っていたのなら、こんなにも人が死ぬ前に動いていたはずだ。二人にはそれだけの力がある。なのに何故動かなかったのか。答えは単純だろ?人よりも黒竜を優先したんだよ!!それが竜の巫女ってヤツなのか!?」
「違うッ!!……違うよ」
カミュンは否定するも、二人の持つ優先順位は人種よりも竜種が上位であるのは事実だった。
「そうだ。我らは世界の安定の為に六色の竜を優先せねばならん。多少人が死のうが、世界が滅びるよりもマシであろう?」
「ハロルド!!」
カミュンが睨みつけるも、ハロルドは意に介さない。
綺麗事を並べようが事実は変わらん。それなら無駄な会話などする必要はない。
「引く気はないってことで良いな?」
ジンムが光を纏い歩み出る。
「それは黒竜でにも聞いてくれ。俺らに決定権があるわけではない」
ハロルドの右手に緑の元素が集う。元素はうねり、形を変え2mほどの刀身を持つ直剣へと姿を変えた。
「そうか」
周囲に満ちる白と緑の元素がぶつかり合い、生まれた衝撃が大樹を騒めかす。
「竜を追い出そうとする者が元素を頼るとはな」
「ふんっ、生憎と我の輝きは白の元素由来ではないのだよ。輝きに引き寄せられ白が満ちるだけだ。それを利用しているだけに過ぎん」
睨み合いが続き「行くぞ」ジンムが動き出した、その時――世界は闇に閉ざされた。その中において一際輝く極光が闇の世界を照らし出す。単純に世界を闇で覆い尽くしたわけではないらしい。恐らくは固まっていた四人のみを覆うように闇が展開されたのだ。その証拠に、ジンムの放つ光は闇にぶつかり掻き消されている。空間の広がりがあれば光は進みエジカロス大森林の輪郭を浮かび上がらせたであろう。
ジンムは布都御魂を介して上級魔法ルストローアを前方へと放つも、闇に呑まれ消えていく。
「幼くとも色を冠する竜ということか」
ヒカミ総司令の魔法でも貫けない黒の結界か。でも―――。
「衝波斬」
横に黎架を振るうと蒼気を含む魔力の斬撃が闇を喰らい、黒の力は世界へと還って行く。極致魔法ルノアールの光がカミル達を再び包み込む。
「さすがは月読の力、と言ったところか」
「月読?ヒカミ総司令、貴方はこの力について知っているのですか?」
ジンムは怪訝な顔でカミルを見る。
「知らない?……そうか、そういう段階か。お前よりは多少知っている程度だ」
「お話し聞かせてもらえ――「ギュァァァァッ!!」」
会話の最中に黒竜が動き出した。ずいぶんと下がった高度から勢いをつけて滑空を始める。鋭い刃状の翼を前方に突き出し、身を縮こませて空気抵抗を最小限に抑えて加速、突進を仕掛けてくる。幼い竜とはいえ5~6mの大きさを誇る。その姿は撃ち出された巨大な槍。質量を最大限に活かした攻撃に、カミル達は飛び退き避けるしかなかった。
ゴォォォッ!!
低く唸る音と共に衝撃波が襲い、吹き飛びんだカミルは大地を転がる。
「黒竜は我らを殺りにきている。躊躇うな、その傲慢さのツケを払わせてやれ」
「そのつもりですよ」
転がる勢いを利用し立ち上がると、黎架に圧縮魔力を流し込む。
「やらせないよ!!」
カミュンの緑の弓から風を纏う緑の矢が放たれる。風に後押しされた矢は孤を描くことなく、真っすぐに加速してカミルの腕に向かって突き進む。
「情けを掛け過ぎだ」
ハロルドの手から風が吹き荒れ緑の元素を運ぶ。緑の矢に追いつくと、緑の元素が無数の矢を模りカミルとジンムに降り注いだ。
「ハロルド!?」
驚愕に震えるカミュンを他所に、ジンムが布都御魂を横一閃に振るう。
「つまらぬものを寄越すな」
極光が拡散する。ジンムの左耳の丸鏡のイヤリングが煌めき、光の防壁を形成した。
緑の矢の雨が防壁に触れた瞬間、矢の向きが反転。撃ち出した本人の下へと帰って行く。
堪らずハロルドは手を翳し、暴風を用いて矢を凌ぐ。
「殺れ」
ジンムの冷たく放たれた言葉に「はい」短く答え、黒竜の動きを予測する。
黒竜は突っ込んで来たのは良いものの、地上付近をホバリングし上空へと昇っていなかった。もともと、片翼を損傷したことで高度を下げてきていたのだ。幼竜の力では舞い上がることができなくなっている可能性が高い。
上空にいるのであれば衝波斬や魔法に月読を纏わせなければならなかったが、地上に近い場所であるなら別の選択を選ぶことができる。カミルが好んで使う突貫戦法を。
「駿動走駆」
圧縮魔力を以ってカミルは弾かれたように飛び出した。カミュン、ハロルドの焦燥を置き去りに、一息で黒竜に迫り、そして右腕と右翼の一部を喰らい、遥か後方で着地を決める。
「ギュァァァァァアッ!?」
血飛沫と悲鳴を上げ黒竜は悶えた。空を飛ぶことが叶わず、大地へと降り立った。
黒竜の悲鳴にカミュンは息を呑み視線を向ける。
右腕と翼が消えただけ!!まだ間に合う!!
「ハロルド行くよ!!」
黒竜の下へと跳ねるように移動し、黒の元素を傷口へと注いでいく。
追いついたハロルドもまたすぐに処置を施す。回復魔法を用いて腕と翼の修復を始めたのだ。
「させるかよ」
背後で響く声に、反射的に振り向いた。布都御魂が眼前に迫っている。咄嗟に緑の弓を間に挟むことで顔への直撃を免れた。それでも衝撃までは防げない。「きゃッ!?」短い悲鳴を上げながら派手に地面に叩きつけられた。
それでもハロルドは黒竜の回復を優先させている。仲間であるカミュンよりも黒竜を優先する姿に、ジンムは酷く嫌悪する。
黒竜の損傷した箇所は、透過はしているものの形状を取り戻している。完全に回復するのも時間の問題だった。
身体が無事なら大丈夫。あとはこの子を遠くに逃がすことができれば……。
一瞬の逡巡を経て弓を空に向けて構えた。
緑の元素が黒の元素を纏っていく。二つの元素は折り合い重なり合いひとつの力と成りて世界に顕現する。
これで駄目なら他に手が無くなっちゃう……。お願い、導いて!!
黒緑の矢が空に向かって放たれた。風に後押しされ、空高く一条の矢が彼方に向かい飛んでいく。
色濃く纏う黒の元素に黒竜が反応する。羽ばたき、矢を追い飛び立っていく。
黒の元素に食いついてくれた……。傷を負った影響が出ているのかもしれないね。……結果的にカミルには感謝しないといけないかも。
飛び去る黒竜を、その場にいる者すべてが見送った。正確には、ただ呆然と眺めることしかできなかったわけだが。
黒竜が去った……?
黒竜の下へ戻り始めていたカミルの足が止まる。月読の光も役目を終えたとばかりに鳴りを潜めた。
これでザントガルツは解放されたのか?黒竜が戻って来ることはないのか?
疑問は付き纏うも、考えても仕方がないことだと結論付けジンムの下へと歩き出す。
黒竜が去ったことでジンムとカミュン達の戦闘も止まっていた。少なくとも、エジカロス大森林には黒竜がいなくなったことで争う必要がなくなったのだ。
カミルが近づくと、三人の視線が集まった。つい先ほどまで争っていただけに、場の空気はこの上なく悪くなっている。黙っていても疑問は解決しない。答えてくれるかはわからないがカミルはカミュンへと問う。
「黒竜は国外に飛んでいったの?」
「わからないの。私はただ黒の元素を放っただけだから」
どうやら黒竜が飛び立ったのはあくまで黒竜の意思のようだ。カミュンは黒竜を守る為に矢を放った。狙い通りに動いてくれたのは偶々らしい。
「………最初からやってくれればよかったのに」
カミュンは俯き力無く答える。
「あれで動いてくれるなら、とっくにこの大地に黒竜なんて居なくなってるよ。今回は偶々、うぅん、カミルが黒竜に傷をつけたから動いたんだと思う」
「??」
カミルは言葉の意図が理解できずに首を傾げた。
「黒竜は深手を負い、黒の元素の補充が急務だったのだ。だからこそ、あの僅かな黒の元素にも食いついた。平時であれば、あんなものに食いつくわけがない」
ハロルドが感情を動かさず淡々と答える。
会話が止まり、居心地の悪い沈黙が訪れた。
でも、今ここで確かめなければならないことがある。カミュン達が人の味方なのかどうかだ。ハロルドさんはともかく、カミュンはこれまで友好的に接することができたと思っていたけど、今回の一件で信用など消え失せた。内心なにを考えているのかわからない。
「カミュン、ひとつだけはっきりさせなきゃならないことがある」
カミュンはカミルの瞳を見つめる。その瞳は不安げだ。何を聞かれるのかわかっているようだ。
「君たちは、人の味方なのか?それとも………」
言葉を濁す。口にしなくとも伝わるはずだ。
カミュンは目を伏せると、何かを決心したように小さく頷いた。真っすぐとカミルの瞳を見据える。
「私達は人の味方だよ」
思いのほか力強く明言してきた。曖昧に濁されると思っていただけに、カミュンの言葉は意外だった。
「でも、それ以上に世界の味方で在らなければならないんだよ。人が世界に仇名す存在となるのであれば、私達は敵になるかもしれないの。だから、私達の敵にならないでね」
カミュンは儚げに笑うのだった。




