ep.83 エジカロス大森林南部鬼掃討作戦4
― エジカロス大森林南部 深部入口 ―
精鋭部隊はついに深部との境界線に到達した。これまで馬を走らせてきた森の中で、圧倒的に空気が澄んでいる。黒の元素が満ちるエンディス大陸において、ここまで黒の影響を受けない土地も珍しかった。
リョウジ・ロクシマ ザントガルツ兵士長は進軍を止め、深部の中央を目指すのを翌日とすることに決めた。
「今日は深部に入らず、この場で野営します。明日、烙葉達と戦闘することになる。しっかり休んでくれ。見張り番の割り振りは、人数は減ったが昨日と同じだ。ザントガルツ、シキイヅノメ、傭兵で行ってもらう」
昨日に引き続き、カミル達傭兵班が最初の見張り番を務める。
再び焚火を囲い、必然的に話題に上がるのは明日に控えた烙葉達の討伐についてだった。
「クォルス、あんたは重力に対抗する術を持ち合わせているのか?」
「ほぼ無いに等しいが」
クォルスは左手の中指と薬指に嵌められた黄色の宝石の付いた指ををニステルに見せつけた。
「黄の元素に抗うことのできる指輪を2つ身に着けてはいる。土の極致魔法が重力を操ると聞く。ならば烙葉のあの力も同じ根源を持つんじゃないかという、根拠のない推測だがな」
「俺もそれは同意だ。重力の正体は黄の元素が関係していると睨んでいる。穢れを纏わせてくんのも、大方黄の元素関連だろうよ」
「お前は黄の元素に適性がありそうだが、何か考えはあるのか?」
「んなもん、出たとこ勝負しかねぇよ。黄の元素に耐性があったとして、本当に黄の元素由来の力かどうかなんてわからねぇし」
クォルスがカミルへと顔を向けた。
「お前はどうなんだ?凛童に対して不可思議な力を使ったと聞いたが」
「あの力なら当てにしない方がいいですよ。使ってる自分自身ですら良くわかってませんから」
蒼い輝きが何なのか、依然として掴めていない。確かなのは竜に対して発現するということ。この時代に飛ばされてから幾度か竜と遭遇し、その都度蒼き輝き――蒼気が発現している。凛童の時もそうだ。魔断の右手を失っていた時、竜の右手をくっつけていた。あれは凛童に反応したわけじゃなく、くっつけた竜の右手に反応していただけ、カミルはそう結論付けていた。
「少なくとも、鬼に対しては使えないものだと思ってます」
「そうか」
クォルスは僅かに表情を曇らせる。
「突破の糸口になれば、とは思っていたんだがな」
焚火がバチバチと弾け、しばし沈黙が場を支配した。
沈黙を破ったのはカミルだった。
「クォルスさんは元素の剣というものがどんな力を振るえるのか心当たりはありませんか?」
黎架を鞘抜くと、砲金色の刀身に焚火の炎の揺らぎが写り込む。
「ローリエンスさんの話では、この黎架が元素の剣、らしいというのがわかったんですけど、俺には元素の剣の知識が無く、どんな代物なのかがまったく想像もつきません。ただひとつわかっているのは、黒の元素を吸収する力があるということだけで……」
クォルスの鋭い眼光が黎架を見つめている。
「元素の剣は、本来戦闘用の武器として生まれたわけではない。元素の乱れを整える自浄の役割を担うものだ。その副産物がその色の元素への干渉力を上げるというもの。この世界に元素がある限り存在を失わない不滅の剣とされている」
「そんなものがどこで生まれたんですか?」
クォルスが首を振る。
「元素の剣が生まれたのは遥か昔、竜の時代だと言われている。私が知る由もない」
「そりゃそうですよね。そんな大層な役割を担うものだし、世界の成り立ちに大きく関わっていそうな……」
でも、自浄作用を担っているのは竜のはず。その補助をしているというカミュン達はそう言っていた。なら、この元素の剣はなぜ生まれたんだ……?いや、前提条件がおかしいか、竜の方が後に生まれた可能性だってある。……どちらかだけでは対応できず、追加で生まれたものなのか?
そこでふと気づく。
「あれ、不滅の剣なのに砕けたのは一体……?」
クォルスの間指ピクリと動く。
「砕けた?どういうことだ?」
黎架に関する事の顛末をクォルスへと伝える。
「―――魔剣というものが気になるが、砕けたというのがな……。本当に元素の剣なのか疑わしい」
訝しむクォルスは黎架を凝視している。
ニグル鉱石と怨竜の鱗が混じり、すでに純粋な形を失ってしまった。不純物が多く、本来あるべき元素の剣?の体をなしてなどいない。
「興味深くはあるが、今この場で結論が出るものでもあるまい」
「そう、ですね」
クォルスの知識を借りても黎架の――黒い日本刀の謎は解けなかった。
何の気なしにニステルの傍らにある槍に目が行った。
出会った頃から大事そうにしているあの槍、あれも名槍だったりするのかな?作りはしっかりとしてるけど、柄に多くの傷跡が残っている。
「ニステルのその槍ってどれくらい使ってるの?」
ニステルは槍を掴み、カミルの前へと翳す。
「これか?これは親父の形見なんだよ」
槍を見つめる目は過去を懐かしむ優しいものだった。
「俺の親父は王国の副兵士長だったんだ。竜討伐の任務に赴いた際死んじまったがな。その親父が残した槍なんだ」
「そうか、それはベレスの槍なのか」
クォルスはかつてベレス・フィルオーズと面識があり、共に鬼を退治した間柄でもある。
「この槍は、親父がジスタークの鍛冶職人に頼み込んで作らせた業物なんだよ。だから年季が入ってんだろ?」
槍について語るニステルは、いつもより饒舌で穏やかだ。
「槍の名は『シャナイア』。死んだ御袋がシャクナゲって花が好きでな、家の庭にも植えられてんだ。花の名前を文字ってシャナイアって名付けたらしいんだぜ?笑っちゃうよな。文字の雰囲気しか似てねぇって」
両親の話をするニステルの表情は柔らかい。自分でもそのことに気付いたのか「ごほんっ」わざとらしい咳払いを挟んだ。表情を引き締めたつもりなんだろうが、頬の緩みは消えていない。
そんな微笑ましいニステルの姿をカミルはいじることもなく、ただ耳を傾けている。
「二人の剣のように特別な力は持ち合わせてねぇが、槍としては間違いなく最高レベルの出来だ。そこは保証する」
「いや、特別な槍だよ。だって、その槍で戦うからこそ身が引き締まって実力を十分に発揮できてるんでしょ?なら、ニステルにとっては他に代えの利かない特別な槍ってことじゃん」
カミルの発言が意外だったのか、ニステルは呆けてカミルを見つめる。少しして口角がニッと上がった。
「知ったようなこと言ってんじゃねぇよ」
いつもの憎まれ口も、今日は心做しか言葉が柔らかい。
「そんなの見てればわかるって」
「そうかよ」
二人のやり取りを見ていたクォルスが唐突に口を開く。
「過去に帰る手段は見つかりそうか?」
カミルはクォルスに顔を向けると、表情を曇らせ首を横に振る。
「まったく……。その為に皇都を目指してるわけだしね。最悪、竜の力がぶつかり合う時にできる歪みの穴に飛び込むしかないかも」
「あんな穴、早々できるもんじゃねぇよ……」
ニステルは呆れながら呟いた。
「歪み……、か」
クォルスの含みのある物言いにカミルが食いつく。
「何か心当たりでも?」
「まあ、酒場で隣の席から聞こえてきた話ではあるがな。ザイアス王国の南東に広がるストラウス山脈を越えた先に聳える霊峰クシアラナダ」
「霊峰クシアラナダ……」
「そこには少数部族の村があるらしい。そこで空間の歪みが生まれていたとか、皇国の学者らしき一団が談笑していた。行き詰ったら行ってみるのも一手だ」
噂話の類ではあるが、手掛かりのないカミルにとっては朗報である。
「ありがとぅ、クォルスさん。その学者さんってザントガルツにいるんですか?」
「いや、おそらくあの一団は皇都お抱えの学者だろう。学者で日ノ鳥――皇国の紋章が刻まれた勲章を身に着けることが許されているのは、国への貢献が認められた者のみ。研究機関があるのは皇都シキイヅノメだ」
やはり皇都に向かうのが帰る手段を探すのに一番適しているってことか。
「その学者を探してみます。やっと、光が見えてきた気がしますよ」
手探りで歩いてきた未来の世界。カミルとリアには不安しかなかった。ようやく自分達の時代に帰れる可能性が出てきたことに、カミルは胸を高鳴らせた。
「何だ?もう烙葉に勝ったつもりかよ。ずいぶん気がはえぇな」
ニステルの口ぶりにキレが戻ってきている。
「烙葉すら眼中にないか。フッ、こいつは大物か、はたまた愚者か」
クォルスまでもがニステルに感化され始めていた。
「間違いなく後者だろ」
「………、あぁ、もうっ!!好き勝手言ってくれちゃってさ~」
カミルは腕を組みそっぽを向く。
このやり取りもいずれ出来なくなる。心に引っ掛かりを覚え始めたきっかけの夜となった。
ドォォォォォオンッ!!
「敵襲だぁぁッ!!!!起きろぉぉぉおおッ!!」
けたたましい破壊音と男の叫びが森へと響いていく。
カミルは跳ね起き、まだ覚めきらぬ目で周囲を窺った。
森には依然として闇が落ち、視界の悪さが目立つ。焚火の炎だけが辺りを照らし出し、森へ人影を揺らしている。
幾つもの光の玉が飛び上がり、一気に視界が開けていく。
そこに蠢く無数の鬼。距離にして500mほど先。古めかしい皇国の鎧を身に纏い、剣や槍、弓を握り闊歩する。額には皇国の紋章である日ノ鳥が刻まれた鉢金が括りつけられていた。
闇の中現れた鬼は徒党を組むように集団で行動している。バランスの取れた集まりは、まるで軍隊を思わせた。
すでに臨戦態勢を取っているのはザントガルツの見張り番達。人が眠るであろう深夜を狙い、攻めてきたのだ。
「ちょっと待て!?あの鬼、武装してねーか?」
太極騎士カナタ・シドウは驚愕し、慌てて愛剣である大剣を構える。
「注目すべきはそこじゃないでしょーが。鉢金を見てみんさい」
コウキ・ナミシマ シキイヅノメ第4部隊長が注目すべき場所を伝えた。
「んん?あれは――。おいおい……、まじかよ。日ノ鳥じゃねーか!!」
「武装を鬼に纏わせた?1体1体に……?そんな手間なことをするか?」
リョウジは鬼共が武装している意味を思案する。
「紋章持ちってこたぁ、白の力、あんま効かねーかもしんねーですぜ?」
コーラル・ノーストリッジ ザントガルツ第1騎兵団長が進言する。
「ああ、わかっている。まずは試しに一手」
リョウジが鬼へと手を翳すと、直径20cmほどの光弾が生まれ射出した。まっすぐ鬼の1体にぶつかり霧散する。
その姿を確認し、リョウジは確信した。
「矢張り白への耐性が高いか」
光弾が直撃した鬼に目立った外傷はない。露出した腕や脚に若干の爛れはあるものの、鎧で身を固めた部位に変化はない。
「白の力の行使を禁止する。敵は数が多い。魔力を無駄にせず、白以外の力で鬼共を駆逐するぞ!!」
「いや、待て」
リョウジの指示にカナタが口を挟む。
「何だ、手短に話せ」
「ここでやり合っててもジリ貧だ。一点突破で突き抜けようぜ」
「何を言っ――いや、消耗した状態で烙葉と戦うのは危険か……」
「ああ、突破して烙葉の下へ向かう部隊と、この鬼を足止めする部隊に別けた方がいい。人選は指揮官のリョウジ、お前に一任する。お前達もそれでいいな?」
皆が一様に頷いた。
リョウジは僅かに悩むも、即座に決断する。
「烙葉に向かうのは、カナタ・シドウ、コウキ・ナミシマ、クォルス・ダーダイン、それと私、リョウジ・ロクシマだ。少数で申し訳なく思うが―――」
鬼の群れへと視線を移す。
「あの群れの数は異常だ。少数では対応できん。ミシマさん、足止め部隊の指揮をお願いします」
「了解しました」
「決まりだな」
カナタは武器を収めると、焚火に水属性魔法で消火を行った。そのまま馬まで移動を始める。
カナタに倣い、各々が馬へと向かい始める。
「リョウジ」
クォルスが声を掛けると、皆が一斉に振り返った。
「カミルを連れて行く」
唐突なクォルスの進言に、誰もが驚き戸惑っている。
当の本人が一番困惑していた。
「なんでそんなの連れて行こうっての?こっちで足止めした方がいいって」
セイヤ・ミシマ イシキイヅノメ 第5部隊長が呆れたようにクォルスの意見に反対する。
「カミルの持つ黎架は元素の剣に近い性質を持っている。黒の元素を奪い、吸収することも可能だ。烙葉との戦いでも大いに役立つ筈だ」
『元素の剣』という言葉に一同は驚愕した。
「クォルスさん、それは本当なのですか?」
リョウジは怪訝な顔でカミルを見つめる。
「こんな時に嘘など言うものか。こんなとこで話してる場合じゃないだろ。馬に乗れ、鬼共は近いぞ」
クォルスに急かされ、馬へと騎乗する。
「カミル・クレストは烙葉の下へと連れていく。クォルスさんの言葉、信じますよ」
「ああ、行けばわかるさ」
否が応でも冷ややかな視線がカミルへと集まっている。
カミルを烙葉の下へ送ることに納得している者は少なかった。皇国軍の士官ということに誇りを持ち努力を続けてきた者達だ。どこの馬の骨とも知れない若造が、自分よりも貢献できるとはにわかに信じられなかったのだ。元素の剣という言葉も眉唾であり、それだけで納得できるものではない。それでも指揮官であるリョウジの決定には逆らえない。
なんかすっごい居心地悪い……。クォルスさんもクォルスさんだ。ここにいるのは士官級の軍人だから、俺なんかよりよっぽど役に立つはずなのに……。
「敵の中央を突破する。足止め部隊を先頭に縦へと突き進む。突破後、足止め隊は速やかに左右に分かれ、討伐隊の進路を確保。後は指揮官の指示で行動せよ」
鬼はすぐそこまで迫っている。鬼の兵士1体1体の表情までもが読み取れるほどだ。
精鋭部隊の面々の表情が引き締まる。
「全軍ッ!!突撃ぃぃぃぃいッ!!」
リョウジの号令を機に戦いの火蓋は切られた。
馬を走らせると同時に、騎兵団長であるコーラルとソラト・イサヌキ ザントガルツ第2騎兵団長が最前へと出ていく。どちらも主の武器である槍に魔力を集めると言葉を紡いだ。
「「破貫衝!!」」
言葉と共に槍が鬼を指し示し、魔力の塊が突貫力を持つ衝撃波となり放たれた。
二人の前方の鬼が破貫衝に呑まれ宙を舞い、後方に控える鬼ともども吹き飛んでいく。
生まれた鬼の裂け目に向かって2列となり馬を走らせた。
騎兵団長に続いてセイヤ、ニステルが走り、リョウジとカナタ、クォルスとコウキ、カミルが駆けて行く。
「「「「纏!!」」」」
足止め隊が腕を纏で強化し、迫り来る鬼を槍で、剣で斬り払い鬼の障壁を突破した。取り囲むように展開していたせいか、想像よりも厚さはなかったらしい。
「左右に展開!!」
セイヤの号令で足止め隊が左右に分かれ、討伐隊が森の奥へと駆けて行く。
カミルはニステルと目だけで「行ってくる」と合図を送ると、ニステルは頷きカミルを送り出した。
見渡す限りの鬼の壁に、ニステルは気合を入れ直す。
気を抜いたら一瞬で囲まれそうだな。はッ、上等じゃねぇか!!この場を乗り越えれば、また一歩親父に近づける。見せてやるよ、ニステル・フィルオーズの戦いをな!!
馬上でベレスの槍――シャナイアを一振りし構える。
「横一列に並べ!!一匹足りとも行かせんじゃねーぞッ!!」
セイヤの号令に「応ッ!!」気合の入った声で隊士は応える。
出し惜しみ無しだ。一気に数を減らして突破されるリスクを落とす!!
「剛気」
黄の元素が収束し、穂を黄色に染め上げていく。
武器を振り上げた鬼がニステルに襲い掛かる。
ニステルはシャナイアを一度大きく横へと引き、腕の力と遠心力を利用して横一閃でシャナイナを振り切る。
「槍縛磁叢!!」
一振りで3体の鬼を鎧ごと真っ二つに斬り裂き、別れた身体が後方の鬼を巻き込みながら吹き飛んだ。斬られた鬼を中心に周りの鬼がどんどんと引き寄せらる。それは槍縛磁叢よって齎された磁力を鬼の身体に付与したことによって発生している。触れた相手に磁力を持つ黄の元素をマーキングし、任意のタイミングで周囲の金属を引き寄せるのだ。金属製の武器や鎧を纏った鬼達は格好の的である。
鬼が集まった所で地面から無数の金色の槍が生え、鬼共を串刺しにしていく。
迫り来る鬼を、ひたすら槍縛磁叢で屠り続けた。
当然、鬼が命を落とせば黒い粒子となり、他の鬼に同化しより強力な鬼を生み出すこととなる。それでもニステルは手を止めることは無い。それはセイヤを始め他の隊士も同じだ。まずは数を減らさなければ突破されてしまう。強力な鬼が生まれようとも、数が少なくなれば足止めはできる。今はただ、一心不乱に武を振るうのみ。刃で斬られようが矢で射抜かれようとも、回復薬で補いながら持久戦に持ち込んだ。
奮闘が功を奏してか、大群だった鬼は15体の強力な鬼へと集約された。1体1体が強力な存在と成り、単純な力押しでは歯が立たずにいた。数は減ったものの、依然として気の抜けない状況を脱していない。馬もすでに息絶え、足止め隊は地上で鬼と対峙せざるを得ない状況に陥っていた。
セイヤは傷付いた仲間に視線をやる。
「おい、手数が少なくなってんぞ。もっと気張れや」
「はっはっは、そーいうミシマさんだってへばってやしねーですか?そんな汗びっしょりでさぁ」
汗で髪がべたつくセイヤの疲れた表情を見て、コーラルは皮肉った。かく言うコーラル自身もまた肩で息をしている。50半ば過ぎた身体では体力面で不安がある。
「何だだらしない。鍛え方が足らんぞ」
コーラルとそう歳の離れていないソラトはまだまだ疲れを見せていない。傷は絶えないが、その姿からは余力を感じさせる。
「おっさん共は休んでろ。俺が時間を稼いでやるよ」
18歳という、この中で最年少のニステルもまた体力的には余裕がある。
「「「誰がおっさんだッ!!!!」」」
無礼な発言に軍人三人の声が重なった。
「おうおう、おっさん同士仲いいじゃねぇか」
「黙れ口の利き方も知らぬ小童がッ!!」
コーラルは槍で鬼の攻撃を防ぎながら言い返す。
「槍華連衝散!!」
ソラトが槍に魔力を纏わせた高速の5連突きを繰り出し、鬼に風穴を生み出すと魔力が爆散し吹き飛ばす。
「若さだけが取り柄の小僧が生意気言ってんじゃねえ。俺のように結果で示しな」
はっ、ニステルは不敵に笑い、迫り来る鬼の足元を中級土属性魔法グラストで割り身動きを封じる。
その隙を逃さず部隊は鬼から距離を取った。
「どこに目つけてんだっての。あんたらより俺の方が倒してんだろ」
「なんだ?数も数えられんのか小童は。討伐数ならワシが一番だろ」
コーラルの穂が真っ赤に輝き、炎の斬撃が飛び出した。身動きを封じられた鬼の1体の胸に大きな傷跡を付け霧散する。
「おいおいおっさん。目でも悪いんじゃねぇのか?それとも頭か?」
「はっはっはっは。コーラル、本当のこと言われとんぞ。こいつはまともだ」
ソラトは爆笑し、ニステルの言葉を援護する。
「ソラト、てめぇこそ小童と同レベルなんじゃねーのか?何を見てやがった」
「くだらない言い合いしてんじゃねーぞ。どう考えたってオレが一番狩ってただろうが、よッ!!」
セイヤが剣を翳すと8本の炎の槍が生まれ、コーラルが炎で傷を負わした鬼に向かってすべての炎の槍が射出されていく。1本、2本、3本命中したところで黒い粒子化し、4本以降は奥の鬼を傷つけ黒い粒子と化し消える。残りは13体となった。
黒い粒子が残りの鬼を強化し、脅威度が増していく。残っている鬼は、黒い粒子を吸収すれど身体の大きさに変化はない。内に秘める力へと変換していた。あれだけの数の鬼と同化していれば、知能の高い鬼が生まれてもおかしくはないはずだが、言葉を介すこともない。セイヤは不気味さを感じずにはいられなかった。
「ミシマさんもそんなくだらない冗談言える口だったんか」
「親近感が湧くってもんよ」
セイヤは二人の言葉を無視し口を開いた。
「やはりこの鬼はおかしい。集中砲火で一気に仕留めるぞ!!後先考えるな!!やっちまえ!!」
様子のおかしいセイヤに、隊士達は今一度気を引き締め魔力を宝石へと注ぎ込んでいた。
その時、上空に濃密な黒の元素を纏う物体が落下してくる。
ドォゴォォオォオンッ!!!!
大地を揺さぶり、轟音が場を支配する。
土煙が立ち、落下してきたものの正体が掴めずにいた。
足止め隊の面々は、全身に悪寒を走らせ硬直する。
「そろそろ吾とも遊ぼうではないかッ!!」
ニステルは、その声が誰のものなのかすぐに理解した。
今回の最大の標的の内の1体。
土煙が薄くなり、黒髪のポニーテイルの美少年の姿が顕わになってくる。
「ははっ、このタイミングで来んのかよ……」
ニステルは目の前に現れた鬼に対して叫ぶ。
「ど畜生の凛童がよぉぉッ!?」




