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都市外戦闘訓練

 アルフから西へ移動した山脈の麓。俺達は都市外戦闘訓練のため、馬車を使い八十人規模で移動した。八十人と言っても、引率の教師、回復術師、冒険者パーティー含めての人数だ。一学年全体で行ってしまうと大所帯になってしまう為、SクラスとAクラス、BクラスとCクラス、二グループに分かれての実戦訓練になっている。SクラスとAクラスは先週すでに訓練を終えている。成績の良いグループで今年の訓練場の魔物の数を減らす役割もあり、期間をずらして行われるのが通例だ。

 山の麓まで行くが、木々が生い茂る森の中までは入らない。魔物が多くなる点や道に迷うものも出てくるため、平原まで誘い出して実戦を積む。何よりも、火属性魔法も使うので、慣れない生徒を連れて行って山火事にでもなったら大変だ。平原ということもあり、実際に遭遇する環境とは異なるため、魔物に慣れてもらうのが一番の目的。


 都市外戦闘訓練では、五人一組の臨時パーティーを結成する。なるべくバランスの良いパーティーになるように、事前に自分達で話し合いパーティーを組んでいる。俺のパーティーは、ファティ、ゼル、ジョアン、そしてシルキー・ウェイルズ。シルキーは支援魔法が得意なドワーフ族の女性。青藤色の髪を編み込んだツインテールの髪型が特徴的だ。前衛を俺とゼル、後衛にファティとジョアン、支援にシルキー。そこそこバランスの取れた編成になったとは思う。


 引率の先生方から今回戦う魔物についての説明があった。

 魔物はエアリアルウルフ。風の元素を身体に纏う素早さを活かした牙と爪で攻撃してくる。初級風属性魔法のエスタを使う個体も確認されているので注意が必要とのこと。群れで行動するタイプのウルフではないため、危険度は低めの魔物とされている。

 魔物と魔族の違いについても合わせて説明を受けた。

 魔族は魔物が元素の乱れによって、本来の姿から肉体が変化したり、姿に大きな変化は見られず魔力が極端に強くなったり、知能が大幅に上がり人語を話すに至る個体までいる。どの魔族にも共通していて最もわかりやすい目印は、瞳。眼光が赤く輝くので非常にわかりやすい。


 戦闘の流れは、冒険者パーティーが森の中へ行き、魔物を釣ってきて、それを学生パーティーが順番に戦闘をしていくもの。魔物を引っ張ってくるのに時間がかかりそうなので、全体的にのんびりとした時間が続くと予想される。

 一匹に対して五人で挑む。数の暴力で場数を踏ませる。卑怯なような気もするけど、魔物に慣れるという点では良いと思う。個々の戦闘技能の向上には寄与しないが、それは追い追い強い魔物へと移り変わっていくと期待したい。

 まだ俺達のパーティーの番まで時間があるので、その間に役割分担をしっかりしておく。

 ゼルがやる気満々なので、臨時パーティーのリーダーとなっている。

「事前にシルキーさんは俺に支援魔法で強化をお願いする」

 シルキーさんは頷き「わかった」と返事を返す。

 支援魔法。効果時間は三分程度だが、能力を向上させてくれる魔法。効果時間に対して消費魔力が大きのが特徴。武技との重ね掛けが可能なので瞬間的な能力向上力が魅力的なところだ。

「俺がタンク役として最初にエアリアルウルフに攻撃を仕掛ける。意識を俺に集中させるから、折を見てカミルも攻撃に参加してくれ」

「了解」

「ファティとジョアンはお互いに魔法を撃つタイミングを話し合ってくれ。タイミングは被せず、エアリアルウルフに反撃の隙を与えたくない。あと、魔法を使う時にこちらに合図を送って欲しい。距離を取るタイミングを計りたいからな」

「わかりました」「了解しました」

 ゼルはシルキーさんへと視線を向けると「足止め系の魔法は使えたりしますか?」と確認した。

「地属性の中級くらいまでの魔法なら問題ないわよ」

「それなら、皆の手が止まったり、攻めるリズムが崩れたら足止めをお願いします。それで一度仕切り直しだ。何か質問は?」

 ゼルは一同を見渡すが言葉を発する者はいなかった。

「よし、今の作戦でいくぞ。準備だけは怠るなよ」

 なかなかのリーダーシップだ。やれと言われてすぐやれるものではないだろう。学園に来る前に練習をしていたか、故郷でそういった仕事の家系なのかもしれない。


 冒険者がエアリアルウルフを引き連れて帰ってくるのが見えた。せっかくなので他のパーティーの戦闘を観察していよう。

 初手からいきなりフラムをぶっ放していた。フラムが直撃したエアリアルウルフは悲鳴のような鳴き声をあげ、魔導師に向かって走り出す。風の元素で守られているせいか、炎が体毛に引火する気配がない。追撃でフラムが三つ飛んでいく。一つ精度が悪くエアリアルウルフの横を通り過ぎていったが、残りの二つは直撃コース……かと思われたが、横斜めに飛びのきスピードを維持したまま回避した。勢いを乗せて飛び掛かり魔導師に向けて爪を振るう。

 ガキィィイン!――金属に刃物が当たったような高い音が周りに響く。タンク役の剣士が盾を爪へとぶつけ弾き飛ばす。バランスを崩しながらも着地をするエアリアルウルフ。そこへフラムが飛んでいった。真横から炎の弾がぶつかり地面に臥す体勢になる。そこからはひたすらフラムの応酬。風の元素で守られているとはいえ、一度に大量の炎が当たると燃えるようだ。一方的に燃やし尽くして勝利を収める。

 魔導師が主体のパーティーだったようだ。火力でごり押す所謂脳筋戦術といったところだろう。こちらのパーティーからしたら学べる点がなさそうな戦闘スタイル。

 タイミングを見計らったように、次のエアリアルウルフが到着する。

 弓士から「迅牙(じんが)」という声が聞こえる。武技を発動させ弓に風の元素を纏わせた。狙いを定め、射る速度を上げた矢を放つ。エアリアルウルフは矢に感づき横に飛び退こうとする。身体を掠め矢は通過していった。足が止まったところで剣士三名が盾を突き出しながら近づく。二人が剣を突き出し突進するが、直線的な動き過ぎて簡単に避けられてしまった。その行動を誘ったのか、もう一人の剣士が着地直後に狙いを定め、横に斬り払うように剣を振るう。エアリアルウルフの肩口から腹にかけて大きな斬り傷をつけ、剣を振るった勢いで後方へ弾き飛ばす。その直後、後方からフラムが飛んでくる。フラムの直撃を受けエアリアルウルフの足が止まる。その間に剣士三人が取り囲み剣を突き立て倒しきる。

 今度のパーティーはしっかりと連携してエアリアルウルフを倒し切った。今のテンポのように戦うことができれば俺達も大丈夫だろう。


 次はいよいよ俺達のパーティーの番だ。

「みんな、気負うなよ?」

 ゼルがおどけて茶化してくる。緊張している面々に対する発破掛けだろう。

「ゼルがしくじらなければ大丈夫だよ」

 負けじと言い返しておいた。皆無言で頷いている。

「俺は実家にいた時にいくらでも狩ってたから慣れっこだっての」

 どうやらゼルの家系は猟師らしい。ゼルの両親の話題にならなかったから今まで知る機会がなかった。組織的に魔物を倒すのに慣れているのか、気負う雰囲気はまるでない。

「それは頼もしい」

 前のパーティーの戦闘を見ている分、エアリアルウルフの行動を読みやすい。それが心に余裕を齎した。

 駄弁っていると冒険者がエアリアルウルフを引き連れて戻ってくる。

 ゼルが戦闘開始の合図をあげる。

「さあ、始めるぞ!」

 シルキーがゼルに支援魔法のマグナとアークスを発動させる。物理的な防御力と反応速度を強化させる。

 ゼルが盾で身体を守りながら突っ込んで行く。

「纏!」

 盾を握る手に武技を発動させる。エアリアルウルフとの距離は十メートルほど。盾を身体に押し付け、そのまま体当たりを仕掛ける。エアリアルウルフはスピードを緩めずゼルの真上を飛び越えるようにジャンプをした。それを見越していたのか、剣を頭上へと突き出した。腹部の一部を斬り裂いたが傷は浅い。

 ゼルを飛び越えたエアリアルウルフが俺の目の前に着地をする。反射的に「フランツ!」と叫び、炎の壁を作りエアリアルウルフへと壁を進ませていく。

 エアリアルウルフは距離を取ろうと後ずさるも、ゼルが透かさず剣を突き立てた。エアリアルウルフは反射的に真横へと弾けるように飛び退く。前衛から離れた隙を見逃さずファティが初級土属性魔法のグランを発動させた。岩の弾丸はエアリアルウルフの前足へと命中し、その場に留まらせることに成功した。鳴き叫ぶエアリアルウルフ。ジョアンがフラムの炎弾で追撃し、弱ったところをゼルが心臓を剣で突き立て難なく勝利を収めた。


 初戦を終え、カミルは握った剣に視線を向ける。

 前衛の役割だったのに剣を振るうことなく終わった。目の前にエアリアルウルフが来た時に咄嗟に出たのがフランツだった。剣術に対して自信がない現れなんだろうか。俺が剣を使う選択をしていれば、ゼルとの挟撃でもっと手数を少なくして倒せたかもしれない。実戦はやはり想定していた動きはできない。もっと数をこなして変化する戦況を体験していかなければ、とカミルは思った。

 ゼルがエアリアルウルフの亡骸を持ってくる。この授業にはもう一つ体験すべき課題があった。

「よし、使える素材を採るぞ。こいつだと毛皮と牙と爪と言ったところか」

 先ほどまで生きていた魔物だ。その亡骸を前に怯む女性陣。ジョアンは意外とタフなメンタルをしているらしい。ナイフを構えるといの一番にエアリアルウルフの爪に刃を突き刺していた。

 ゼルもジョアンの姿に驚いたのか言葉をかける。

「ジョアン、なんか慣れてねーか?」

「うちの店は加工品だけではなく、素材も取り扱うことがあるんですよ。その為の解体作業の練習をさせられました。最初はやはり気持ち悪さの方が勝りましたよ」

 ははは、と昔を思い出したのか乾いた笑いが出ている。

 せっかくの解体を学べるチャンス。今の内から学んでいかないといけない。将来的に国に仕えたり、冒険者になったりした時に必要になってくる作業かもしれない。できれば早いうちから経験を積んどいた方が後々のためだろう。

「ジョアン、俺に解体の仕方を教えてくれ」

「いいですよ。解体する順番は爪、毛皮、牙です。これは、解体時に爪を引っかけて怪我をしないようにするのと、血が飛び散ることがあるので、素材が汚れない順番で採取するためなので覚えておいてください。素材が汚れるほど後で洗浄に時間がかかります。では先ほど僕がやったように爪から……」

 ジョアンの指示の下、エアリアルウルフの解体をしてみた。爪の付け根近くに刃を入れる。根元から切ってしまうと、その部分から血が飛び出してしまうらしい。肉体面に傷をつけずになるべく根元に近い部分から切るのが無駄のない採集のようだ。切った断面が雑で、ジョアンが手直しをしてくれた。

 次の戦闘までの時間も限られている為、一旦慣れているジョアンとゼルに毛皮と牙の採集は任せる形となる。ゼルは故郷の町で猟師暮らしをしていた影響で、解体も慣れているみたいだ。

 女性陣はまだ怯んでいる。命を頂くという行為自体初めてというのなら当然の反応だと思う。追い追い慣れていってもらえばいい。

「ゼル、ウルフの肉は食べられないの?」

 ふと疑問に思いゼルに質問してみた。

「そんなことはない。でも、肉が硬目で獣臭が強いんだ。調理しようとすると、臭いを消す作業と長時間煮込むか漬け込む作業が余計にかかる。その作業にかけるお金と労力のことを考えたら、捨ててしまった方がいいのさ」

 ゼルは素材を剥いだ亡骸をフラムで焼き始めた。そのままにしておくと、食べにくる魔物が来たり、肉が腐り病の発生源になることがある。未然に防ぐための必要な処置である。

「ゼル、貴方……魔法が使えたのですね……」

 ファティが驚いた顔で言葉を漏らした。

「フラムくらいなら俺でも扱えるぜ。生活に必要なものだしな」

「ごめんなさい、ずっと脳まで筋肉の人なのかと思っていました。きちんと元素を理解していて見直しました」

 謝ってるのか貶しているのか謎の発言である。

「誰が脳筋だ!」

 その反論にパーティー全員が視線だけをゼルに送った。何というチームワーク。

「お前ら……」

「ほら、次のエアリアルウルフが来たからゼルも準備して」

 カミルが戦闘の準備するように促すと「覚えてろよ」とゼルが捨て台詞を吐いて準備に入った。


 各グループが三匹倒したところで休憩となった。

 三回も戦闘をこなせば慣れていくようで、各自が自分の役割を理解し行動に移せていた。

 俺の解体の腕も最初に比べればマシになり、ジョアンからは合格判定はもらえるレベルには到達できた。採集をやったのは爪だけなんだけどね。

「初回の戦闘訓練ですから、意外とあっさり倒せてしまいますわね」

 ファティは少し物足りなさげにしている。

「そんな油断してるとあっという間にやられるぞ。エスタを使う個体にも遭遇してないし」

「ゼルに言われなくてもわかっています。感想を言っただけでしょう」

「何をー」「何ですの?」

 都市外戦闘訓練にまで来て口喧嘩をするって、まるで火と油のような関係性なのか仲がいいのかわかりかねる。確かに戦闘自体はのんびりだし、物足りないと思えてしまうのも理解はできる。先週行われた戦闘訓練で強い個体が倒されてしまっている可能性もありそうではある。

 個人的に一番の刺激は支援魔法。一年生で支援魔法を習得している人は稀だ。周りを見渡してもシルキーさんくらいしか知らない。上位のクラスならいるのかもしれないが、それでもかなり使用できる者は少ないだろう。一年生というのはまだ可能性の塊みたいなもの。これから得意不得意を探り、この先の人生を決めていく。支援魔法は言ってしまえば、魔力量さえあれば誰でも扱えてしまう。もちろん、短時間の効果しか得られない分、時間管理と使用のタイミングという点では人を選ぶかもしれない。それでも、他の道が閉ざされた時の最終候補というのが帝国全体の認識である。

 なぜ、彼女はこの時期に支援魔法という道を選んでしまったのか。気にはなるけど、個人の事情にずけずけと入っていくのはよろしくない。彼女なりの事情があるのかもしれないのだから。

 ゼルが森の方を眺めて呟いた。

「なんか地響きみたいなのが聞こえねーか?」

 からかい所を見つけたとばかりにファティが口を開く。

「あら?ゼル、怖気づいてるのかしら?そんな音聞こえ……」


 ドドドドドドドドッ!!


 ファティがゼルをからかおうとした時、森から地響きが響いてきた。上空を見上げれば森の奥地から砂煙が上がっている。

「皆さん!一旦森から距離を取ります!チームリーダーの指示に従い速やかに森から離れてください!」

 先生の一人が声を張り全体に指示を出す。先生達の初動は素晴らしく、周囲を警戒しながら生徒を避難させ、自分達は最前で森への注意を払っている。

 地響きと砂煙が迫ってくる。そして、森を何かが突き抜け、それらは姿を現した。

 素早く無数に駆ける魔物、エアリアルウルフの大群だった。

 集団で狩りをするエアリアルウルフの姿は確認されていないはず。でも実際に今目の間に広がる光景を疑っていてはダメだ。すぐに撤退するための戦闘準備をしなくては。

 先生の一人が魔法を発動したらしく、広範囲に網目状に細かく地割れを起こし、魔物の足を攫う。あれは以前母さんが使っていた土属性応用魔法のグラストだ。

 先頭集団の足止めが成功し、後続の足は止まる……と思われたがそうはならなかった。動けないエアリアルウルフを踏み台にしてこちら側へと飛び越えてくる。

 予測していたのか、先生はフルメシアで飛び越えてきた魔物を焼き尽くした。

 それでもエアリアルウルフの勢いは止まらない。何かがおかしい。先ほどの戦闘からして、攻撃されれば避けたし、こちらの動きを見ている節があった。でも今はどうか?こちらの攻撃など意に介さない勢いで進んでくる。進むというよりもどこかへ移動して…いや、何かから逃げているんだ。

 大量のエアリアルウルフが更に森から駆け抜けてきた。反射的に剣に手が伸び柄を握った。

 その瞬間、大きく長い腕が木々をなぎ倒しながらエアリアルウルフの大群を横一文字に薙ぎ払った。勢いよく飛んでいくエアリアルウルフ達。体重が軽いとはいえ、百メートルは優に越える飛距離を出している。木が無くなったことで、この事態を引き起こした犯人が姿を現した。


 現れたそれは身長五メートルほどの大きな身体の人型の異形。今しがた見た大きく長い腕など存在しない。身長に見合った腕の長さ。異様に隆起した筋肉。背中に(もや)のように纏う闇。そして、赤く輝く瞳。そう、目の前に現れたのは大型の魔族。

「ま、魔族だ!」「魔族ってあんなに大きいのかよ!聞いてないって!」「イヤァァァァアー!!」「魔族……、魔族……」

 一瞬で戦場は混沌と化した。一振りで数十ものエアリアルウルフを(ほふ)る大型の魔族を前に泣き叫び逃げ出す学生。

 学生達を尻目に戦闘準備をする先生達と冒険者パーティー。攻撃へ意識を向けるのが非常に早く、すでに攻撃の体勢に入っていた。

 魔族に向かって一斉に炎が駆け抜け、大地が隆起し、武技が飛ぶ。そのすべてが直撃する。魔族の状態を確認しようと砂煙が収まるのを待った。

「まじかよ、あれで全然傷がついてないじゃないか!」「もうやだぁぁあ!」

 多少の傷はあるもののほぼ無傷に近い。絶望的な状況に学生達は更に混乱していく。

 魔族の腕に魔力が流れていくと、腕が途端に巨大化する。先ほど見た大きく長い腕――が薙ぎ払う姿が頭をよぎる。咄嗟に構えるが衝撃に襲われることはなかった。

 魔族の腕が素早く突き出され、冒険者の剣士を握りしめ拘束していた。

 腕を引き戻した魔族はそのまま握り締める。


 バキバキバキッ…


 骨が砕ける音、剣士の絶叫が戦場を駆け巡る。剣士は血飛沫を上げ砕けた骨と肉片へと姿を変える。魔族の拳から血が零れ落ち、大地を血に染めた。

 あまりの一瞬の出来事に、声が出ず身体が固まっていた。動けているのは先生と冒険者。活路を模索するため、弱点を探っているようだった。

 隣で戦闘を見ていたゼルが大きな声で口を開いた。

「物理攻撃だ!物理攻撃が一番ダメージを与えれている!魔法はそこまで効いてねえ!」

 ゼルの言葉を聞き、攻撃手段を物理に。魔法は光属性に絞った。だが、光属性の魔法が使えない魔導師が多く、物理攻撃を得意とする者が圧倒的に少ない。数だけなら学生達をカウントすればいるにはいるのだが……まともに動けるのは数える程度。

「まさか…、さっきの剣士を狙ったのって……」

 嫌な考えが脳裏をよぎる。光属性が弱点なのは魔族共通。この魔族は魔法耐性が高い傾向で物理攻撃に弱い。その上で剣士を真っ先に狙った…。

「その魔族!知能が高い可能性があります!単調な動きをしていると危ない!」

 叫ぶのと同時に魔族の腕が再び巨大化していく。

 魔族はラン&ガン戦法で弓で攻撃していた冒険者パーティーの狩人に視線を向けている。

「逃げろぉぉお!」

 突き出される魔族の腕。狩人は走り続け必死に回避しようとする。腕が伸びる速度は速く、狩人を捕まえるために手が開かれた。

 魔族の腕の下の地面が隆起し、魔族の腕ごと天へと突き抜けていく。掌も天へと打ち上げられた。

 狩人は間一髪土属性魔法により命拾いをした。

 腕は弾いただけでダメージが入っている様子がない。肥大化が解かれ、魔族の腕は元の大きさまで縮小していく。

 魔族は魔法を使った銀髪のポニーテイルをした先生の方に視線をやる。

「魔法ガ得意ナ人間ヨ、ソンナ魔法ジャ俺ノ身体ハ傷ツカナイゾ」

「な、魔族が……しゃべ…った?」

 先生は驚き行動が止まる。

 魔族はその隙を見逃さなかった。


― 我ハ闇ニ誘ウ者 闇ノ主ノ真髄ヲ顕現セシ者

   捧ゲルハ心ニ闇ヲ抱エシ醜キ魂 喰ライ尽クセ ズフィルード ―

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