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ep.62 其の力は何の為か

 血が噴き出し、辺りを鮮血に染め上げていく。

 ニステルの槍を受け止めたハロルドの指は吹き飛び、手の甲の半分が弾け飛んでいる。地面に千切れた指と肉片が転がっている。魔物の肉片が転がるのは見慣れたけど、人の肉片は別だ。千切れた肉の断面を見てしまい、胃液が上がってくる。必死に唾を飲み込み吐いてしまうことを無理やり抑え込む。オルグを斬り裂いた時は大丈夫だったのに、肉体が破壊される姿を傍から見てしまうと駄目らしい。

 目の端に涙を溜めながらハロルドさんの姿を確認する。

 表情に変化がない。痛みを感じてない?いや、それよりも……。右手を失ったことを気にする素振りが見受けられない。

「これでも俺を無視できるってのか?」

 ニステルがしたり顔でハロルドさんを見つめる。右手を吹き飛ばしたことを何も感じていない、そんな気さえする。

 言葉を言い終えるとニステルの膝が崩れた。地面に膝を着き槍を支えにして、身体が倒れてしまうのを防いでいる。

「そうだな」

 失った右手を視線を落とす。

「この程度では話にならん」

 ハロルドさんの右手に魔力と白の元素が満ちてくる。

 すると、右手が淡い白い光に包まれていく。飛び散った指や肉片、血が元素へと還っていき、残った手の甲から骨が再生される。次いで神経、血管、肉片が再構築されていく。だが、再生された右手は透けている。

「元素の定着に多少時間がかかるが、直に治るだろう」

 したり顔を浮かべていたニステルの表情が強張った。

「――化け物かよ。回復魔法はリディスの特権みたいなもんだろうがッ」

 それは俺も同感だ。何故、エルフであるハロルドさんが回復魔法を使えるのだろうか?


 ふと、エジカロス大森林での出来事を思い出した。

 かつてミツハ川に落ち、ボロボロになって流れついた。その時も、エルフであるはずのサティが回復魔法を使っていた。


『小僧も魔法が使えるだろう?何故回復せんのだ?』


 サティが言っていたあの言葉。よくよく考えてみればおかしかった。俺が回復魔法を使える前提で話が進んでいた。回復魔法はリディスだけが扱える魔法ではない……?


「これも精霊が世界を担う存在だったツケというわけか」

 ハロルドさんが一人納得したかのように呟いた。

「回復魔法は白に属する魔法に過ぎん。種族や個人で得意とする色は違えど、元来元素というものはすべての者に平等だ。知識と技術があれば誰もが行使できる力だ」

 フィルヒルも同じようなことを言っていたな。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「はっ?何を言ってやがる」

「言葉通りの意味だ。ヒュムの知能は、長い時の流れで退化したのか?」

 ニステルとハロルドさんの睨み合う。

「まぁまぁ」

 二人の間を取り持つようにカミュンが身体を入れ、話に割って入って行く。

「黄竜も無事で、黄の元素の濃度も下がったことだし、もうこの辺でね?」

 二人の顔を交互に見ながら、首を左右に行ったり来たりを繰り返す。

「黄竜はこのままここに寝かせておくとして」

 カミュンがニステルのそばへと歩み寄る。右手をニステルの頬に添えられた。

「何しやがる」

 ニステルが顔を反らして手を遠ざけた。

 離れた分、カミュンは手を伸ばす。触れた右の手の平から淡い緑の光が溢れ出した。

「いいから、いいから。少しそのままでいてね」

 緑の光は元素を含んでいるのか、僅かに風を発生させている。

 そよ風がこちらまで届き、ほのかに暖かな風が優しく身体を撫でていく。

 険しかったニステルの表情も風の影響か、刺々しさが鳴りを潜め、落ち着いたものへと変わったようだ。

「少し魔力を分けたから、もう動けると思うよ。あまり反動の大きい力を使ってると、いつか身体を壊しちゃうから注意してね」

 柔和に微笑み、ハロルドさんの方へと戻っていく。

 ニステルはゆっくりと立ち上がるも、ハロルドさんへの嫌悪感が拭えたわけじゃなかった。

「魔力を分けてもらえたのは感謝する。けど……、カミルを殺すと言った以上、おいそれ引き下がるわけにはいかねぇんだよ」

 ハロルドさんは嘲笑うように口を開いた。

「問答無用で殺すわけではない」

 視線がこちらへと移ってきた。

「黒髪の回答次第だと言っている」

 ニステルは押し黙り、俺の顔を窺うように見る。

「っと……」

 蒼い輝きを何の為に使うのか。そう言えば深く考えたこともなかった。アルフに向かった時は単純に帝国騎士に成れたらいいなと思っていた。冒険者パーティー『聖なる焔』と出会ってからは、冒険者の道も視野に入ったな。でもそれは、生きる手段であって何かを成すということではない。俺が本当に望むことはなんだろうか?

 沈思黙考(ちんしもっこう)する俺に、皆は急かすこともなくただ言葉を待ってくれている。

 俺が成すべきこと、それは―――。

「俺が望むのは秩序ある穏やかな生活です。この力が何なのかわかりませんが、それを成す為に使うべきだと考えます。たとえ竜であれ、俺が望む未来を壊すのであれば力を振るうでしょう」

 夢の中で見た彼の理不尽な死。

 俺はあんな結末を迎えるつもりはない。人生を全力で生きて、悔いを残すことなく生涯を終えたい。その為には力が必要だ。幸せを掴み取る為に。悪意ある意志に飲み込まれない為に。自分自身の足で歩んでいく為に。

「ほう?」

 ハロルドさんの目が鋭くなった。でも、俺は俺の意思で生きていきたい。

「だから……、六色の竜が秩序を守る存在というのなら、俺は殺すことはしません。立ち塞がるのであれば、死なない程度に叩きのめす覚悟です」

 ハロルドさんの瞳が、俺の瞳を捉えたまま動かない。まるで、本心を探るような眼差しだ。

 目は口ほどに物を言う。

 感情の機微を、瞳を通して見定めているのだろう。

 でも、俺は動じない。今言ったことは本心だ。これでハロルドさんと衝突することになっても悔いはない。初めて自分の生き方について真面目に考えた。それで出した答えなのだから、俺はこれからこの信念を曲げる事なく生きていく。ただそれだけなんだ。

「良いだろう。だが忘れるな。言葉を違え、世界に混乱の渦へと陥れる存在となるのであれば、迷わずお前を殺す。それが世界の為だ」

「そうなったら迷わず殺しに来てほしい。誰かの幸せを踏み躙ることなんてしたくはないから」

「了解した」

 ハロルドさんがカミュンへと視線を向けた。

「ここにはもう用はない。次の場所へ向かおう」

 カミュンは眩しいくらいの笑顔を見せ「うん」頷いた。

 ニステルはどう思っただろうか?顔を見てみると、興味を失ったのか、何も言わずに踵を返した。

「俺らも帰んぞ。オミナ鉱石は手に入ったんだし、もうここに居る意味もねぇ」

 そうだ!オミナ鉱石を手にすることができたんだ!

 カミュンとハロルドさんの方を向くと、深々と頭を下げる。

「オミナ鉱石、ありがとうございました!」

「何に使うか分かんないけど、目的の物が手に入って良かったね」

「うん。それじゃ、またどこかで」

 手を振り、その場を後にした。

 カミュンは俺達の姿が見えなくなるまで笑顔で手を降ってくれていた。二人にはまだまだ聞きたいことが多いけど、それはまた会ったときにでもゆっくりと話せばいい。


 朝早くに採掘に向かったおかげで、王都に戻ってこれたのは正午過ぎ。昼食は済ませたけど、まだ半日ほど活動する時間が残されている。ニステルは技の発動の反動で疲れ切っており「わりぃが、今日はもう家で休む」ということなので、広場で手持ち無沙汰になってしまった。

 オミナ鉱石を手に入れたけど、グラットルさんに届けるのはリアと合流した後でいいだろう。となると、一人でもこなせる依頼を見繕いにでも行こうかな。そう決断すると、ギルドへと歩き出した。


 ギルドの中はほとんど人がいない。日中の昼時ともなると依頼に出ていたり、昼食を摂っている人が大多数だろう。

 掲示板の前まで移動し依頼を確認する。見慣れたいつもの依頼内容である。特に目を引くようなものはない。それなりに依頼をこなして来ているのだから、その内ランクも上がるだろう。そうすれば、もう少しお金の回りも良くなるはず。視線を下ろし、ボロボロになってきた靴を見つめる。アルフでの学園生活に向けて新調した靴も、アルフを出てからの旅路で消耗が激しいのか傷が目立つ。底が抜ける前に買い替えないとな。

 手慣れた薬草採取にしておこうと依頼書に手を伸ばすと「よっ」短い言葉をかけられ両肩をガシッと掴まれ身体がガクンと揺れる。

「うぉぉぉ!?」

「はははっ、情けない声出しちゃって」

 肩に触れた両手の感触が消えていく。身体の自由が戻り、振り返る。

 そこに居たのは、若竹色の服の上に部分的に白銅色の鎧を当てがった軽装の銀髪ボブカットの女性―――リアだった。

「リア!」

「久しぶりだな。多少は旅費稼げたか?」

 久しぶりに会ったリアは、相変わらず綺麗だった。知り合いの少ないこの未来で、心を許せる数少ない仲間だ。顔を合わせるだけで安心感をくれる存在でもある。

「ニステルも一緒だったし、それなりにはね」

 一人だったらひとつの依頼をこなすのに時間が掛かってあまり稼げなかったかもしれない。それ以上に、誰かと時間を共にできることが、やる気を上げてくれたんだと思う。

 リアが俺の周りを窺うように顔を動かしていく。

「それで?そのニステルはどこにいるの?」

「あははっ、今は家で寝てるかも?」

 頬を掻きながら言葉を濁す。

「はっ?もう昼も回ってるってのに、ぐうたらしてんな……」

「いや〜、朝イチで派手な戦闘に巻き込まれちゃってさ……。その甲斐もあって、ほらっ!」

 懐に手を入れ、ニステルから預かっておいたオミナ鉱石を差し出した。

「ん?これは……?」

 金色に輝く小ぶりのオミナ鉱石を覗き込む。

「綺麗な石だな。うん、それなりの金になりそうだ」

 リアはこの石がオミナ鉱石だと気付いていない。そりゃそうだ。俺達も話の流れでこれがオミナ鉱石だとやっと気付けたくらいだし、見たことがないなら当然の反応だ。

「ふふん。売るなんてするわけないでしょ?だってこれ、オミナ鉱石だよ?」

 胸を張って自慢気に語る。

「ニステルと協力して、リアが帰って来る前に〜て頑張りました!」

 実際には棚から牡丹餅なんだけどね。感動的にした方が話は盛り上がるからね。多少の脚色は目をつぶってもらいたい。

 どんな反応をしてくれるのか、リアの様子を窺ってみるも表情に変化がない。興奮して喜ぶかと思っていただけに、理想と現実の落差がひどい。

 オミナ鉱石をジッと眺めていたリアの手が、鉱石を握る俺の手をそっと包み込んできた。予想外の行動に鼓動が跳ねる。

 えっ!?な、何っ!?リアの手が触れてる!?

 カミルはテンパっていた。生まれてこの方、女の子と手が触れ合うことなど碌に無かったのだ。軽く手が触れたり、ぶつかり合うことは稀にあったが、ここまでしっかり触れ合うのは初めてだった。実際にはリアと手が触れ合うのは初めてではない。帝城で空間の穴に飲み込まれそうになった時にリアの手を取り、飲み込まれないと耐えていた。当の本人は、そのことを覚えていないようである。

「ありがとう」

 そう呟くリアの瞳から涙が溢れていた。頬を伝う涙を見て、心の底からオミナ鉱石を手にすることができて良かったと思う。それと同時に、手に入れた話を脚色した自分を恥じた。リアが心の底から欲していた物で格好つけようとしていたなんて………。

 紋様―――精霊の刻印を消し去り、本来のエルフの姿に戻る為にオミナ鉱石を求めた。やり方を知れば、元の時代に戻ったら仲間を本来の姿に戻してあげることができる。そう聞いていたはずなのに、どこかでエルフという種族の問題なんだと感じていたらしい。それを自覚した瞬間、自分の小ささを思い知らされた。

 手からリアの温もりが消える。そして、俺は抱きしめられていた。

「本当にありがとう――」

 喜ばしい出来事の筈なのに、自分の(やま)しさのせいで素直に喜んであげられない。

 それから、リアの感情が落ち着くまで俺はただ立ち尽くすのみだった。


 落ち着いたリアが離れていく。赤くし腫れた目からは恥じらいを感じ取れる。人の出入りが少ない時間帯とはいえ、人目のあるところで泣き男に抱きつく姿を晒していたのだから、羞恥心が刺激されてもおかしくはない。

 俺は周りの奇異の目を自分への罰として受け入れていたから、特に何かを思うことはない。周りの視線なんかよりも、リアの心をもっと大切にしていこう、そう心に誓うべきなのだから。


 リアが涙を拭い、微笑みが戻ってきた。

「みっともない所をみせちゃったな……」

「そんなことことないでしょ?」

 こんな時、気の利いた言葉のひとつでも掛けられたら良いんだけど、そんな経験がなさ過ぎて出た言葉はありきたりなものだった。

「人前では泣かないって決めてたんだけどな。涙腺が緩いのが憎くなっちゃうよ」

「これでリアの本当の姿が見れるんだね」

「――私もこれで、ティアニカさん達のような金髪長耳エルフになるのか」

 感慨深く熱のこもった瞳でオミナ鉱石を見つめている。

 エルフの本来の姿を知ったあの日から、1ヶ月以上経過している。あっという間に過ぎ去っていった日々が脳裏を駆け抜けていく。

 リアからしてみれば長い時間だったのかも知れない。解呪の手段に届きそうで届かない、率先して動きたいのに金銭面という現実が採掘を遠ざける。そんなもどかしい日々の果てに、ようやく本当の自分というものに出会えるのだ。

 リアの手にオミナ鉱石を手渡す。

「善は急げだ。今からグラットルさんの所へ行こう」

 ギルドの出入口へと歩き出す。

「うん、ありがとう。でも、一旦宿に戻ってもいいか?」

「??、いいけど」

 すぐにでも向かいたいだろうと思ってたけど、何だろう?

「何不思議そうな顔してんだよ。私が何でジスタークに残ってたのか忘れたの?」

「ああ……」

 オミナ鉱石を手に入れて舞い上がっていたのは俺の方らしい。

「どこにいるか分からなかったから、宿に置いてきたんだ。カミルもいつもの宿に泊まってるのか?」

「そう。慣れた人の所がやっぱり安心できるしね」

 ギルドの扉を潜り宿に向かって歩き出した。


「お邪魔しま〜す」

「何改まってんだ?早く入って来いよ」

 急かすリアの後をおずおずと着いていく。未だに女性が泊まっている部屋に入るのは気後れする。と言うよりも、一緒の部屋に泊まった日のことが頭の中にチラついて落ち着かないのだ。こんなこと、リアにバレたら格好悪い。何とか取り繕わないと。

 部屋に入ると、リアは迷わずベッドへと歩み寄った。そして掛け布団をめくる。

「何で布団を触ってるの?刀は?」

 部屋に入って迷わず布団を触り出したリアの姿に、あらぬ妄想を仕掛けて無理やり思考を刀へと持っていく。

「何でって、いくらカギをかけているからって、そのまま部屋に置いておいて何かあったら困るだろ?だからこうやって―――」

 布団の中を弄り、何かを探しているようだ。

「布団の中に入れておけば、ほらっ」

 布団の中から姿を現したのは、暗い色をした細長い鉄の塊。それは金属の光沢を持つ暗灰色―――砲金色(つつがねいろ)をした一振りの日本刀だった。色こそ金属っぽさが増しているが、鞘の形状は前のままだ。

「おおぉ……。これが、俺の新しい刀……。あれ?でも、短刀とかなんとか言ってなかったっけ?」

 砕けた刀身の使える部分のみで打ち直すとか言ってた気がするんだけど?

「足りない分は足して打ち直したからな」

「へぇ〜」

 恐る恐る手を伸ばし、生まれ変わった刀を受け取った。リアの手から離れた瞬間、前の刀では味わえなかったズシリとした重みが腕に伝わってくる。

「砕けて刀身に使えなさそうな金属は鞘に流用したんだ。その分重さは増えたけど、暫く黒鷺を使ってたんなら大丈夫だろうってエピシロさんに言われてな」

 確かに、この2週間黒鷺を扱っていたせいか、重くなった刀を持っても違和感はない。むしろ、重量でいうならこの刀の方が軽いくらいだ。

「抜いてみてもいい?」

 チラリとリアの顔を窺う。

「もちろん。私達が作り上げた刀をとくと見よ!」

 したり顔になったリアは自信に満ち溢れている。

「それじゃ」

 左手で鞘を握り、真横にゆっくりと柄を握る右手を動かしていく。徐々に姿を見せる刀身は、鞘と同じく砲金色(つつがねいろ)をしており、大きく波を打ち寄せる濤瀾刃(とうらんば)と呼ばれる刃紋が美しく表現されている。

「――美しい」

 口から零れた言葉に、リアの笑顔が弾け拳をグッと握り締めた。

「そうだろ、そうだろ。その波打つ紋様を綺麗に出すのに苦労したんだ」

 うんうん、腕組みをして顔を縦に振っている。

「もちろん、見た目の美しさだけじゃない。強度と斬れ味を両立する為に、ちょっとした素材を混ぜてあるんだ」

「そんなこと言ってたね。何を素材にしたの?」

 ふふん。そんな言葉が聞こえてきそうな得意げな顔を浮かべている。

怨竜(えんりゅう)の鱗と鉱竜(こうりゅう)が残したニグル鉱石だよ。足りない分は足したって言っただろう?それが無かったら本当に短刀にしか仕上げられなかったな」

「えっ!?そんな貴重な素材使ったの!?」

 売れば旅費を粗方用意できたかも知れなかったのに……。

「あのな、武器ってのは命を預ける相棒なんだよ。折れやすい武器なんかに命を預けられる?」

「預け、られないです。はい……」

「でしょ?カミルが今まで戦ってこれたのも、あの刀が刃毀(はこぼ)れ一つしなかったからなの。学園で使ってた剣だったら、竜となんて打ち合えるわけ無いでしょ」

 (もっと)もな意見である。あの刀だったからこそ、武器にお金をかける必要もなく、戦闘の最中に武器を失うことも無かったんだ。

 サティに感謝しないとな。

「でも、その刀だったら大丈夫。私達の腕と、貴重な素材。それから、魔剣の力の一端を打ち込むことができたわ。イヴリスさん感謝なさい」

「なんか、凄まじい刀に仕上がってそうに聞こえるんだけど……ちゃんと扱える刀なの……?」

 恐る恐る訊ねると―――。

「扱えるようになれってこと」

 ピシャリと言い切られてしまった。

「扱えるようになれば、その刀は当たり負けないわ。負けたとするなら、カミルの技術不足ってこと」

 少し気が重くなり、刀を鞘へと収めていく。

 でも、この刀を自在に扱えるようになれば、理不尽な死に立ち向かう力と成る。そう考えたら、身が引き締まる想いに駆られた。

「肝に銘じて精進します」

 途端に真面目な表情をしたカミルに、リアは優しく微笑んだ。

「それで、黒鷺はどうすればいいのかな?」

 エピシロさんからの借り物だ。返しに行くのが筋だが。

「それなら言付けを預かってる。『その内イヴリスが魔剣の調整が終わるだろうから、王都に納めに行く時に回収させる。だから、ギルドにでも預けといてくれ』だとさ。もちろん、使用した感想も添えてな」

「何から何までお世話になりっぱなしな気がする」

「そう思うなら、黒鷺と一緒に酒でも預けとけばいいさ」

「そんなことでいいの?」

 扱いが雑な気がするけど……。

「エピシロさんがドワーフなのを忘れてないか?礼儀正しそうに見えるけど、かなりのうわばみだぞ?」

「一緒に酒を酌み交わす仲になったと?」

「何ノ事カナ〜」

 露骨に視線を泳がせている。間違いない、この2週間ほど、刀を打つだけじゃなく酒も楽しんでいたんだ……。

さっきの俺の誓いは何だったんだよ……。

「こほんっ」

 (わざ)とらしい咳を挟んでこちらを見た。

「で、刀の銘は決まってるのか?」

 ジスタークで別れる前にそんな言葉を交わした覚えがある。

「もちろん、黒に連なる刀になりそうだったからすぐに思い浮かんだよ」

 リアの目が好奇心に輝いた。

「へえ、それで、どんな銘にしたんだ?」

 黒の元素に属し、黒の影響力を届ける刀。そこから連想させた刀の銘は―――。


黎架(れいか)

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