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砲金色の魔導師  作者: 庚颯
第一章 見聞覚知
64/135

ep.61 竜殺しの力

 ドゴンッ

    ドゴンッ


 背後から聞こえる大きな音に、気持ちが急かされ踏みしめる足に力が入る。

 振り返れば、地面を隆起させ突き出る岩の柱。幾つもの岩が突き出し、その度に背中との距離が縮まって行く。

 ニステルを標的にしていた岩の柱がこちらに向かって来てから、どれだけ走っただろうか。竜が追ってくる気配がないのは喜ばしいことだけど、その代わりがこの岩の柱だ。追いつかれるわけにはいかない。今はただ、出入口を目指して突っ走るのみ。

 それにしても……、この魔法どこまで追ってくるわけ!?魔法の発動者から距離が離れれば必然的に元素への干渉力が弱まって、どこかのタイミングで霧散するはずなのに。

 俺にはあの規模の魔法を相殺するだけの魔法の規模と強度を期待できない。圧縮魔力で魔法を発動させようが結果は変わらないだろう。

 視界の遥か先に光が見えてきた。出入口だ。あそこまで突っ走れば一息つけるかもしれない。

 そう思った途端、背後から聞こえる魔法の発動の音が聞こえなくなっていることに気付いた。

 走ることは止めず顔だけ振り返ると、岩の柱が突き出る時に発生した砂埃が舞い、霞んだ世界が広がるのみ。新たに発生する岩の柱が見受けられなかった。

 止んだ……。竜との距離が稼げたのか?

 そこでようやく足を止めることができた。不気味な静けさが場を支配している。

 しばらく様子を伺うも、変化が訪れることはない。

 ニステルを助けに行くしかない。戦闘では足手まといになるかもしれない。でも、逃げる為の隙作りならやれる。

 落ち着いたばかりの心臓と足にムチを打ち、再び洞穴の奥へと駆け出した。



 カミュンを追って奥へと進んでいくと、ぽっかりと空いた空間が広がっていた。所々足場が作られていることから、かつて大規模な採掘が行われていたことがわかる。暗い洞穴内にも関わらず、空間には光が満ちている。どうやら、天井に吊り下げられた大規模な照明が備え付けられているようだ。

 見渡してみるも、ここにはカミュンもハロルドの姿もない。かなり奥まで潜り込んでいるらしい。更に奥まで追いかけようか悩んでいると、洞穴内に強い揺れが起こり始めた。

 オミナムーヘル―――黄竜(こうりゅう)が引き起こす振動に、先ほどまで戦っていた竜との差を感じてしまった。

 小さいあの竜にさえ歯が立たなかった。本体がどれほどの脅威かわかったもんじゃねぇな。スフィラ海峡で遭遇したあの2匹の竜と同等の存在と考えると、手も足も出ない事はわかっている。それでもあのエルフ達の力の謎が知りたかったし、たった二人で黄竜に挑めるほどの力が純粋に羨ましかった。どれほどの修練を積めば、その領域に達することができるのか……。エルフの寿命があってこそか?

 立ち止まり思考を繰り返していると、一際大きな衝撃が空間にまで伝わってきた。天井と壁の一部が崩れ砂埃が舞い上がった。咄嗟に腕で顔を覆うと、空間の端から衝撃音が響き渡り、壁をブチ壊しながら二つの人影と大きな竜の顔が姿を現した。小さな竜と同じ黄金色をした竜、あれがオミナムーヘルなのだろう。

 カミュンが弓で黄竜に射掛けた。だが、身体の大きさが違いすぎる。あれで本当に攻撃が通るのか謎だった。

 だが、予想とは懸け離れた現実が待っていた。

 カミュンの緑色の矢が黄竜の顔に当たると、苦しみ顔を左右に大きく振っている。

 被害を与えている?いや、元素を奪っているのか……?心做しか顔が小さくなっているような?

 苦しみながらも黄竜は口を大きく開くと、黄の元素を収束させていく。

 カミュンとハロルドが退避を始めている。さすがにあの規模の大きさの攻撃には対処できないらしい。

 黄竜の顔が二人を追いかけ、収束した黄の元素が放たれる。金色に輝く元素の塊は、二人を追いかけながら収縮していく。元素の塊は次第に小さくなっていき姿が見えなくなった。

 次の瞬間、元素の塊が消えた地点に小さな黒い球体が姿を現した。球体は周囲のありとあらゆるもの吸い込み始め、その吸引力にカミュンとハロルドが引き寄せられていく。

 あれは、スフィラ海峡の時の穴か?姿は酷似しているが、明らかに規模が小さい。竜1匹だとあれが限界なのか?

 ハロルドよりも体重が軽そうなカミュンが球体の吸引力に負け、身体がふわりと舞った。無垢のワンピースを靡かせながらも、その手に握る弓を球体へと構えた。

 だが、その手には矢が存在していない。

 矢を使い切ってんのかッ!

 反射的に身体が動きかけたその時、カミュンの右手に緑の元素が集い、緑色をした矢に形を変えていく。

 そうか、今まで放っていたあの矢は、すべて元素そのものだったのか。

 生み出した緑色の矢を(つが)え、球体に向かって放たれた。吸引力を逆手に取れば、矢は確実に球体へと突き刺さるだろう。

 矢が球体へと近づいていくと、球体から黄の元素を抜き取り始めた。矢に元素が吸われていき、球体が小さく萎んでいく。

 縮んでやがる……。あの球体は黄の元素が生み出した現象に過ぎないってことか。

 黄の元素を吸収しながら、矢は球体の中へと消えていく。そして、黒い球体は霧散した。

 着地を決めるとそのままカミュンは黄竜へと駆ける。その手に新たな緑色の矢を生み出し、黄竜の額へと狙いを定めた。

 黄竜も大人しく待っているわけもなく、急速に魔力を上昇させていく。魔力の上昇に併せて黄竜の顔が金色の光に包まれた。

 カミュンの手から弦を震わせ緑色の矢が放たれる。まっすぐ黄竜の額に向かって飛んでいくも、その矢が竜に届くことはなかった。

 黄竜の顔が縮んでいき、矢は額があった場所の空を射抜いた。黄竜を包む光は見る見る内に人型へと姿を変えた。

 光は霧散していき、その姿が顕になる。

 竜の顔はそのままに、身体を覆う黄金色をした鱗、体長と同等の長さを誇る尻尾、背中には控えめな翼が4つ生えている。2足で立っていることから、人と同じ動きを再現できると思われる。

 変化が終わると、黄竜がカミュンに飛び掛かった。指の先に伸びる鋭利な3本の爪を振りかぶり、弓を握るカミュンの腕に向かって振り下ろされる。

 だが、カミュンと黄竜の間に透過した緑色の障壁が現れ、黄竜の爪は障壁によって阻まれる。爪を一時的に受け止めるも、ピキピキと音を立て瞬時に障壁を引き裂いていく。

 その僅かな時間を利用して、カミュンは黄竜から距離を取っている。透かさず緑色の矢を番い、黄竜の胸目掛けて放たれた。

 周囲の黄の元素を吸収しながら、黄竜の黄の元素までもを奪い取っている。残念ながら矢は黄竜の爪によって払い除けられ霧散した。


 お互いに致命打を与えられないままの攻防が続いている。俺とあのエルフ達との差はなんだ?魔力量か?魔法の扱いか?それとも、あの緑色に輝く弓なのか?

 二人が黄竜と呼ばれる存在と対峙していられる絡繰りがわからない。

 ニステルは苦虫を噛み潰したような表情に変化していた。

「ようやく追いついた」

 聞き馴染んだ声が耳に届き振り返る。そこに居たのは外に向かったはずのカミルだった。

「なんで戻ってきやがった。下手すれば黄竜に殺されるぞ」

「黄竜……」

 名前を聞いたカミルは、険しい表情へと変わっていく。無理もない、2週間前に死ぬような思いをしたばかりだ。その恐怖が身に沁みているんだろう。

「あの濃密な黄の元素の感じがわかるだろ?俺もここから近づけん。あのエルフ達の戦闘を見守ることしかできやしねぇんだ」

 そう、それが何よりも悔しいんだ。



 ニステルの表情は暗い。その実力を以ってしても、黄竜という竜種の前には届かないようだ。

 視線を二人のエルフと人型をした蜥蜴のような………あれが黄竜?と見られるものに移した。

 カミュンが放つ矢が黄竜に向かって飛べば、黄竜は避け、時に爪や尻尾を使って叩き落している。その度に黄竜の色が僅かに薄くなっている気がする。

 黄竜は魔法を主軸として戦っているようだ。俺も追いかけられた岩の柱が地面から突き上げ、天井からも同様のものが落下してくる。かと思えば、黒い球体のようなものが生まれ、周囲の岩やカミュンを吸い込まもうとしていた。その度に、ハロルドさんが風の魔法を使ってカミュンを守っている。役割分担がハッキリとした戦い方だ。

 正直、スフィラ海峡で見た竜達が持つ力の方が上な気がする。身体の大きさが桁違いなのだから、それも仕方のないことなのかもしれない。

 不意に、黄竜の視線がこちらを向いたような気がした。気の所為か?

 依然として戦いが繰り広げられている。

 最初に見た時よりも確実に黄竜の色が薄れている。それが何を意味しているのかわからない。


 変化は突如として訪れた。

 カミュンの放つ矢が雨のように降り注ぐ中、黄竜は色を完全に失った。色が抜け落ち、鱗が白く染まっている。

 カミュンの矢をいなすと、黄竜の身体から黄の元素が広がり始めた。空間を侵食し、周囲が黄の元素で満たされる。

 何かを仕掛けてくる。そう思った瞬間、身体が地面へと引っ張られた。

 膝から崩れ、両手を地面に突き立てることで身体が地面に倒れ込むのを何とか耐えている。

 重力を……、操っている!?

「んだこれ……。これも……、黄竜の仕業かッ?」

 顔をまともに動かせないけど、声の感じからニステルもこの影響下にあることが伝わってくる。

 こんな状態では、戦闘なんてまず不可能だ。カミュンとハロルドさんは無事だろうか?

 そこではたと気がついた。

 濃密な黄の元素の反応が近づいてくることに………。

 首に力を入れ、頭を正面に持っていこうとするも叶わない。次第に距離が埋まっていき、そして――視界の端に長く太い爪を持つ足が現れた。

 ――居る。

 強い黄の元素の塊。

 その存在から放たれる圧力。

 耳に届く呼吸の音。

 胃がギュッと締め付けられ、身体の内側からくる寒気に体中に鳥肌が立った。

 黄竜に動きはない。こちらの動き………いや、俺を見ている?そういえば、青竜も何故か俺の姿を見ていたし、竜はヒュムにでも興味があるのか……?

 ドクッドクッドクッ。高鳴る自分の鼓動がやけに煩く感じる。

 頭上に黄の元素が満ちて来ている。それが意味するのは、黄竜による元素を用いた攻撃。

 今まで何度も感じてきた死への恐怖心が蘇る。ガタガタと震え、歯がカチカチとぶつかり合う音が響いている。

 諦めるな。

 まだ死ぬと決まったわけじゃない………。リアと一緒に俺達の時代に戻るんだろッ!!


 ―――抗え。


 脳に言葉が響いてくる。


 理不尽な死を受け入れるな。

 その為の力の一端を、既にお前は手にしているだろう?

 さあ、立ち上がれ。

 帰りを待っている者達の為に―――。


 胸元が熱を帯びてきた。此処まで幾度となく助けられ、命を繋いできた輝きと共に。


 胸元から蒼い輝きが広がり、身体を包みこんでいく。

 周囲に広がる黄の元素を取り込み、蒼い光は輝きを増していく。


 異変に気付いた黄竜の手が素早く動いた。爪の先に集まった黄の元素が小さな黒い球体を生み出している。周囲の大気が球体に吸い込まれ、砂埃を巻き上げた。生み出された黒い球体を、カミルの頭に向けて振り下ろす。


 迫りくる黒い球体にそっと左手を伸ばし、そして―――虫でも払い除けるように、カミルの裏拳が黒い球体を天井へと弾き飛ばす。

 黒い球体の形が歪む。天井に向け上昇しながらその姿は霞がかり、そして霧散していく。


 それでも黄竜の動きは止まらなかった。右足が浮かび上がり、鋭い爪がカミルの顔を目掛け跳ね上がる。


 カミルは右腕を突き放し、その反動を利用して身体を後方へと反らしていく。目の前を通り過ぎる黄竜の爪。カミルは瞬き一つせずに、その動きを目で追った。身体が後方へ流れ始めた瞬間に両足で後方へと飛び退いていく。


 蹴りを外した黄竜が口を開いた。重力を操っていた黄の元素を収束させ、魔法の発動速度を早めた。それと同時に、鱗が黄金色を取り戻していった。

 黒い球体が再び形成されていく。

 だが、魔法の発動前に黒い球体は霧散していくこととなる。


 カミルは後方へ飛び退きながらも黒鷺に手を伸ばし、剣を抜き切ると共に初級火属性魔法フラムを発動。赤い炎は蒼い光に侵食され、蒼い炎へと姿を変え黄竜に向かって飛び出していた。

 黄竜が黒い球体を生み出したその瞬間、蒼い炎に黒い球体が飲み込まれていく。黄の元素を喰らいつくし、魔法は霧散していった。

 それでも蒼い炎の勢いは止まらない。むしろ、黄の元素を取り込み、大きさも威力も跳ね上がっている。

 黄竜は反射的に後方へ飛び退いたが、蒼い炎が身体に引火。蒼い炎に包まれながら空中で弧を描き堕ちていく。



 重力の枷から解き放たれたニステルは反射的に顔を上げる。黄竜と呼ばれる存在がすぐそばにいるのだから当然だ。

 燃えている?

 蒼い炎に身を焼かれながら、中空を弧を描き落下している。

 一体何が起きてやがるッ!?

 燃えながら落ちる黄竜に視線が釘付けになっていると、真横を蒼い輝きを放つカミルが駆け抜けて行った。

 その瞬間、ニステルは悟った。黄竜を蒼い炎で燃やしたのがカミルであることに。

 咄嗟にカミルの後を追う。

 くそッ!意味がわからねぇ!わからねぇけど、今のカミルから目を離しちゃいけない気がしてならねぇ。

 すぐ後に追いかけ始めたのにも関わらず、カミルとの距離がどんどんと開いていく。

 何なんだよッ!アイツのどこにこんな力が隠されてたんだよッ!

 視線の先のカミルが黒鷺を振りかざす。



 ――殺されるくらいなら殺してしまえ。

 頭の中に響く声に背中を押され、黒鷺に圧縮魔力を流し込む。魔力の中に蒼い輝きが溶け込んでいき、黒い刀身が蒼色に飲み込まれていく。

 見上げれば、黄竜を包んでいた蒼い炎は薄れ霧散していっている。

 焼き殺せなかったか。なら―――。

 落下地点にたどり着くと、蒼く染まる黒鷺を両手で握りしめ上段に構えた。

 落ちてくる黄竜に刃を振り下ろす。


「だめぇぇぇぇッ!!」


 声の通る少女の叫び声が木霊した。

 その声に反射的に従っていた。振り下ろす腕は止められない。だから、後方へと飛び退くことで黒鷺と黄竜の距離を確保する。

 黄竜の翼の1枚を斬りつけながらも、黄竜そのものを斬ることからは逃れた。

 黄竜が地面と激突し、幾度か跳ねながら転がっていく。

 黄金色に輝いていた黄竜の鱗は色を失い、白くぼやけた色へと変わっていた。翼の一部は黒鷺に裂かれ、少し離れた位置に落ちている。

 黄竜の下に、カミュンとハロルドさんが駆け寄ってくる。でも、どこか様子が変だ。やけに焦っているような、そんな表情を浮かべている。

「今ならまだ間に合う。カミュン、どけ」

 ハロルドさんが黄龍の胸に手を翳すと、黄の元素が満ちてくる。黄竜の身体に注ぎ込んでいるように見える。

 一体何故?

 さっきまでは命の奪い合いをしていたと言うのに。

 黄竜の処置をハロルドさんに任せたのか、カミュンがこちらへと近づいてきた。

「その力、抑え込めないかな?このままだと黄竜が死んじゃうの」

 そう語るカミュンの表情は申し訳なさそうだ。

「なんで?カミュン達も黄竜を倒す為に戦ってたよね?その絶好の機会が今じゃないの?」

 カミュンが首を横に振る。

「私達は別に倒す為に戦ってたんじゃないの。だから、ね?黄竜は殺さないで……。お願い」

 頭を下げてまで懇願してきた。

 俺も別に殺しに来たわけじゃない。命を奪いに来たから、力を振るったに過ぎない。言ってしまえば正当防衛だ。

 そっと深呼吸を挟む。心を落ち着かせ、頭の中を一度スッキリとさせる。

 感情の高ぶりが収まるに連れ、溢れ出る蒼き輝きも霧散し消えていく。

「これ以上襲って来ないのなら、殺すつもりはないよ」

 その言葉にカミュンは胸をなで下ろし「ありがとう」いつもの屈託のない笑顔を見せてくれた。

「おいッ。っはぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 振り向くとニステルが息を切らして駆け寄ってきた。

「っはぁぁぁ」

 ひとつ深い呼吸を挟み口を開いた。

「何がッ、どうなってやがるッ」

 呼吸が整わないのか、息も絶え絶えで疑問を口にしている。

「それは俺も聞きたいところかな」

 視線をカミュンへと投げた。

 カミュンは苦笑いを浮かべていた。「う〜ん」と腕組みをして首を傾げる。

「話してやれ。そいつの力は危険だ。どうやら竜を殺せるほどの力を秘めているらしい」

 黄の元素を送り込むハロルドさんが、こちらを向くことなく言葉を挟んできた。

 カミュンはハロルドさんの方を向くと「わかったよ」納得し、こちらへと向き直る。

「黄竜は知っての通り、オミナムーヘルの生まれ変わりなの。まだ生まれて1000年ちょっとしか経ってない幼竜に近い存在で、黄の元素の循環を司る役割を果たしているの」

 1000年も経っているのに未だ幼竜?竜の生態が謎すぎる。

「六色を司る竜が生まれ変わり、世界中の元素の乱れを整えているんだけど」

 視線を黄竜へと向ける。

「あの黄竜も、今回ここに来たのは元素の乱れのせいなの」

「元素の乱れ?」

 カミュンがこちらへと向き直る。

「うん。今、この洞穴の奥がね、黄の元素が集まり過ぎてるから、それを解消する為に黄竜が現れたの。元素が濃すぎると生き物に悪影響が出ちゃうから、六色の竜が世界を巡って整えていくんだけど……。まだ幼竜だから、元素を取り込み過ぎると暴走しちゃう時があるみたいなの。私達はそのお手伝いみたいなものかな。暴走した時の対処もこなしてるんだよ?」

 そう言えば、ジスタークの砂浜で見かけた後に、スフィラ海峡に2匹の竜が現れたんだっけ。

「ジスタークにいたのもそれが理由?」

 カミュンが頷く。

「そうだよ。海の底の更に下に灼熱の海があるんだけど、それが原因で熱泉が出ていたの。赤の元素が溜まりに溜まって赤竜が動き出したの。赤の元素の活発化で青の元素も集まって来ちゃって、同時に二色の竜が現れる形になっちゃってたけどね」

 なるほど、あの時竜が力をぶつけ合ったお陰で暴走が収まり、理性を取り戻した竜はどこかに飛んでいったってわけか。

「これで大丈夫だろう」

 黄竜に翳した手を戻し、ハロルドさんが立ち上がる。黄竜の鱗は僅かに黄金色を取り戻している。だけど、起き上がってくることはない。

「さて、黒髪の魔導師よ。お前は何故そんな力を持っている?」

 ハロルドさんの声は淡々といつも変わらない。だけど、その瞳に宿す猜疑心(さいぎしん)は隠しきれないでいる。

「俺にもわからない」

「わからない?そんなわけあるか。色を司る竜を殺せる程の力を操りながら、わからないの一言で済ます気か?」

 声は穏やかだ。でも、言葉が鋭利な刃物のように突き刺さる。

「意図して扱える力じゃないんだ。絶対的な命の危機に瀕した時溢れ出る力なんだよ。それも、絶対に発動するわけでもないし……」

 目を伏せ項垂れる。

 使ってる本人がよくわかってない力を、どうやって説明すればいいんだ……。

「なら聞き方を変えよう。その力を使って何を成す?回答によっては、お前を殺さねばならぬぞ?」

 反射的にハロルドさんの瞳を見つめた。

 隣で大人しく傾聴していたニステルが槍を構え出した。

「はんッ!殺す?お前達こそ良くわからねぇことしてやがるくせに!六色の竜の手伝いをしている?それをどうやって証明すんだ?利己的に竜を利用してるだけかもしれねぇじゃねぇかッ」

 ハロルドさんの視線がギロリとニステルを捉える。

「出しゃばるな、ヒュムの小僧。槍を構えたところで、死活を握っているのはこちらだ。竜を殺せる力を持つ黒髪ならまだしも、何の取り柄もない小僧が喚いたところで何も変わらぬわ」

 ニステルの顳顬(こめかみ)がピクピクと動き始めた。

「そうかい。なら、試してみようじゃねぇかッ!!」

 ニステルの魔力反応が極端に上昇した。

「ニステル!何を―――」

 言葉をかける前にニステルの槍が煌めいた。

 それは武技ではなかった。武技なら発動させるのに言葉を紡ぐ必要がある。

 だけど、魔法でもない。元素が集まってくる様子がまるでないのだ。

 良くわからない霊気を纏わせた槍による一閃。見ようによっては墓守の一族の秘儀である霊滅(りょうめつ)ノ息吹に似ているのかもしれない。


 ニステルの惡獅氣(あくじき)を纏う槍がハロルドの懐目掛けて放たれた。

 槍の動きに合わせ、ハロルドの右腕が動く。槍の先端を指先で挟み込み、その動きを止めた。


 そして、ハロルドの右手は弾け飛んだ。

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