ep.59 向き合うは弱き心
森の中に一人取り残され、静けさが不安を煽ってくる。ニステルが戦闘しているのか、森の奥の方から大地を踏みしめる音と葉が擦れ合う音が響いてくる。その音を目印に森の奥の方へと歩いていく。散々殴られた顔は腫れ、口の端は切れてしまっている。左耳たぶに刺さった針を引き抜き地面へと投げた。おそらくあの針には人体を害す毒が塗られていたに違いない。仕方なくなけなしの回復薬をポシェットから取り出し一気に煽った。それなりの回復量と回復速度のものを選んで買ったから、動き回る分には問題ないはずだ。空になった瓶をポシェットに収め、黒鷺を再び握り直す。脱力感はまだあるものの、剣を握るのに支障はない。
「硬殻防壁」
奇襲に備え、黄の元素の鎧を身に纏う。もう奇襲を受けるのはこりごりだ。感覚を研ぎ澄ませろ。物音をひとつ残さず拾いきるんだ。
ゆっくりと歩き出す。
目の前に映る景色のすべてが不気味に思えてくる。綺麗だと思っていた木漏れ日よりも、光が落とす影に意識が向いてしまう。
情けない。心が恐怖に支配されている。俺はここまで臆病だったのか?
バキバキッと遠くから響く枝が折れる音にさえ、心と身体が僅かに跳ねてしまう。
神経をすり減らしながら歩いているせいか、胃がキリキリと痛みだしている。このままじゃ、森を出るまで持たない。意識的に呼吸を整え、副交感神経を優位に働かせていく。こればかりは日本で得た知識に感謝の念に堪えない。
アルフの学園で学び始め、旅を、冒険を繰り返してきて成長していた気になっていた。それが現状はどうだ?アズ村にいた時と何が変わった?リアに助けられ、ニステルに助けられている。人は助け合って生きていく生き物だ。でも、俺は二人の役に立てているのだろうか……?
考えれば考えるほど、自分の不甲斐なさに気分が落ちていく。
視線の先、木の陰からドムゴブリンが必死な形相を浮かべ走ってくる。その手に握られている弓を見れば、ニステルが追いかけて行った個体の1匹なのがわかった。
臆病風に吹かれたこの気持ちを払うには、もう行動で示すしかない。ドムゴブリンを討ち取って、それを自信に変えていくしかない。
黒鷺のグリップを握る手に力が入る。
幸いこちらに気付いていないようだ。ドムゴブリンは後ろを気にしながら走っているせいか、弓を構える素振りがまったくない。目には目を、奇襲には奇襲を。咄嗟に木の陰へと身を潜ませた。顔を少し覗かせ、ドムゴブリンの様子を窺う。
まっすぐこちらへと走ってきている。
ニステルの姿は………、見えない。てことは、あのドムゴブリン……仲間を見捨てて逃げてきた?途端に酷く醜い存在のように思えた。生き残る為には、その選択は正しいのかもしれない。でも……、そんな生き方は俺はしたくない。
ドムゴブリンとの距離が埋まって行き、そして―――真横を通り抜けるドムゴブリンへ向けて黒鷺を真横に振り切った。黒い刀身がドムゴブリンの右腕を斬り裂き、脇腹を斬りつけていく。飛び散る赤い血が服を染め上げた。黒鷺は腹部の深くまで斬りつけ身体をすり抜けていく。ドムゴブリンの身体が横へ回転し、両断することなく剣が抜けてしまったのだ。そのまま地面にうつ伏せの状態で倒れ込んでいく。
倒れたドムゴブリンの姿を見下ろす。
一歩間違えれば、さっきの攻防で俺がコイツみたいに倒れていてもおかしくはなかったんだ。命を懸けた戦いは時として無情である。
討伐の証である右耳を斬り落とす為にドムゴブリンに近づき膝を折った。
ビュンッ
何かが素早く動く音が耳に届く。その直後、左腕に激しい痛みが走った。岩の尻尾が硬殻防壁を張った守りを容易く貫き、左腕を叩きつけていた。その勢いは留まらず左腕もろとも左脇腹に強い衝撃を伝えて来る。
「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ッ!!」
悲鳴にも似た声が漏れ、身体が右手側に吹き飛ばされた。痛みのあまり黒鷺が手から離れ、地面を転がり仰向けの状態で身体が止まる。
寝転んでいる場合じゃない!すぐに立ち上がらないと……。
身体を起こそうと上半身を起こしかけた時、視界の端に見下ろすドムゴブリンの姿があった。右腕を失い、腹から血が滴っている。それ以上に目を引いたのは、怒りを宿し睨みつける双眸だった。尻尾が振り上げられ、勢いよく振り下ろされる。
まずいッ!?
咄嗟に身体を横に回転させ、ぐるぐると転がって行く。
尻尾が左腕を掠め地面を叩いた。それでも尻尾の動きは止まらない。距離を詰めながら何度も何度も尻尾が上下を繰り返す。
止まることができず、必死に地面を転がって避けていく。
だが、それも限界を迎える。
木にぶつかり、身体を回転させることができなくなってしまったのだ。
ドムゴブリンの怒りの形相は崩れず、トドメとばかりに一際大きく尻尾が跳ねた。
「硬殻防壁!」
苦し紛れに武技を発動させる。致命傷さえ避ければまだ活路は見出せる。迫り来る尻尾に身を強張らせて衝撃に備えた。
「ったく、その爪の甘さは直らねぇな」
ドムゴブリンの足元に黄の元素が満ちてくる。地面を突き破り、岩の柱がドムゴブリンの身体を押し上げていった。股を裂くような形で岩の柱に留まるドムゴブリンから、鮮血が滴り落ちてきた。
この声、この魔法。間違いない、ニステルだ。そう思ったら自然と身体の力が抜けていく。起こしかけた上半身が地面へと崩れ去り、ただ呆然とニステルを眺めることしかできなかった。
「また派手にやられやがって」
ニステルが手を差し伸べてくる。
「うん、自分でもダサすぎると思ってる」
手を伸ばしニステルの手を取った。腕がぐっと引っ張り上げられ、何とか立ち上がることに成功した。
「あぁ、ダセぇな。だが、自覚があるだけまだマシだ」
相変わらず辛口な皮肉を言って来るけど、何時に無く優しい表情を浮かべている。
「転がってる剣を拾ってこい。その間に右耳を斬り取っておくからよ」
「わかった」
手放してしまった黒鷺を拾い上げ、一旦森の外へと歩き出す。
森を出てすぐ近くの丘に腰を下ろした。俺達が最初に出会った日にも休憩したこの場所に。
「とりあえずコイツを飲め」
差し出されたのは回復薬だった。傷を負っているにも関わらず、回復しないでいることで回復薬が無いのがバレたらしい。
「いつももらってばかりで、何か悪いね」
回復薬を受け取り、口に運んでいく。
「そう思うならもっと強くなってくれ。怪我することなく魔物を倒せるようにな」
「うん、それは今回の戦いで痛いほど実感させられたよ。ニステルやリアがいなかったら、今頃俺は生きて無いかもって」
「その可能性は大いにあるな」
励まされることなくいつもの辛口口調だ。変に励まされるよりかは随分と気が楽だ。
「俺は今まで二人に甘えていたんだと思う。危険な状態になっても助けてもらえていたし、何とかなるって心のどこかで楽観視しすぎていたんだ」
ニステルは言葉を挟まない。ただ黙って言葉を待ち続けている。
「森でニステルと離れてから、ずっと恐怖心が拭えなかった。些細な音にも過剰に反応して、余計に自分を混乱させていたんだ。今の俺に足りないものは、元素への適正でもなければ、鍛錬でもない。心の強さが圧倒的に足りてないんだ。もっと、もっと強くなりたい……」
誰かを頼らずとも一人で状況を打開できるように。困っている人に手を差し伸べられるだけの力が持てるように。
「それは誰しもが通る道だ。自分の無力さに打ちひしがれ、自分という存在が嫌になる。それでも憧れは捨てきれねぇときたもんだ」
「ニステルも経験があるの?」
言葉を投げると、ニステルは空を見上げ遠くを見つめるような目をした。
「さぁな」
ニステルの視線がこちらに戻ってくる。
「俺は昔から強かったからな」
そう口にするニステルの表情はどこか儚げだった。
「ニステルらしいよ、その強気」
深くは詮索はしない。誰しも語りたくのない過去の一つや二つはあるもんだ。
笑みを浮かべる二人の間に沈黙が訪れる。それは気まずい沈黙ではない。心が通じ合ったような不思議な感覚に包まれていた。今この場において言葉なんて必要ない。そう思わせてくれる温かい時間が過ぎていく。
それから暫くして、ニステルが討伐してきたドムゴブリンの数を教えてもらった。弓を持ったドムゴブリンを追ってから、すぐに2匹を狩り、奥から湧いてきた個体を追加で4匹も狩って来ていた。曰はく「群れて来ればいいものを、律儀に1匹ずつ現れるもんだからとても楽だった」らしい。何かもう言葉にならなかった。
最初に狩った3匹と奥で狩った6匹。俺が狩った1匹と最後の1匹を合わせれば合計で11匹狩ったことになる。今回の依頼は10匹討伐することで達成となり、余剰分も報酬が出るから狩れば狩るほど報酬が増える。でも、今は必要数狩れればそれでいい。余った時間はオミナ鉱石の採掘に回したい。
「それじゃ、そろそろザイーツ洞穴に向かうとするか」
「まずは下見かな。道具も持ってきてないし」
ククノチの森を迂回し、南西へと歩き出した。
「リアが帰ってくるまでに用意してドヤ顔してやりたいとこなんだがな。モノが物なだけにできねぇのが悔しいよな」
「どんだけリアにマウント取りたいの!?」
「だってよぉ、本来のエルフに戻る為に必要なもんなんだろ?そりゃ喉から手が出るほど欲しいはずだ。そんなもんを用意できたら、いつも高圧的なアイツのしおらしい姿が見れるかも知れねぇんだぜ?」
確かに、高圧的かは置いといて、控えめな姿を拝めるのは悪くないかもしれない。
「お?心が揺れたな?お前も大概じゃねぇかよ」
「そ、そんなんじゃないやぃ!」
緩みかけた表情を引き締めそっぽを向く。
「年上好きもいいが、自分を大切にしてくれる人を選んどけよ?」
「だから、そんなんじゃないって!」
揶揄うニステルの言葉を否定してザイーツ洞穴を目指して歩いていく。
ザイーツ洞穴。ストラウス山脈の始まりの地であり、すぐ際にククノチの森が広がっている。木は伐採されており、山の地肌が剥き出しとなった斜面にぽっかりと穴が開いている。高さ7〜8m、幅10mほどだろうか。穴の周りにはテントや馬車を置ける場所が作られ、採掘が行われていた痕跡がいくつか残っている。今では誰も寄り付かないようで、草木が侵食し、自然を取り戻しつつあった。
「やっぱり採掘者はいないようだな」
洞穴内を照らし出す光はなく、採掘を行なっている音も響いてこない。
初級光属性魔法ルイズで洞穴を照らしながら進んでいく。
「相当採掘には時間がかかりそうな……」
奥まで伸びる道を歩き壁を見渡す。入り口付近は鉱石が出ないのか、真新しく削られた場所は見受けられない。岩の角は緩やかな丸みを帯びており、長い年月触られていないことを示していた。壁伝いに小さな蜘蛛や蛇が移動しているのが見えた。種類の分からないような小さい虫が集まり蠢いている姿は鳥肌が立つ思いだった。虫嫌いからしたら地獄のような空間だろう。出入り口まで行かなければ逃げることができないのだから。
暫く歩いていくと、鋭利な断面を覗かせるエリアまで来ることができた。
「この辺から採掘が始まったようだな。黄の元素の濃さを考えれば程よい場所か」
元素が濃い場所に鉱石は出来やすい。その中心部に行けば採掘で得られる可能性は高くなる。必然的に移動距離も長くなるというわけだ。ニグル鉱石の時もそうだったけど、採掘作業の辛さもさることながら移動に時間を奪われがちだ。特にここはアクツ村とは違い、空気の管理がされていない。下手に火を扱うと、それだけで命を取られかねない。
「なら、もっと奥まで行かないとだね」
ここが採掘の始まりの場所であるのなら、長年採掘されていることを考えれば、鉱石が出てきやすい未採掘エリアはかなり奥になるだろう。すでに入口から2〜3kmほど進んでいるような気がする。ここから更に奥となると………考えるだけで疲れてくる。アクツ村での採掘と違うのは、寝泊まりができる場所までの距離だろう。ザイーツ洞穴から王都までそれなりの距離がある。その時間まで考えると、かなり早い時間から採掘を行わないと夜までに王都には帰れない。結構難儀な問題だ。
「下見はこの辺でいいだろう。一旦王都に帰るぞ」
物思いにふけっているとニステルから下見の切り上げが提案された。この光景が奥まで続いていることを考えると、確かにこれ以上は進む必要性が無い気がしてくる。ニステルの言葉に従い踵を返した。
特に魔物と出会すことなく洞穴の外へと出ることができた。もともと魔物が出にくいところなのか、人の出入りが多かったことが原因なのかはわからない。
だけど、予想外の人物と出会ってしまった。
「あれ?お兄さん、また会ったね」
ジスタークの砂浜で出会った麦わら帽子に膝丈までの無垢のワンピースに身を包んだエルフの少女だ。連れもなく一人でこんな辺鄙な所まで来たというのだろうか?
「誰だ?」
少女はニステルの方にくるりと身体を向ける。その動きにふわりとワンピースの裾が舞うように後を追う。
「こんにちは。お兄さんは初めましてだよね?私はカミュン。お兄さん達も洞穴に用があるのかな?」
顔を傾げ下から覗き込むような仕草でニステルを見つめている。エルフとはいえ、どことなくあどけない姿と仕草から、見た目相応の年齢を感じさせる。
「お兄さんはよせ。そんな呼ばれ方したらこそばゆいっての。ニステルでいい」
カミュンはくすくすと笑う。
「恥ずかしがり屋のお兄さんがニステルで」
カミュンの視線がこちらを向いた。
「俺はカミルだ。よろしくな、カミュン」
カミュンが笑顔で頷いた。
「元素に愛されてるお兄さんがカミルね」
また変なことを言う……。
「元素に愛されてる?こいつがか?」
疑わしそうなニステルの視線が突き刺さる。俺もその言葉は信じ難いさ。
「そうだよ?やっぱりみんな視えないんだね」
「何がだよ」
カミュンがニステルの方を向くと、弾ける笑顔で答える。
「何って、元素だよ」
「はぁ?」
ニステルがすごい胡散臭そうに視線を送っている。小さい女の子に対してその目つきは可哀想だと思うよ、うん。
「いつか視えるようになるといいね」
ニステルの表情は気にせず洞穴の方へと歩いていくと、穴の中に視線を送っている。
「何なんだよ、コイツは……」
「それで、カミュンは一人で何しにここに来たの?連れは?」
どうしても気になって聞いてしまう。
くるりと身を翻し、笑顔のまま答えてくれた。
「ううん、私一人で来たんだよ。竜の活動が激しくなってるみたいなの。だから様子を見に来たんだよ?ここもちょっと危ないかもね」
不穏な事を言っているけど、そういうお年頃なのかもしれない。
「そっか、俺達ももう帰ろうと思ってたんだ。カミュンも一緒に帰る?」
カミュンは首を横に振る。
「私はすぐ帰れるから大丈夫だよ」
すぐに帰れる?この辺りに住んでいるのだろうか?確かにエルフは森に生活の拠点を置くことが多いらしいけど、すぐ近くにあるのはククノチの森だ。そこに集落か何かがあるのかもしれない。
「うん、わかった。気を付けて帰ってね」
「は〜い。お兄さん達も気を付けてね」
笑顔で見送られ、ザイーツ洞穴を後にした。とは言っても、矢張り少女一人を残していくのは気が引けて振り返ると、元気に手をぶんぶんと振っていた。
「お前、あんな年下もイケる口なのか?」
不穏なニステルの発言に「そんなわけないでしょッ!!」全力で否定しておいた。
王都の門を潜る頃には日も傾き、依頼帰りの冒険者達がギルドに押し寄せていた。まあ、俺らもその中の一組なんだけどね。手早く依頼を完了させ、ギルドのテーブル席に腰を落ち着かせている。
「明日は依頼は辞めて、採掘してみるか?」
「俺もそれ言おうとしてた。試しに採掘をしてみたいと思う」
もうリアが言っていた2週間はすでに過ぎ去り、いつ王都にやってくるかもわからない。オミナ鉱石を入手できなくても、採掘を行うサイクルの感覚は掴めるだろう。
「なら明日は南門集合でいいか?」
「問題ないよ。早い時間帯から行きたいから、8時集合でも大丈夫?」
「それで構わねぇよ。採掘道具一式はレンタルするとして、お前は回復薬を忘れずに買っとけ。またいつやられるか分かったもんじゃねぇ」
「うん、そこは大丈夫。死活問題だから忘れないよ」
回復役は命綱。使わないに越したことはないけど、あるだけで心に余裕が生まれ落ち着いて行動できる。
「じゃ、また明日な」
心做しかいつもより優しい雰囲気のニステルを見送り、宿へと戻っていった。
深い森の奥。月の光が僅かに射し込み、エルフの少女を照らし出す。木々の合間に佇み両手を広げ、周囲の元素に意識を集中している。
「どうだ?元素は安定しているか?」
長い金髪を後頭部で束ね、ポニーテイルにしたエルフの男が少女の背後から問いかけた。
エルフの少女―――カミュンは長い髪を揺らしながら振り返る。夜だからか麦わら帽子は被っておらず、艷やかでサラサラとした髪が姿を覗かせている。
「この辺は大丈夫だよ」
屈託のない笑顔で答える。
「心配なのは、昼間に行ったザイーツ洞穴かな。黄の元素の濃度が高まり過ぎてて、このままだと竜を呼び寄せちゃうかも」
「それは由々しき事態だな。人が寄りつかぬようにせんと」
「見た限りだと、人はそんなに寄り付く場所じゃなかったよ?ああ、でも……」
カミュンが言い淀む。
「どうした?何か心配事か?」
「うぅん、もしかしたらヒュムのお兄さんが二人、近い内にまた向かっちゃうかも」
男の表情に変化は無かった。感情をおくびにも出さず、淡々とただ自分のやるべきことを全うする。そんな雰囲気を感じさせている。
「そうか、邪魔が入らぬ内に手を打つとしよう」
そこにヒュムの存在があろうとも厭わないようだ。
その態度にカミュンは頬を膨らませ、腰に手を当て抗議をする。
「ハロルド、貴方って心をどこかに落としてきたんじゃない?」
その言葉に、男は初めて心を動かした。
「ふっ、そうかも知れぬな」
悪びれる事なく答えると、カミュンを追い越し森の中を進んでいく。
カミュンはジト目で視線を送っているが、ハロルドと呼ばれた男は気にする素振りなど見せない。
着いてこないのに気づいたのか、カミュンへと振り返った。
「どうした?来ぬのか?」
不機嫌さを隠さずにカミュンは歩き出した。
「ハロルドって、やっぱ変な人」
自分を納得させるように呟くと、ハロルドと共にザイーツ洞穴を目指し森へと姿が消えてゆく。




