9話 動物園デート?と約束
今日はもう1話あげているのでそちらから読んでもらえると嬉しいです!
私はお手洗いに行くため遥くんにひなを預けていたが、戻ってくると数人の男女と二人が一緒にいた。何やら友達!って感じはしない…。別に特に深い意味はないのだが、私は思わず物陰に隠れてしまう。
「し、知り合いかなぁ…。ならひな邪魔になってない?」
私は内心では不安になり今すぐひなを回収したかったが、あそこに飛び込む勇気はない…!もし友達だとしたら私こそ邪魔になる。
「遥の妹さんってまだこんなに小さかったっけ?お前もずっと子守りしてんのー?全然変わんないな。まだ妹離れできてないの?」
一人の男の子が遥くんを見て吐き捨てるようにそう言った。
「いや…この子は知り合いの妹さんだよ。今日は一緒に来てて、今ちょっと俺が面倒見てるんだ。」
「はー?ついに自分の妹以外の面倒まで見てんの!?そんなに小さい子が好きなの?」
男の子たちは小馬鹿にしたように笑っている。遥くんはそれでもひなに聞かせないようにしてくれているのか自分の方に寄せて頭を撫でている。
「遥ってやっぱり変わってるよね…。それにせっかくその顔なのに、全然遊びにとかも来なかったもんねー。その…いくら顔が良くてもいっつも妹、妹ってさぁ…シスコンって正直きついよ?」
女の子が少しだけ苦笑いしながらそう話す。
「あはは…別にシスコンってわけじゃ…あの時は家事もしなきゃだったし、妹も小さかったから…。母さんも忙しかったとはいえ…まぁ俺が心配性なのは否定できないけどね。」
「変わんないねー…いっつも妹の世話とかでクラス会とかも来なかったもんね。顔が良いからちやほやしてたのにノリ悪いからさ、後半ハブられてたの自分でも分かってるでしょ?いい加減卒業したら?他人の妹の面倒まで見るとか…正直キツいよ?」
なんか聞いちゃいけないようなことを聞いている気がする。彼が隠していたことや秘密にしたいことを知ってしまっているような…。
彼はもしかしたら私よりずっと大変だったのかもしれないなと少し思う。
「悪いんだけどさ…もういいかな。昔の話は昔の話だから。それに今この子と来てるから…もし怖がらせちゃったら悪いしさ…。」
ひなは状況がよく分かっていないのかただ遥くんの足元にしがみついている。
「え?これ俺ら悪い感じ?ただ仲良く話そうって言ってるだけじゃん!昔みたくならないようにって!」
「俺は別に後悔してないよ。妹の面倒見てたことに後悔なんてないし、お前らより妹の方が大事だったのも事実。それが気に食わないとか、イメージと合わないんだったらそれでいいよ。…じゃあ俺たち行くから。お前らも元気でね。」
「ちょ、ちょっと待ってよ…!遥…!別にそういうことじゃなくて…!」
一人の女の子が引き止めようとするけど…。
私も突入するか悩んだうえで流石に二人のもとに合流する。
「すみません!この人の連れです!失礼します!」
私は思わず遥くんの手を引いてその場から走り出していた。途中でひなもちゃんとついてきてるか心配になって振り返ると遥くんがしっかりと手を繋いでいてくれてほっとする。
「ご、ごめんね…強引に引っ張ってきちゃって…。迷惑じゃなかった?」
急に自分のしたことが恥ずかしくなってきた。あんな急に…向こうもびっくりしてるだろうなぁ…。
「ううん、全然。それに嬉しかったですから、なんか分かんないけど…。でもかっこ悪いところ見せちゃったなぁ…。それにひなちゃんもごめんね。怖くなかった?」
ひなはふるふると首を横に振ってまた足にしがみついている。全然関係ない話だけど…この子足にくっつくの好きだなー…。
「かっこ悪くなんてなかったよ、ほんとに。」
「え?あー…そうですか?なら良かったぁ…昔苦手だったものって今になってもやっぱりだめですね。もうとっくに平気になったと思っても、ちょっとしたことで怖くなっちゃって。…さ!続き見ましょっか!ひなちゃんは何見たい?」
ひなは悩んだような様子で真剣に考えている。
「えーっとねぇ…とら!」
「トラかぁ…なら向こうのエリアだね。行こっか!」
ひなはぱっと笑顔になって遥くんの手を繋いで進んでいく。
私は彼と少しは仲良くなれたと思ってたけど…やっぱりまだ何も知らないみたいだ。知らないことだらけなのに、それでも不思議と彼は信頼できると分かる。そしてこの人のことをもっと知りたいと思ってしまうのはいけないことだろうか。
あんなに綺麗な顔を隠したいと思ってしまうのも、もしかしたらひなや私に優しくしてくれるのだってなにか理由があるのかもしれない。それでもこの時間がもう少しだけ続いて欲しい。
「ゆいさん!ぼーっとしてるとはぐれちゃいますよ!」
二人が私の方へ手を振ってくれるのを見て私も慌てて走り出した。
「ご、ごめんねー、完全にぼーっとしてたよ。」
ひなはもう片方の手で私の手を握る。
「お姉ちゃんはぐれないようにね!」
気合いの入った顔でそう言うので私は思わず笑ってしまった。少しだけ怒ったような顔をしていたけどそれでも楽しさが勝ったのかニコニコしている。
その後も三人で動物園の隅々まで巡っておそらく全ての動物を見たと思う。終盤あたりから明らかに眠そうだったけど、散々はしゃいで流石に疲れてしまったのかひなはもう爆睡している。
「ごめんね…ひなが寝ちゃって…。重くない?最近この子もすっかり大きくなって…重くなってきたんだよね…本人に言ったら怒るけど。」
ひなは遥くんにおんぶされて幸せそうに爆睡している。眠くなった時に抱っこされに行ったのが私じゃなくて遥くんだった時は少しだけ、少しだけショックだったけど…。
「いやいや、全然。それにあんだけ遊んだから疲れるのは当然ですから、むしろここまで体力あるのにびっくり。うちの妹なんてすぐ寝てましたから。あいつのこともいつもこうやっておぶってたなあ…。今じゃすっかり生意気ですけどね。って前もこの話しましたっけ?」
彼は恥ずかしそうに口元を触っている。
「その…髪の毛…嫌だったら無理に顔を見せなくてもいいんですよ?ひなのわがままですから。」
さっきの会話だけで特に何かをわかったわけじゃない。それでも顔を隠すようになったのは原因があることは流石に分かる。
「いいんですよ。俺もそろそろどうにかしなきゃと思ってましたから。リハビリ的な?妹にも長ったらしいのはうざいって文句言われちゃって…。」
「き、切らなくていいんじゃないですか?べ、別にその…すぐに克服しなきゃいけないってこともないですから!」
別にそんなに慌てるような内容じゃないのに何故かテンパってしまった…。変なやつだと思われてないといいんだけど…!
「やっぱり変ですか…?昔から言われるんですよ、もったいないとか…期待はずれとか。顔を褒められるのって嬉しいんですよ、でもその人の期待に沿えているのかなとか思っちゃって…。なんかちょっとキモイ話してますね…!」
「す、素敵だと思います!その…中身が!ひなにも優しいし!あ、もちろんお顔も大変素晴らしいと思います…!…なんかごめんなさい…。」
明らかに変なことを言ってしまった…!ポカーンとした顔で私を見ている。
そのまま沈黙に包まれたまま私たちは駅まであっという間に着いてしまった。
「こ、今度!うちに来ませんか?ひ、ひなが遥くんに宝物を見せたいって…!」
私は思い切って彼を誘ってみることにする。
彼はいつもと同じよう、少しだけいつもより嬉しそうに微笑んで
「ぜひ!空いてる日連絡ください!待ってますから!」
そう言って笑顔で反対のホームへと去っていく彼を私はしばらく眺めていた。
「あーあ…いっちゃった…。流石に家の中で帽子は変だよね…。」
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