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8話 大人になって動物園に行くと意外と楽しい

俺は今日ひなちゃんのリクエストに応えて動物園に来ている。動物園に誘われてからも何度かスーパーや公園には行っていたが、やはり遊びに行くというのは少しだけ緊張する。

入園ゲートの側で待ち合わせすることになっており、俺は今待ち合わせ場所で待機中だ。今日はもうひとつリクエストされたのでヘアピンで簡単に髪を分けている。ひなちゃんはこっちの方が好きらしい。


「お兄ちゃん!ひなだよ!」


ひなちゃんは待ち合わせ場所に着いて早々に俺のもとへと駆け寄ってきてくれる。そしていつものように足にしがみついて俺を見上げるようにして話し始める。


「あのね!今日はね!おめかししたの!」


そう言ってツインテールに結んだ髪の毛を自慢げに見せてくれる。


「そっかあ!お姉ちゃんにやってもらったの?可愛いね!よく似合ってるよ。」


ひなちゃんは俺の前で何度もくるくる回って見せてくれる。内心俺は目を回さないか心配で髪型よりもそっちが気になってしまう。


「お兄ちゃんもかっこいいよ!顔だしてるほうがいい!」


ストレートに褒められることはあんまり無いから少しだけ照れる。子どもの言うことだけど、だからこそ本心な気がして嬉しくなる。


「ひな!早いよー!またはぐれるんじゃないかって心配だったんだから!…遥くん、おはよう。待たせちゃったかな?」


相変わらず完全防備のスタイルでお姉さんのゆいさんがやって来た。俺はまだ一度もちゃんと顔を見たこともないから、街で会ったりしても気づける自信が無い。


「俺もちょうど今着いたところですよ。ひなちゃんは今日も元気ですね。」


「お兄ちゃんは目立つからすぐわかる!」


はぐれることはないというアピールなんだろうけど…多分そんなに目立たないよ…。それにしても頭を撫でると嬉しそうに笑うので俺もやめ時を失う。


「きょ、今日はいつもと雰囲気違うんだね。」


「あれ、やっぱり変ですか?実はちょっと俺も緊張してたんですよ、顔見せるのあんまり得意じゃないくて…。全然戻すんでいつでも言ってくださいね。」


ひなちゃんはともかく、ゆいさん相手だとやっぱり少し緊張する。お互いろくに顔を見せないから楽だったという気持ちも少しだけ。


「ううん!全然、全然素敵だよ。ちょっとびっくりしちゃっただけ、ごめんね。でももし嫌だったらひなのことは気にしないで戻してもいいからね。」


イメージが違うとか言われなかったことに何よりほっとした。内心拒否られたりしたらどうしようって不安だったからな…。


「ありがとうございます、よかったー!じゃあ今日はこのまま行きますね!」


ぐいぐいとひなちゃんに袖を引っ張られている。


「はやくはやく!ゾウみたい!」


最初に見たいのゾウなんだ…なんか渋くない?そんなことない?俺小さい頃はトラかライオンが見たかったなー。


「とりあえず行きましょうか、ひなちゃん待ってますし。」


「今日はお世話になります。ひなもずっと楽しみだったみたいだから、大変だと思うけど…ごめんね。」


張り切っているひなちゃんに手を引かれて俺たちは入園し、まずはゾウを見に行くことにする。今日は休日ということもありとにかく混んでいる。


「ひなー、はぐれないようにお姉ちゃんと手繋ごうね。」


ひなちゃんは渋々といった様子でゆいさんと手を繋いで歩き始めた。こうして並んでるとほんとにかわいい姉妹だ。


「おっきいねー!ゾウ!…でもくさい…。」


あんなに楽しそうにゾウを見に来たのにひなちゃんは動物の臭いを嫌そうにしている。紬も子どもの頃動物園に来るといっつも臭い臭いって騒いでたなー…。意外とこの臭いのも楽しいらしいけど。


「ひな、次は何見たい?」


「うーんとねー、キリン!ゾウとキリンはにてる!」


似てるか…?いや、子どものこういう感性はすごいな…俺には全くわからん!まぁでも鼻と首のどっちが長いかの違いといえば似てるのかな…。


「お兄ちゃん、手つないでもいい?お姉ちゃんあきたから。」


思わず、ばっとゆいさんの方を見る。まずい…明らかにちょっとへこんでる。


「は、はるかくん…繋いであげて…。はぐれたら大変だもん…。」


ひなちゃんは嬉しそうに俺の手を握ってぶんぶんと振っている。かわいいんだけど…子どもって残酷だな…。多分語彙がないから飽きたって言ったんだろうけど…俺だったら耐えられないかも。


ご機嫌でキリンを見るひなちゃんと、少しだけ複雑そうに俺を見てくるゆいさんとの間に挟まれて気まずい。


「みんなおっきいねー!お兄ちゃんキリン好き?ひなはねーそんなに!」


分からない…!キリン好きじゃないんだ!ゆいさんも少しびっくりしたような顔をしている。


「うーんライオンかなぁ結局は。かっこいいのに惹かれちゃうよね。あとはレッサーパンダとか好きだよ。」


ライオンは全男子が一回は通ると思うよ。あのたてがみに憧れるんだよね。


その後はひなちゃんもライオンが見たいというので肉食獣コーナーへと向かう。


「わぁー!かっこいいねー!」


ひなちゃんは大変ご機嫌である。ちなみに最初は怖いと言っていたので、俺がいま抱き抱えるようにしている。


「ごめんね、大丈夫?ひながずっと甘えっぱなしで…。でも今日は遥くんがいいんだって聞いてくれないし…!」


「いや全然大丈夫ですよ、俺も嬉しいですし。それに俺もちょっと楽しくて、動物園って最近来てなかったですけど新しい発見がありますね!」


最初はゆいさんが抱っこしようとしたら思いのほか抵抗して嫌がるので俺がということになった。


それにしても動物園って結構面白い。歳をとるにつれて新しい発見や学びなんかを得られている気がしてくる。今度は紬も連れて来てみようかな。


「鳥ちょっとこわい…お兄ちゃん鳥こわくない?」


「うーんカラスとかは苦手だけどワシとかタカとかかっこよくない?俺そういう鳥は好きだなー。怖かったらもう一回抱っこしようか?」


ニコニコしながら俺の前で抱っこされ待ちのひなちゃんはかわいい。ゆいさんの視線はちょっと怖いけど。


「ちょっとかっこいいかも。あれわし?」


「あれはタカなんだって。私には全然違いが分からないや。」


この姉妹の会話を聞いてるとなんか和やかな気持ちになる。ワシとタカの違いは俺にもよく分からないけどな。


その後いくつかのエリアを回ったあたりで俺たちは園内のレストランで食事をすることにした。


「ひなは旗つきのやつ!」


「じゃあ私パスタにしたから食べ切れなかったらすぐ言いなよ?」


ひなちゃんもニコニコして頷いてから食べ始めた。


「おいしい!お兄ちゃんのやつなに?」


「ん?オムライスだよ。ちょっと食べてみる?結構おいしいよ。」


差し出したスプーンにすぐさま飛びついて食べている。余程おいしかったのか嬉しそうに微笑んでいる。


あいつらか紬以外と外で飯食うのも久しぶりだな…。


そんなこんなでニコニコ笑顔でひなちゃんもお子様ランチを完食した。


「ひなすごいね、全部食べたんだ。お水飲む?」


このやり取りだけで日常が透けて見える気がして頬がゆるむ。


「ごめん、遥くんお手洗いに行ってくるからひなのこと少し見ててもらってもいい?」


「もちろん、ひなちゃんも大丈夫?」


「大丈夫だよ!」


というわけでゆいさんが戻ってくるまでの間、ひなちゃんと二人で話をして待つことにした。


今日は楽しいという話や、楽しみだったという可愛らしい話を聞かせてくれて和やかな気持ちで過ごしていると


「ねえ、もしかして桜井遥…だよね?私だって!ほら中学のときの!」


聞き覚えのある声に見覚えのある顔。彼女は確かに俺の昔の同級生、石田香澄だ。


他にも周りには全員ではないが、見覚えのある顔が並んでいた。


結論から言えば俺は彼女が、彼女たちがある種のトラウマとなっている。

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