6話妹と過ごす休日
俺は今日妹の紬と一緒に近くのショッピングモールまで来ている。別に俺が何かを買うわけではなく完全な荷物持ちとしてだ…。とはいえ久しぶりに紬との外出だから俺はわりと楽しい。
「お兄ちゃん!これどう?なかなか良くない?」
試着した服を俺の前で着て見せてくれる。俺の前でクルクルと何度も回って見せる姿はほんとにかわいいと思う。
「うん、似合ってるよ、かわいい。それも買うか?」
褒め言葉が不満なのかいまいちそうな顔だ。
「うーん…一旦保留!とりあえず今キープした分だけ買うわ!お兄ちゃんのリアクションも微妙だしねー。」
そんなつもりはなかったけどたしかに他のやつの方が俺の好みではある。まぁ妹に対して変な話だけどな。
紬は結構思い切りがいい、かなりの量だが即決で購入する。最近じゃ俺の着てる服より高いことも余裕である。
「てかさーお兄ちゃんさー、落ち着かないのは分かるけどそろそろ慣れなよ。髪上げた方が断然いいんだから!私と歩く時はいつもみたいなのは嫌だからね。」
そう今日俺は前髪で顔を隠すことを禁止されている。紬と出かける時は基本そうだ。長い髪がうざいとかダサいらしくて紬は嫌がる。
「そうは言ってもさあ…もう一年以上は下ろしてるから今更上げると寂しいっていうか…心もとないというか…。セットも苦手だし…。てか結構いまの学生生活楽でいいんだよね。」
「そんなの私がやるから!…まぁお兄ちゃんが嫌なら無理にとは言わないけどね。昔とのギャップでそのダサさ、なんか私の方が落ち着かないのよ。学校では別に関係ないけどさ、家ではせめて結ぶくらいしてよ。」
紬は俺がダサいダサいと文句を言うので二人で出かける時は服から何から指示通りの格好をすることになっている。別にダサくなりたくてなってるわけじゃないから抵抗はないが…前髪が見えないと不安になるのってあるある…?
「自分でやるのは面倒だけど紬がやってくれるなら嬉しいよ。それにそろそろ覚えなきゃとは思ってたんだよ。ほら昔は髪短かったからセットとかしなかったし。」
「…なに?セットして会うような相手がいるってこと…?聞いてないんだけど。」
少しだけ妹の目が怖い。
うーん…なんか良くない時の雰囲気だな…。とはいえ隠し事をするのも気が引けるので俺は正直に説明する。
スーパーで出会った迷子に懐かれて、時々面倒を見てると言った時は若干引いた目で見てきたけどしょうがないんだ。ほんとのことなんだから。
「へー…それでその迷子の子と会う時はセットして行こうかな?ってところなのね…。私ほんとにお兄ちゃんが幼女ちゃんのこと好きになっちゃったのかと思っちゃったよ。まぁでもなかなか見所のある子どもね。」
お前は俺の妹だろ…なんでそんな上から目線なんだ。
「でもセットしなくてもその子のヘアピンでいいじゃない。多分その髪上手くセットしようと思ったら一人じゃまだ無理だもん。それに学校帰りとかならすぐ出来た方がいいしさ。一応男の子でも使えるようなやつ帰ったらお兄ちゃんに貸してあげるから。」
「おーそんなに考えてくれるなんて嬉しいよ。なんかさその子を見てるからか、最近昔の紬のことを思い出すんだよね。素直で可愛かったなぁ…。」
「なに…?今の私じゃあ不満ってこと?私を捨てて他の女を妹にしようなんてダメだからね?」
時々まじで目が怖い。このジロっとした目で見られると俺は基本的に逆らえない。まぁ可愛いんだけどね。
てか他の女を妹にするという発想が特殊すぎる。
「そ、そんなこと言ってないよ。それよりカフェでも寄ってくか?お前も気になってる店があるって言ってたろ?」
紬は俺の腕に掴まって渋々といった表情でついてくる。
「全部お兄ちゃんの奢りだからね、それなら行ってあげる。」
「わかったよ。今あんまり現金ないから頼みすぎるなよ。お前と行くといっつも高くつくんだよ。」
「なに?私と行くの嫌なの?」
さっきよりもずっと鋭い目で俺を睨みつけてくる。
「んなことはない!俺もお前と一緒にいれて嬉しいよ、だからもっと長く一緒に遊ぶためにもお兄ちゃんの財布に優しくてくれると嬉しいな!」
不満そうな顔はしてみせているけど、今度は一転して上機嫌だ。こういうちょろいところもかわいい。生意気だし、昔より素直じゃないけど今が一番可愛いとさえ思ってしまうのは身内贔屓かな。
俺たちは喫茶店の席について話をする。
「へー…それでその女の子とお姉さんと動物園ですかぁ…。んー…まぁその日ならいいんじゃない?私も友達と遊ぶ予定だったからお兄ちゃんの相手してあげられないし。」
「まぁ相手してやってるのは俺の方だけどな。でもなんかあったらすぐ連絡しろよ?すぐ帰ってくるからさ。」
渋々といった様子で、はいはいと短く返事をする。
「それにしてもお兄ちゃんの心からの叫びが効いたみたいで良かったよ。」
テーブルの上にはアイスコーヒーとアイスティー、そしてサンドイッチのみが置かれている。
「さすがにお兄ちゃんの財布の中身が寂しいのは私も薄々気づいてたからね。それにそんなに喫茶店でバクバク食べるほどはしたなくないですから。」
そう言いながら俺の分のサンドイッチまで食べている。まぁ美味しそうに食べているところを見るのは悪くない。
「お兄ちゃん…あんまり食べるところとかじろじろ見ない方がいいよ…そういうところほんとモテないからね。」
とても冷めた目で俺の方を見てくる。
「いや別にそれならそれでいいよ…。俺は特にそういうのは向いてないし。」
「まぁ妹としてはそれはそれで安心だけどね。…でもそれってやっぱり私のせい…?昔から迷惑ばっかりかけてるし…。それこそ中学の時だって…。」
アイスティーの氷をかき混ぜながら紬はそんなことを呟く。
「相変わらず変なところバカだなあ…!お前はほんとに。あんなので切れる縁なら大事じゃないよ。現に薫とか透なんかは変わらず仲良いしさ。それに俺は何度やり直せても変わらずお前の方を選ぶよ。お前が俺のこと好きなように俺もお前のことが好きだからな。」
「ばっかみたい…!少しくらい自分のこと優先したら?私だってもう子どもじゃないんだから!」
顔を真っ赤にしている紬を見て俺も思わず頬がゆるむ。
「俺のこと好きってのは否定しないんだ。お兄ちゃん嬉しいよ…!」
テーブルの下から本気の蹴りが飛んでくる。俺はすねに直撃した痛みのあまり悶絶する。
「お前さ…最近じゃ蹴りも冗談じゃなくなってきてるからな…!昔はかわいいなぁで流してたけどさぁ…!」
「はぁ…お兄ちゃんっほんとにバカだよね…。」
カラカラと氷をかき混ぜる音と妹のため息だけが俺たちのテーブルには流れる。
蹴りの痛さで妹の成長なんか感じたくないよ…。
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