5話 宮島結衣から見た桜井遥
本日もう1話あげているのでそちらから読んでもらえると嬉しいです!
初めて彼を見た時、ひなが懐いているのに驚いた。あの子は少し人見知りなところがあって家族以外の人にあんなに懐いているのを見るのは初めてで、驚きよりも不思議な気持ちになった。
あの日はひながお店の中でふらふらとどこかへ行ってしまい、とにかく心配で店中を探し回った。やっと見つけたひなのそばに男の人が、それもうちの高校の制服を着た人が立っていて私はひなが何かされていないかが心配になってしまった。
しかし私はあまり同じ学校の男子にいい印象がないのだ。告白とはいうものの誰が私と付き合えるか賭けている現場を見たこともある。真剣な人もいてくれるのかもしれないけど…それでも私は誰かと付き合うような気持ちにはなれなかった。とはいえあのときの私はとにかく感じが悪かっただろう。ろくに挨拶もせずにひなの手を引いて帰ってしまった。
その日の帰り道にひなが次はあのお兄さんにいつ会えるのかと聞いてきて初めて、迷子になったひなをずっと見ていてくれていたんだと知った。
それから毎日のようにひながあのお兄ちゃんにいつ会えるのかと聞いてくるからほとんど毎日のようにあのスーパーに通った。結局次に会うことが出来たのは一週間後のあの日。一週間通いつめてようやく見つけられた。
ひなが走り出して向かった先で真剣にコーヒーを選んでいた。そんなところに突然ひなが飛び込んでも嫌な顔一つむしろ笑顔で優しく頭を撫でている姿に私も思わずほっとしてしまった。
色々とお礼をしなければと思い、たずねてみるとコーヒーを一緒に買って欲しいと言われた時は拍子抜けしてしまった。自分で言うのもなんだが、私はモテると思う。おそらく初対面であろう人から連絡先を聞かれるようなことも少なくないし、彼は同じ高校だからきっと今回もそんなとこだろうと思ってしまった自分が恥ずかしかった。
それ以来定期的にスーパーで会うだけの関係が続いたある日。私は何を思ったのか彼に弱音を吐いてしまった。学校の誰にも話せたことがないのに…。少しだけ、私の顔も知らない彼なら受け入れてくれる気がして。
あの日はとても疲れていて、自分だけが妹の面倒を見れないという責任感や義務のようなものがとにかくしんどくなってしまった。
そんな時彼も同じような経験を話してくれた。私だけじゃないんだと失礼だけど少しだけ嬉しい気持ちにもなってしまった。そしてあのときの彼のどこか哀愁を感じさせるような横顔に私は思わず目を奪われた。ほんとに優しい人なんだと分かったし、ひなが懐いたのも理解ができた気がした。
彼が面倒を見ようかと聞いてくれた時、誰かに頼っていいんだと思うことができた。それだけで心が軽くなった気がした。お母さんの負担になりたくなくて、友達にも相談できずに少しだけ疲れていた時に。その一言が嬉しかった。
とはいえついつい勢いでお願いしちゃったけど…普通に考えて妹の面倒をお願いなんてしないよね…?絶対引かれたよね…。
「お姉ちゃん…?げんきない?」
ずっと考え込んでしまったからかひなが心配そうに私を見る。
「ううん、大丈夫だよ。ひな…楽しかった?お兄さんと遊ぶの」
「うん!あのねーアイス食べたの!あとね、ブランコのってー!」
ひなは今日のことを楽しそうに私に話してくれる。前から彼のことを気に入っていたけど、今日はまた一段とすごい。思わず姉として嫉妬してしまいそうになるほどだ。
「あとね!お兄ちゃん、髪あげるとかっこいいんだよ!でも照れてた!」
そう、それがまた私を悩ませるのだ。元々綺麗な顔をしている気はしていたが、正直私も一瞬別人だと思ってしまった。もちろん夕日をバッグにしたあの雰囲気があったのも大きいと思うが、本当に綺麗な顔をしていた。どうしてあんなに隠そうとしているのか分からないほどに。だからこそ隠したがる理由が気になってしまう。
私に一瞬見られた時、彼は慌てて髪を戻して複雑そうな顔をしていた。照れているような嫌がっているような…。
「ひなはお兄さんのこと好きだねー…でもあんまり迷惑かけたらダメだよ?」
迷惑と言われたことが不満なのかとたんに不機嫌そうに頬をふくらませている。こんなところが可愛くてしょうがないのだが、それでも彼はあくまで他人だ。いつまでも親切が続くと思ってはいけない。
「お姉ちゃんはすきじゃない?お兄ちゃんいや?」
下を向いて小さな声でそんなことを聞いてきた。もしかしたらひなはそれが心配だったのかもしれない。
「ううん、嫌じゃないよ。でもお兄さんはひなのお兄ちゃんじゃないから…あんまりわがまま言ったら困らせちゃうからね。」
私たちにはお父さんがいない。数年前、ひなが今よりもっと小さい頃に亡くなってしまった。そのためひなは年上の男性に甘えられなかったから、なおさら桜井くんのことを気に入っているのかもしれない。
私も彼のことが全く気にならないわけじゃない。だけど私は名前を名乗る勇気が出ない。もし私が誰か分かってしまったら彼は遠慮してしまうかもしれない、距離を置かれるかもしれない。それはもう嫌だなと思ってしまうのだ。それくらいには私も彼のことを気に入っていると思う。なによりこんなに喜ぶひなのためにも。
「お姉ちゃん!お兄ちゃんお家によんだらだめ?」
これにはさすがに私も動揺してしまう。詳しく理由を聞いてみると、宝物を見せてあげたいらしい。どうやらもうとっくに私が思っているよりずっと懐いているらしい。
「う、うーん…ダメじゃないけど…まだやめた方がいいんじゃないかなー?あ、じゃあ今度どこか一緒に遊びに行ってもらえないか聞いてみるね。」
ひなは少し悩んでいたけど、動物園に行きたいとのことで。どこかへ出かけるというのは少し緊張するけど…家よりはマシだ。
私は帰ったら遥くんに確認を取らなきゃなぁと思いつつ帰宅した。
帰宅して彼にひなが動物園に一緒に行きたいと言っていることを話してみる。
「うう…なんでこんなに緊張するんだろう…。これ私が行きたがってるとか思われてないよね?積極的な女だな…とか思われないよね…?…あーもういいや!もう送っちゃえ!」
私はもう思い切ってメッセージを送ってみる。思えば私は自分で誰かを遊びに誘うなんていつぶりだろうか。もしかしたらほとんど経験がないかもしれない。
「お姉ちゃん!きた!?へんじ!」
ドタドタとひなが部屋に入ってくる。
「まだだよ、それとひな家の中走っちゃダメだよ。お母さんもそろそろ帰ってくるんだから髪乾かさなきゃ。ほら行くよ。」
ひなの頭をドライヤーで乾かしながら今日のことなんかを振り返る。桜井遥…彼に少しだけ興味がある。少なくとも次学校に行ったら探してみようかなと思う程度には。
「あ、ひな返事きたよ。…えっと予定が合えば大丈夫だって、良かったね!」
しまった…せめて乾かしてから教えるんだったな…。
「ひーなー!じっとしてないと連れていかないからね!」
少しでも気に入っていただけたら評価欄から評価とブックマークをお願いします!