4話 迷子少女と過ごす放課後
放課後にひなたちゃんの面倒を見ることを約束してから一週間程が経った。そして今日がその面倒を見る日だ。とはいえ学校は普通にあるので俺は今日も眠い目を擦りながら必死に授業を受けている。
「えー!それで遥がその子の面倒を見るの!?大丈夫?…まさかその子のこと好きとかじゃないよね?そりゃ分かるよ!いろいろ大変だったから純粋な子を好きになる気持ちはさ!でも子どもはダメだよ…。」
薫は頭もいいのに変なところが馬鹿だ。まぁこれに関しては俺をからかっているんだろうけどな。
「声がでかいよ…そしてそんなんじゃないって。なんか分からないけどすごい懐いてくれてさ。俺だって紬のことで似たような経験したから他人事だとは思えなくてさ…。それにお姉さんからも信用?してもらえたみたいで。たけど逆に心配になっちゃって。あの二人人を信じすぎというか…普通そんなスーパーで会ったような男をそんなに信じるかな?」
俺だから平気だけどさ!変なやつもこの世の中にはいっぱいいるわけで!
「んーまぁそれは確かにね…。僕らはほら、君がいいやつだし、そんな危ないようなマネする度胸なんてそもそもないことを知ってるけどその子たちからしたら初対面だもんね。でもだったらなおさら君が面倒を見てあげるのがいいんじゃない?困って他の人を頼ったりしないようにさ。」
まぁそれもそうだな…。このまま頼る相手がいなくて他の知らないやつに頼って危ない目にあったりしたら大変だ。特にひなちゃんは簡単について行っちゃいそうな不安がある。
「それにしても遥さ、今度暇な時ある?透がさ、僕ばっかり遥を独り占めしてるってキモイこと言ってきてるから三人で遊んでやらないと拗ねそうなんだよ。あいつ違うクラスになったこと未だに文句言ってるんだから。」
透というのは俺たちの友人でもある堂島透だ。良い奴なんだけど声がでかい。薫はうざそうにしているけど俺たち三人は幼なじみ的なところがあってめちゃくちゃ仲がいい。
「もちろんいいよ。まぁ今日は無理としても週末なんかはどう?どっちかは紬の買い物に付き合ってやらなきゃだから、どっちか片方なら大丈夫なんだけど。」
「うん、いいね!あいつは絶対予定空けさせるから大丈夫。じゃあ紬ちゃんの方決まったら連絡してよ。今日はその迷子の少女に譲ってあげるからさ!」
薫はご機嫌で透に連絡を取り始めた。こいつも正直かなり感情が分かりやすいし、かわいいやつだよ。
ーー
放課後俺はいつもとは少し違ってひなちゃんを迎えに行った。
「お兄ちゃん!今日はずっといっしょ?お姉ちゃんが遊んでもいいって!」
会って早々にいつものように足に抱きついてくる。それにいつもよりもテンションが高い気がする。
「んーずっとはないけど、一緒だよ。お姉ちゃんが迎えに来るまで俺と遊んでくれる?」
「いいよ!ひながいっしょにいてあげる!」
ひなちゃんは俺の手を握ってぐいぐいと引っ張ってくれる。何かしたいことはあるかと聞くと恥ずかしそうにアイスが食べたいというのでいつものスーパーにアイスを買いに行く。
「ほらおいで、どれが食べたい?好きなの一つだけ選んでいいよ。」
ひなちゃんを抱えてアイスのコーナーを見せてあげるとひなちゃんは悩ましげだ。
最終的に悩み抜いたうえで二つまで絞り込めたようなので二つとも買って分けることにした。
「んーおいしい!ありがと!」
アイスを食べながらニコニコ笑っているのがかわいい。結局俺の分はあんまり残らなかったけど、嬉しそうだしたまにはこんな日があってもいいだろう。食べ物を買って食べさせるのも一応ゆいさんの許可は取っている。勝手にお菓子とか食べさせるのは嫌がられたりするからな。
「…お兄ちゃんはひなと二人いやじゃない?」
心配そうにひなちゃんが俺を見上げてそんなことを聞いてきた。そんな心配になるような態度だっただろうかと不安になる。
「ううん、全然嫌じゃないよ。…ひなちゃんはお姉ちゃんいなくても寂しくない?」
「んーずっといないのはいやだけどいまは大丈夫!お兄ちゃんといっしょだから!」
とにかくかわいい。もうそれしか言えないほどにかわいい。その後は手を繋いでおすすめの場所があるとかで案内してくれる。ちゃんと交通ルールなんかも守っているし、思ったよりもずっと頭がいい。最初から警戒心がないから心配していたのだけどもしかしたら考えすぎなのかもしれない。
家の近所だという公園まで連れてきてくれた。前に来たところよりも狭いほんとにベンチとブランコしかないような公園だったがお気に入りのスポットらしい。二人でブランコに腰掛けながら話をした。
「それでね、お姉ちゃんも楽しそうなの。お兄ちゃんのおかげだよ!」
あまりにも真っ直ぐに伝えられる感謝なんかに俺も思わず照れる。照れ隠しのためにも俺はさっきよりもずっと大きくブランコを漕いだ。
「久しぶりに乗ると気持ちいいなー!ありがとね!連れてきてくれて!」
ブランコに乗るとやっぱり声がでかくなるのはいくつになっても一緒だ。
「ひなそっちのほうが好きだよ!」
ひなちゃんが俺の前髪を掴んで上に上げる。情けない話だけどあまりに真っ直ぐ見つめてくるので幼女相手に少し緊張してしまった。
「髪上げた方がひなちゃんは好き?あんまり上げないようにしてるんだけど…ひなちゃんが嬉しいならひなちゃんの前だけはこのままでいようか?」
「うん!お姉さんもそっちのほうが楽しいと思う!」
お姉ちゃんも楽しいの意味が分からないけど、気に入ってもらえたならよかったよ。
ひなちゃんは笑顔で俺にヘアピンと髪ゴムを渡してくれる。いざつけるのは恥ずかしいんだけど…俺がつけないのを見ると嫌だと思ったのかひなちゃんがしゅんとしてきたので慌ててつける。
「どう?変じゃない?…恥ずかしいんだけど…。ひなちゃーん?」
「かっこいいよ!ほんとに!」
自分のブランコを降りて俺の膝の上に乗ってきた。急にどうしたのかなと思ったけど上機嫌に足をぶらぶらさせているから喜んではいてくれているだろう。
「ひーなー!ごめんね!待った!?」
少し先からゆいさんが走って向かってくる。てっきり学校帰りにそのまま遊びに行ったのかと思ったけど、服装はいつもスーパーで会う時のような私服とキャップを深く被っている。遊ぶ時もあの格好なのかな?
「えっと…?桜井…遥くん?ひなと一緒だし…。」
髪型がさっきのままだったことに気づいて俺は慌てていつものように戻す。
「ご、ごめんなさい、分かりにくいですよね…。どう!いつも通りかな?」
「あ…うん。いや…よく見えなかったし…別にさっきのままでも…」
ゆいさんはぼそぼそ何やら呟いているがひなちゃんが騒いでいるからいまいち聞こえない。
「やーだー!さっきのがいい!」
そう言って俺の膝の上で駄々をこねているけど、さすがにゆいさんの前では恥ずかしいからダメだ。
「こ、ごめんねー、ひなちゃんまた今度あの髪型にするからさ、今日はもう勘弁してよー。」
なんとか次はという約束をすることで許して貰えた。
「あ、ゆいさん、今日は楽しかったですか?もしまた遊びに行きたくなったらいつでも言ってくださいね!俺もひなちゃんと遊ぶの楽しかったので!」
「あ、ありがとう…。でもこんなこと何度も頼めないもの。それに私、三人で遊ぶのも私好きよ。だから次はまたいつも通りでお願いしたいかな。今日は本当にありがとうね、嬉しかった。…さ!ひな!帰るよ!」
ひなちゃんはまだ遊び足りないのか不満げに文句を言っていたが渋々お姉ちゃんに手を引かれて帰っていく。
俺もそんな二人の背中を見送りながら帰路に着いた。
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