3話 今日の宮島さん
第一話から呼んでもらえると嬉しいです!
「へーそれでたまにわざわざいつもより遠いスーパーまで足を運んでいるってこと?その少女に会いに。」
こんなふうに話すのは俺の友人の薫、沢村薫だ。昔からの友人で、比較的大人しそうな、穏やかな雰囲気や容姿をしているのに言葉には刺があるタイプ。
「そんなふうに言うとさ、俺が幼女狙いみたいな感じに聞こえるだろ…。まぁひなちゃんに会いに行ってるってのは間違ってないんだろうけどさ…。」
冷静に考えると男子高校生があんな小さい子に会いに行ってるって気持ち悪くないか?こんなこと他のやつには言えねえよ…。
「でも遥って優しいから分かんないけど子どもには懐かれるよねー。それに僕としてはその長ったらしい髪の毛を切るか前髪を上げるだけで見違えると思うんだけど…。せっかく綺麗な顔してるんだから見せていけばいいのに。」
わざとらしく俺に向かってため息をつく。しまいには俺の髪に触れてかきあげるように前髪をあげてくる。
「やめてよ…昔から迷惑してんだ。子どもの頃は女顔とか言われるしさ、ちょっと年が上がると今度は手のひら返してきて…。結局は顔と中身が合わないとかって笑われるしさー!」
紬なんかを見てると可愛く育ってくれて良かったけどな。俺はもう少し普通というか…変に期待されないような感じがよかったよ…。
「君ももっとちゃんとしたらモテるんだけどなあ…。それにしても今日はいつにも増して宮島さんはすごいねー…。告白されてるのは今週も何度か見たけど…今日何人目?ていうかもはや結構二周目の人もいない?アトラクションみたいだね…。」
薫が指差す方を見てみると、宮島結衣が今日もまた告白されていた。肝心の告白されている本人は嫌そうだし不機嫌だけどな…。あの表情の相手に臆さずに告白できるのは素直にすごい。俺なら絶対無理だし、逃げ出す自信しかない。
「というか何周目でもいそうな気がするよ。もはや振られる代わりに少しだけ話せるご褒美タイムみたいな扱いだよ。告白する度胸は尊敬するけど、される方には同情しちゃうなぁ…ちゃんとお昼ご飯食べられるのかな?」
ひどい時は毎日のように昼休みになると誰かしらに告白されていてゆっくりと過ごせたことなんかあるんだろうか?
「そんなこと気にしてるのは多分君だけだと思うけどね…。でも言われてみるとたしかにそうかも。意外とされるのは嬉しいのかなと思ってたけど、こんなに頻繁だとそりゃ嫌になるよねー…。」
薫もそう思い始めたのか同情的だ。まぁそうは言っても俺にはあまり関係がない。俺はあの列に参加するつもりもないからだ。
「今日の放課後はスーパー?明日暇だったら遊びに行かない?カラオケのクーポン余ってるんだよ。一人で行くのは緊張するしさ。」
「まぁそうだな。明日なら母さんいるから大丈夫だよ、透のやつも誘う?」
薫は首を横に振っている。こいつは意外と二人で遊びたがるし、俺もそれに特に不満は無い。特にカラオケは待ち時間が暇だから二人でがちょうどいいというのには同意するしな。
ーー
放課後になり例によって今日も俺は例のスーパーまで来ていた。今日は特に狙うような特売もないのだが、ひなちゃんと会う日である。もはや買い物目的ではなく、会いに来てると考えるとたしかに犯罪臭がする気が…。
「お兄ちゃん!ひな来るとき、いつもいるね!」
足にしがみつくひなちゃんの頭をいつものように撫でる。
この子はいまいち待ち合わせだということを理解していない。まぁそれは俺とお姉さんで日程を決めているというのもあるんだけどね。
「ひな、いきなり飛びついたら迷惑でしょ。まずは飛びついていいか確認をとってからにしなさい。」
ここ最近でわかったことがある。このお姉さんも意外と抜けている。
「こんにちは、ひなちゃん。今日も元気だねー。」
スーパーでお姉さんの買い物に付き合って俺もひなちゃんの相手をしながらついていく。
「あの…お兄さんは買い物しなくて大丈夫なんですか?うちの買い物に付き合ってもらってばかりですけど…。」
「あー別に気にしないでくださいよ。特に今日は欲しいものもなくて。だから今日はひなちゃんの面倒見てるので、気にせずお買い物を!」
お姉さんも申し訳なさそうにしていたが、ひなちゃんがはぐれる心配がなくなってほっとした様子だった。
ある程度買い物を済ませた頃になってひなちゃんが不満そうに俺の顔を見上げている。
「お兄ちゃん…ひなスーパーあきた…。公園は?あそべない?」
まぁこの歳の子どもがずっとスーパーで満足してるのがおかしな話であるからな…。うちの妹もこんな時期あったな…。
「ひーな!ダメだよ、これ以上迷惑かけたら。わざわざここまで来てくれてるだけでも感謝しなきゃなんだから。」
お姉さんはひなちゃんをなだめているけど変わらず不満げだ。
「あの…お姉さんさえ良かったら俺は別に大丈夫ですよ。毎日とかは無理ですけど、俺今日は時間ありますし。」
申し訳なさそうに考え込んでいたが、ひなちゃんはもう完全に遊ぶ気だ。こうやって会うことも何度目かだからか、お姉さんの方も多少警戒は緩んでいるようでとうとう遊ぶ許可をくれた。
スーパーでの買い物を終えて俺たちは少しだけ歩くものの近所にある公園へとやってきた。
とにかくハイテンションでひなちゃんが遊んでいる。ついさっきまで俺も一緒に走り回っていたのだが…子どもの体力には敵わない。俺はお姉さんと一緒に近くのベンチに座って休んでいた。
「ひなちゃんほんとに元気ですね…俺も体力に自信あるわけじゃないけど、敵わないなあ…。」
お姉さんと二人で話すことは初めてなので少しだけ緊張する。
「お兄さんって何歳なんですか?その制服…高校のですよね?」
小さくお姉さんが口を開いてたずねてきた。
「高校2年ですよ。あ、もしかして体力ないからもっと年上だとか思いました?やっぱり部活でもやるべきだったかなあ…。」
「いえ…その…私も同い年なんですけど…お兄さんはどうしてスーパーで買い物してるんですか?もっと…友達と遊んだりとかは?」
「あー友達とも遊びますよ、スーパーで買い物するのはうち親が忙しいんでいろいろやんなきゃで。」
もしかして俺友達がいないやつだと思われてる…?必死で否定するとかえって怪しまれるよな…。
「私…ひなのことは大好きなんです。だけど…たまに同級生が羨ましくなって…私もみんなみたいに放課後遊びに行ったりしたいなって。…昔は、と言っても数年前までですけど、母ももっと家に居たので放課後遊んだりしてたんですよ?でも高校に入ってから母の仕事が忙しくなって…私がひなの面倒を見なきゃーって…。あ、でも事情を知ってる仲の良い友達とはたまには遊べてますけどね。すみません、変なこと話しましたね。」
お姉さんはもう一つ深く帽子を被って下を向いてしまう。
「…分かりますよ。俺も妹がいるんですけどね、あいつ昔は俺がいないとほんとにすぐ泣くような子だったし。母さんも仕事で忙しくてそれでどうしても妹優先でしたから。それで人間関係が上手くいかなかったこともあったなぁ…。まぁ今じゃ生意気になりましたけど…。」
ひなちゃんもいつかは俺のこと忘れるんだろうなあ…。そう思うと少しだけ悲しく、寂しくなってくる。
「…何より申し訳ないのがクラス会とかなんですよね…。途中で帰るのも申し訳ないし、そもそも断ると雰囲気も壊しちゃうっていうか…。こんなことばっかり話してごめんなさい…。少しだけ疲れちゃって…。」
「ううん、全然。あ、良かったら…俺が面倒みましょうか…?別に一日ってわけじゃなくて…!放課後ほんの少しくらいならひなちゃんも大丈夫かな…って思ったんですけど…変なこと聞いてますよね…。」
半ば勢いで口にした言葉に後悔した。
彼女に少しだけ昔の自分を見た気がして…思わず口にしてしまったけど…普通に考えてスーパーで知り合ったような男に妹の世話なんて頼むわけないよな…。
「…いいんですか…?その…ひなも懐いているし…私もお兄さんなら大丈夫かなって思えるので…。いやでも…さすがに申し訳ないですし…。ほんとにいいんですか…?」
こ、この姉妹意外と警戒心が薄くないか?いやでもまぁそれだけ信用してもらえたってことならいいんだけど…!
「れ、連絡先…!聞いても大丈夫ですか?その…お兄さんが嫌じゃなかったら…」
「え、ああ!もちろん大丈夫ですよ、これQR読み取ってもらっていいですか?…ああ、ゆいさんって言うんですね!…そういえば名前言ってなかったですけど、俺桜井遥って言いますので!まぁ女の子みたいな名前だって言われますけどね…。」
「桜井遥…かわいい名前ですね。ふふ、それじゃあ今日は失礼しますね。…ひなー帰るよー!今度お兄さんが遊んでくれるらしいから今日はおしまいね。」
ひなちゃんは呼ばれてこちらへと駆け寄ってくる。ほんとに素直でかわいい子だと思う。
「あの…遥くんって呼んでもいいですか?その…嫌じゃなかったらなんですけど…。」
「もちろんですよ!全然、全然嬉しいです!」
「…それじゃあまた。今日は嬉しかったです。」
そう言ってゆいさんはひなちゃんの手を繋いで帰っていく。ひなちゃんがいつものように笑顔で手を振ってくれる。いつもと違うのはお姉さん、ゆいさんも小さく会釈してくれたことだ。そんな些細なことだけどそれが何故かとても嬉しかった。
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