28話 やってみると意外と平気
「ねえねえ遥くん!髪型変えたんだねー!そっちの方がいいと思うよ!」
水泳の授業を終えて教室に戻った後、クラスの女子から話しかけられた。
特に話したことはない子のはずなので名前くらいしか知らない。
「あーうん、まぁ水泳終わりだしね。乾いたらいつもの感じに戻るけど。」
「えーじゃあ絶対髪切った方がいいよ!ねえ、だってかっこいいよねー!」
「ね!ちょっと照れてるのもかわいいー!」
他の女の子も少しだけこちらに集まってそんなことをきゃーきゃーと話している。
正直なことを言うと褒められるのは好きだし、ちやほやされるのも嫌ではない。期待されたくないとか言ってるわけだし、ここは少しわがままなことを言ってる自覚はある。
別に嫌いだとか嫌だとかってことはない。けどこの空気感は少しだけ苦手だ。
うまく説明はできないけど、どう反応していいか分からないからなのかも。
「ありがとうね。でもまだ切るかどうかはきめてなくて。夏はさすがに暑いし、うっとうしくなるから切ろうかなとは少しだけ思ってるんだけどね。」
「セットして前髪あげるだけでもいいと思うよー!
そんなふうにたわいない会話をしてチャイムが鳴る。
さすがに授業が始まるのでみんな席へと戻っていく。
水泳の授業をきっかけに顔を隠すことは少しだけやめたけど、ありがたいことに話しかけてくれる人も増えた。
少しは疲れたけど思ったよりじゃない。それはきっと昔とは何もかも、環境が違うからなんだろう。
あんなにビビってたのが今じゃバカみたいだ。それでもまだ髪を切る勇気は少し出ないけど。
四限が終わりチャイムが鳴る。三限が水泳だったこともあり、四限に関してはほとんど記憶は無い。
水泳終わりの座学なんて全部起きれてるやつは絶対いないと思う。
「はるかー今日は外でご飯食べない?ほら…ちょっと騒がしいと困るじゃん?」
薫は言いにくそうに、面倒くさそうに話す。
「ありがとね、俺もちょっとだけ疲れたなって思ってたとこなんだよ。いい場所知ってるからさ、ついてきてよ。」
「いい場所?いやまぁ僕は別にどこでもいいけど。君意外とそういうところ知ってたりするよね。」
そのまま俺たちは教室のある階より上の空き教室へと向かう。意外と昼休みであっても空いている教室ってのは多い。
特にこの階は特に来るような用事もない教室が多いので、静かに食事をしたかったり友達とゆっくり話したいみたいな時に結構おすすめ。
「ここだよここ。この教室基本的に空いてるからさ、今日も大丈夫そうで良かったよ。」
「なんでこんなところだけは知ってるんだか…。基本的に僕と一緒に食べてるくせにいつこんなとこ見つけるのさ。」
「んー?いつだったかおすすめみたいな話聞いてな。めったに来ないけどさ、お前が休んだ時とかたまにね。」
「…僕が言うのもあれだけどさ、君って友達いないの?いやほら僕だってあんまりいないけどさ…。」
こいつまじで俺より友達少ないくせに哀れんだような目で見てくる。
透はまぁ友達多いけど、お前は俺らくらいしかいないだろ。
「いや別にいるよ?間違いなくお前よりはいる。けどほら、基本お前と飯食ってるだろ?他の友達もグループでいるからさ…。一緒に食べようって言えないんだよ…!」
自分で話してて情けない…。ひなちゃんでさえ最近じゃ人見知りを克服しつつあると聞いてる。
あれ俺ってやばいかな?
一人一人は間違いなく友達なんだよ?でもさ、友達の友達って別に友達じゃないからさ。これは普通の感覚だよ、絶対。
「一人で納得したような顔してるけど…。ま、まぁでもたしかに僕も遥が休んだりしたら一人で食べてるけどさ…。」
誰もいない教室に沈黙が流れる。
なんだか静けさも相まって悲しくなってくる。
「か、かおる…この話やめようぜ。無駄に悲しくなってくるからさ…。」
「そうだね…ごめん…。そ、それに友達がいないわけじゃないもんね!ご飯食べる相手が固定ってだけで!」
引きつった笑顔。やめようって言ってるのに傷をえぐろうとしてくる。
気まずさがありながらも俺たちは座って弁当を食べ始める。
「今日はずいぶんとかわいいお弁当だね。紬ちゃんが作ってくれたの?」
「よくぞ聞いてくれました!今日は紬ちゃん作です!あいつもたまに弁当なんか作ってくれるようになってさぁ。もう嬉しくてしょうがないよ。」
自分の分なんて朝ごはんやら夕飯の残りを適当に入れてたけど、紬が作ってくれると可愛らしいものだ。
食べるのがもったいなくて惜しいけど、食べずに無駄にするのなんて一番もったいない。
「いいなぁ…。いや羨ましがるのも変なんだけどさ。君ら兄妹はほんとに仲が良くてほほえましいよ。」
「まぁそりゃ俺らからしたら親が作ってくれるならそっちの方が羨ましいしな。小中は給食で済ませてもらえるから別にあいつの分を作ったりはほとんどしてないけどさ。」
自分の分だけってなると適当になる。残り物をつめるか適当にコンビニやら学食で済ませることも多い。
「それにしてもさ、遥はまたすっかりモテモテだね。ちやほやされるのもいいけど、僕らともしっかり遊んでよ?ただでさえあの結衣さん姉妹に取られてるんだから。」
半笑いでからかったように話す。
「そりゃお前らとか、宮島姉妹の方が大事だよ。ちやほやされるのが好きってのは否定できないけどな。それでもそっちを優先するほどじゃないって。まぁ言わなくても分かってるだろうけどな。」
思ったよりもちゃんと否定してやったからか、少しだけ照れてやがる。
しかも特に何かを言ってくるわけでもないから気まずい。さっきとは違うタイプの気まずさだ。
「君のそのストレートなところは長所だと思うよ…。話は戻すけどさ、何かあったらすぐ相談してね?君はほら、自分の悩みとかはストレートに話さないんだもん。」
やっぱりなんだかんだで俺のことをちゃんと考えてくれている。その気持ちが純粋に、ただ純粋に嬉しい。
「ありがとね、でも今んとこはほんとに大丈夫なんだぜ?そりゃ前よりは話しかけてくれる人とかも増えたけど。前とは状況も違うんだって、ほんとに理解できたからさ。」
「はるは基本的に脳天気なんだか神経質なんだか分からないよ…。話は全然変わるけどさ、結衣さんとは最近どうなの?」
あまりに急な話題転換にちょっとだけ動揺する。
そしてあまりに抽象的な質問だ。俺もやりがちだけど。
「別にどうって言われても…。普通だよ、ほんとに普通。」
「ふーん…。ねえもしさ、結衣さんと仲良くしてて君にその…迷惑的なことがかかる可能性があったとしたらさ。遥は気にしない?」
「んー気にはするかもなぁ…。だって実害が出てるんでしょ?全く無関心は無理だよ。でもそれで関わるのやめるとかはないかな。だって俺がそういうのされるのやだもん。向こうから嫌がられたら別だけどね。」
納得のいく答えだったのか、楽しそうに笑って頷いてる。その理由は絶対教えてくれなかったけど…。
その後もだらだらと雑談しながら食事を終えて教室へと戻った。
戻った後や途中に数人の女子から話しかけてもらったけど、さっきより疲れない。
きっとそれはこいつのおかげなんだろうな。褒めるとムカつくから絶対言わないけど。




