26話 暑い日はやっぱりプール
昨日の夜からずっと今日雨が降ることだけを願っていた。あんなに嫌がっていたプールだけど、それでも入ってみるとやっぱり最高だね!!
「あーちょー気持ちいい…!なぁかおるー?」
「今日はね…。あーでもほんと気持ちいい…。毎回これならいいのにねー…。」
初回ということもあり今日はただ自由に遊んでいいとのことだ。ガチで泳ぐ人のレーンとだらだら過ごす人用で分けられている。
俺たちはもちろんだらだら側の人間だ。
「このまま過ごしてるだけで出席くれるんだから最高の授業だな。次からは普通に泳ぐらしいけど。」
「うるさいなぁ、僕だってそんなことは分かってるよ。現実逃避くらいさせてよ…。やっぱり晴れた日のプールはいいよねぇ…。」
最大のストレスが無くなったこともあって俺はとにかく気分がいい。そしてそれはおそらく薫も一緒だ。上機嫌でべらべらと喋ってくれる。
「そういえばさ、さっきからあそこに集まってる人たちは何してんの?遥分かる?」
薫の指さす方を見るとたしかに男子たちが集まってグラウンドを見ている。
「さぁ…こんなに気持ちのいいプールに入らないなんてバカのすることだからな。気持ちはわからん。」
泳がなくていいうえに、冷たく梅雨の湿気も忘れさせてくれる最高の時間なのに。
「そんなの決まってるだろ、女子見てんだよ。男子だけのプールに飽きたんだろ。お前らみたくただ涼んでるやつの方が珍しいからな。」
いつの間にか俺たちの背後に回っていた透がそう話す。
そう言われてその集団を見てみると、楽しそうにグラウンドの方を見て話し合っている。
「うぇー…向こうから見たら僕らどう見えるんだろうね。檻の中のから見てくる獣ってところかな?」
薫は別に俺以外にも辛辣だ。ただこればっかりは正論かな。
「透は混ざらなくていいの?お前も別にああいうの嫌いじゃないだろ?」
「遥から見て俺ってそんなイメージ!?…まぁ嫌いではないけどさ…わざわざ混ざるほどでもないんだよ。誰が可愛いとかそういう話はいいけど、体育中の女子をあんまりジロジロ見るのってどうなんだろうって思ってな。」
意外と紳士的なやつなのか…?普段の言動とか素行からはそんな要素全く感じないけど。
「透ってそんなこと考えてるんだ、意外だねー。もっとこう何も考えてないやつだと思ってた。ごめんね付き合い長いのに全然知らないや。」
「いや、ほら透は友達多いからさ!そういうタイプのやつとかといるところも見るからね!薫も少しだけそういうイメージもあるってだけで!」
あんまり言われるもんだから透はへこんだような表情をしているので慌ててフォローする。
ただこれもなかなかいいフォローではなかったらしく表情は微妙だ。
「ひ、ひどいなぁ…特に薫…。もう俺気晴らしに泳いでくるから!二人で仲良くやってればいいよ!」
すごい勢いで薫の顔に水をかけて違うレーンへと移動していく。
「ぼ、僕言い過ぎたかな?でもあいつにそういうイメージあるのはほんとだもん…。現によくそういう話しに来るじゃない。」
「いやあいつも多分暇つぶしに俺らんとこ来ただけだよ…。楽しそうに泳いでるもん。」
「まぁあいつのことは置いといてさ、結衣さんも大変だね…。あそこの集まりはだいたいそれ目的でしょ?」
たしかに大変だなと思う。ていうか俺が向こうの立場なら普通に怖いと思う。まして上裸の男どもが熱心に見てきてるわけなんだから。
「俺はあの人が大変な思いしてるって、少しは分かってるつもりだからさ。なるべく学校での生活で苦労して欲しくはないなぁ。楽に過ごせればいいのに。」
ひなちゃんと仲良く過ごしてるとはいえ、お母さんも仕事が忙しいんだから大変なことには変わりない。
ただただ彼女の負担が小さくなって欲しいと願うばかりだ。
「はると結衣さんは少しだけ似てると思うな。もしかしたら君が一番彼女のこと分かってあげられるんじゃないかな。…学校じゃそんなに話そうとしないのは今の自分に自信がないから?」
「んなことないって言えないのが悔しいよ…。さんざん見た目で判断されるの嫌がってたのに、あの人と話そうと思ったら自分の外見に自信が必要になってるんだ。自分で望んだことなのに、変な話だろ?」
知れば知るほど情けなくなる。顔も知らない出会いだったから楽だったのかもしれない。それが顔を見せるようになって、仲良くなっていったけれど。やっぱり俺は学校の自分に自信を持てないと思ってしまう。自分で望んでこうなったのに。
「はるって昔から頑固だよねえ…。若干ナルシストなのに自分に自信なかったりするし。まぁ僕はそんな君も好きだけどさ。」
「お、なんだ悪口か?俺は透ほど単純じゃないから普通に拗ねるぞ?」
「君が嫌だったのは見た目で判断されることでしょ?僕は人を見た目で判断するってことと、例えば自分がかっこよくなりたいとかって思うことが一緒だとは思わないよ。」
いつもより真剣な顔でそう話すから俺も茶化すことができなくなる。
「こうなりたいとか、憧れるとかって悪いことじゃないでしょ?悪いのはこうなるべきとか、お前はこうだと思ってたとか勝手に期待して失望したりすることなんだから。」
「薫は…俺が上手くやれると思うか?自分に少しだけ、もう少しだけ自信を持ちたいとは思ってるんだよ。それは別に結衣さんも紬も関係なくて。ただ俺のために、もう大丈夫だって思いたいんだよ。」
「君は昔、もしかしたらあの人にとって良い彼氏じゃなかったかもしれないけど、次はきっと大丈夫だよ。はるは紬ちゃんにとって最高のお兄さんになれたでしょ?大丈夫、はるは大丈夫だよ。いつか自信も持てるようになるよ、きっとね。別にどんな君でも僕にとっては最高の友達なんだからさ。」
あーゴーグルしてて良かった…。こんなところ見られたらこいつは絶対調子に乗るしからかわれる。急に真剣になるんだもんなぁ…。
でもほんと雨降らなくて良かったぁ…。
「プールでする話じゃなかったけどね…。まぁ遥のそのうじうじした姿見てると、紬ちゃんと一緒で少し気分悪いからさ。とっとと調子戻してもらいたいし。」
こいつはまた一言余計だ。せっかくいい感じの雰囲気で終わったのにさ…!
とはいえこいつのおかげで元気が出たのも間違いない。
「俺も相手が誰でもさ、堂々と友達ですって言えるくらいにはなれるように頑張るよ!」
「え…?あ、ああ…なんかちょっと違うんだけど…。あれ…好きとかじゃないの…?僕が間違ってる…かな。」
なんか話が微妙に噛み合ってない様子だけどいいんだ!
俺は俺なりの解釈をするから!
授業が終わってみんながプールから出て更衣室へと戻る。
「キャップかぶっててもやっぱりびちゃびちゃだ…。ほら、完全オールバック。新鮮だろ?」
「僕はもう今から次の授業が憂鬱だよ…。君の悩み事はだいぶ解消されたみたいだけどね。ちょっとは僕のおかげでしょ?今度なにか奢ってね。」
口ではまた文句を言ったりしているけど、可愛く見えてきたよ。
それにこいつのおかげってのもその通りだしな。
「今度な、どっか飯でも食いに行くか?」
「ファミレスとかはなしだからね?せめて高い喫茶店何回か奢ってもらわないと!」
「わかったわかった、また今度な。ったくさぁ…紬といい、お前といいわがままなんだから。」
わーわーと薫はいろいろと言ってくる。
そんな薫をあしらいつつふとグラウンドの方を見ると結衣さんとまた目が合う。
今度は向こうから、さっきより少しだけ大きく手を振ってくれた。俺もほんの少しだけ大きく振り返す。
別にそんなに人は急には変われない。でもさっきより少しだけ自信を持って返せたと思う。
そんな気持ちが伝わっていて欲しいような伝わっていて欲しくないような。
「ん?遥?どうしたの?」
「なんでもねーよ。それと奢りはそんなに高いものはやめろよ?最悪置いて帰るからな。」
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