23話 苦手な体育の必修は辛い
どうも遥です。今俺は高校に入って以来の危機に直面しています…。
「なんでぇ…男子だけ必修なんですか…。かおるーお前どうにか出来ない?」
「出来るならとっくにやってるねぇ…僕も君ほどじゃないけど憂鬱なんだから。でももう覚悟決めるしかないよね。」
そう…プールです…!なぜか!高二の夏だけ!男子だけ!必修らしいです…。
プールといえば別に嫌いではない。ただし学校のプールは別だ。まず髪の毛は全てキャップの中にしまわなければいけない。そしてそれは必然的に顔を全開にしなければならないのだ。
それは今の俺にとって死刑宣告に他ならない。とはいえずっとゴーグルをつけてたらヤバいやつだし、そもそも見にくい。
まさかこんな危機が待っているとはな…。
「いいじゃない、君泳ぐのも苦手じゃないんだし。僕なんてあんまり泳げないから辛いよ…。身体も貧相だしさ。なんで更衣室からプールに行くまでの間あんなにグラウンドの前通るのさ!女子更衣室は死角からになってるのにさ!」
それは俺も思う。まぁ俺はシンプルに顔を見られたくないだけなんだけど。
「あー休もっかなぁ…。他の種目全部で最高評価取れればプール完全に休んでもわんちゃんいける?」
「いや普通に怒られるでしょ、君すごい健康体なんだし。あーあ、来る高校間違えたかな…。全くプールのないとこにすれば良かったって本気で思うよ。でも男子だけなのはせめてもの救いかな…。女子までいたら僕耐えられないよ。」
全然プール自体はまだまだ先だけど…毎日雨降らないかな…。
6月ならわんちゃんあるけど、明けたらもうその希望はもてない…。
「泳ぐ練習でもしに行くか?俺は顔出す練習するから。」
「は?顔出す練習ってなにさ。こっちは何回練習しても息継ぎが出来ないんだよ!もう君…顔出しなよ…。分かるよ、君の事情は僕はよーく分かってる!でももうこの学校は大丈夫だよ。…いやごめん、適当に言ってる。プール嫌すぎてそれどころじゃないや。」
ちょっと前向きになれそうだったのにさぁ…。
こいつの言う通りこっちに来てからの友達も増えた。少なくとも男子は顔を見せても問題ないと思える。というか別に男子にはそこまで顔に関してトラウマはない。
透や薫相手でも学校では普通に顔を隠してるからそこに区別は特にない。
結衣さんたちのおかげで少しは慣れてきたしな…。そろそろ覚悟を決めるべきか?ま、まぁプールまでいったん待とうか…。
「あー考えれば考えるほど病みそうだよ。でもやっぱり…練習した方がいいかな?はる!君の教え方はさ!感覚すぎるんだよ!」
「でもさぁ…よし!お前今日ひま?水着買いに行こーぜ!そして今度泳ぎに行くぞ。」
こいつはぐちぐちと行かない理由を並べてるけど内心は行きたいに違いない。でも今さら行きたいと言い出せないんだろう。ここは俺が動機作りをしてやる必要がある。
「えぇ…でもなぁ…。まぁでも遥がそこまで言うなら…しょうがないから付き合ってあげるよ。」
ちょろいやつ…。とはいえまぁこれで決まりだな。
ーー
「てかここまで来て言うのもなんだけどさ…体育の水着って指定じゃないの?」
ほんとにここまで来て今さらだ。
「いーや、何でもいいらしいよ。一応指定?っていうか共通のもあるらしいけど、強制じゃないって。クラスのやつが先輩から聞いたってさ。」
「ちぇー…水着買い忘れましたって押し切ろうかと思ったのにさぁ…。まぁいいやこればっかりもうどうしようもない気がしてきたよ。」
往生際の悪いやつ…。俺が言うのもなんだけどさ…。
「俺もう適当にこれにするわ。地味で無難なやつ選ぶしかないしさ。」
「えー…君とお揃いは嫌だしなぁ…。でも結局似たようなやつになっちゃうか。」
ほんとに余計なことばっかり言うやつ。結局俺たちは黒っぽいシンプルなものを買って終わった。
男二人でショッピングモールに来ても行くところなんて大してない。
「この後どうする?なんか見たい映画でもあるか?行きたいとことか。」
「いやー今ってそんなにないかな。行きたいところもさ、本屋くらい?逆にはるはないの?」
そう言われると微妙だ。俺たちは遊ぶとしたら基本ぶらぶら徘徊するか、カラオケに行くかくらいしかない。
「適当に喫茶店でも行くか?ここ見て回るのも飽きてきたろ。」
「どうせ喋るなら座りたいもんねえ。」
だらだらと喋りながら近くの喫茶店へと向かっていると聞き覚えしかない声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん!なんでいるの!?今日くる?」
「わぁひなちゃん、こんにちは。今日はお家には行けないんだけど…。ひなちゃん一人で来た…わけないか。お姉ちゃんは?またはぐれちゃった?」
軽くあたりを見回してみるけど特に結衣さんらしき人はいない。
薫の方を見ると一瞬不思議そうな顔をした後に納得した様子に変わる。
「あ!その子が例の!?これはたしかに…ずいぶんと懐かれたもんだね…。」
知らない人がいることに少しだけびびったのか、ひなちゃんは俺の足にしがみついて隠れてしまう。
誰にでもついて行ったりしないか不安だったけど、この調子だとそれは流石にないのかな?
「ひな!勝手に離れちゃダメでしょ!?」
慌ててやってきたのは結衣さん。少しだけ懐かしささえ感じる完全防備スタイルだ。今にして思えば知り合いに見られないようにするためのファッションなのかな?
「は、遥くんごめんね…。せっかくお友達といる時に邪魔しちゃって…。ひな、行くよ。」
「やだ!お兄ちゃん、だめ?」
わあすごい、この歳でこんなことできちゃうの?お兄さん全然嫌って言える気がしないや。
「全然だめじゃないよー!こっちのお兄さんも優しく人だからさ、俺のいっぱいる友達の一人だし。」
「うーん、遥の数少ないお友達の一人、かな。お名前聞いてもいいかな?」
俺の足元にしゃがんで話す薫を見てると無性に頭をひっぱたきたくなるな…。
「ひなた…。お兄ちゃんのお友達?」
薫とひなちゃんの会話を見てるとなんか新鮮な気分だな…。子どもと話してる薫なんてそうそう見れるもんじゃないからな。
「遥くん…ごめんね。すぐ連れて帰るから…。」
「むしろ結衣さんの方こそ大丈夫ですか?あんまり学校の人に見られたくないかなって。あれだったらあいつ連れてとっとと帰りますよ。」
完全防備とはいえ何でバレるかも分からないしな。無駄なリスクは避けるのが無難だろう。
「そ、その…彼って仲のいいお友達…なんだよね?」
「ん?ああ…まぁそうっすね。小学校の時くらいからずっとなんで、一番仲がいいかも。本人には絶対そんなこと言わないですけどね、調子乗るんで。」
あんまり友達が少ないと思われるのもちょっと悲しいしな。
「だったら別に大丈夫っていうか…むしろ嫌ではないっていうか。その…いずれはね!学校でも気兼ねなく話せたらいいなぁとは思ってたの。お友達としてね!もちろん。だから良い機会ではあるかなって…。」
「うーんたしかに…!少なくとも俺の友人にはいずれ知ってもらった方が楽だなとは思ってましたから。でもほんとに大丈夫ですか?あいつは信用できる友人ではありますけど…。」
「大丈夫!その格好で一緒にいる時点で信頼してることは伝わってきてるし!それに私、遥くんと仲がいいってことは隠したいことじゃないもん。」
うーん…まじでこの姉妹はつよいな…。もうすでにだいぶ逆らえそうにないや。
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