21話 母親に会わせるって…重くない?
今日は遥くんが我が家に来てくれる日だ。ひなは朝からハイテンションで、幼稚園から戻ってもとにかく楽しそう。この調子だと逆に体力がもたなくて寝ちゃいそうな予感がする。
いつもより嬉しそうなのはお母さんも一緒だからかな?ひなからしたらお母さんに遥くんって大好きな二人が揃うんだから楽しみでしょうがないのだろう。
けど私は違う…。だって…母親に会ってくれって…重くない!?やばくない!?
『ちょっと重いっす…ごめんなさい…!もうこれで終わりにしてください…!』
なんて言われちゃったらどうしよう…。正直私は今日一日授業どころじゃなかった。いや言わないだろうなとは思うんだけど…でも実際やばいよね…。
そして今私は先に帰宅して遥くんがうちに来るのを待っているところだ。ハイテンションのひなの相手をしつつ少しだけドキドキしながら待機中。多分お母さんの方がもっと緊張してるかな?ずっと落ち着かない様子だ。
ピンポーンと家のチャイムが鳴る音が聞こえた。
私はちらっとお母さんの方を見るけど…私が出た方がいいやつだね。
エントランスの前で少しだけ緊張したような表情の遥くんが映っている。
『ごめんねー、いま開けるねー!』
そろそろ来るということが確実になってお母さんは緊張、ひなはにっこにこで私の足元をついてくる。
少しして玄関のベルが鳴った。
「あ、いらっしゃい!その…ごめんねーお母さんが会いたいってうるさくて…。」
いったんひなをリビングで待たせて玄関で出迎える。ひなが来るとすぐに遥くん持っていかれるからね…。
「いえ全然!むしろ最初に挨拶しなきゃいけなかったんですから。そのまま会うなって言われるより挨拶チャンスだけでももらえて嬉しかったですから。」
いい子…!後ろからひなの声が聞こえてきて、少しだけ微笑ましそうにしている姿も大変素晴らしいです…!
姉としては少し恥ずかしいけど。
「ごめんね、ひなも待ちきれないみたいでさ。お母さんと遥くんが同時に家にいるなんて初めてだから嬉しいみたい。大変だとは思うんだけど…二人とも適当に相手してあげて…。」
「正直俺も緊張してるんで、ひなちゃんの存在はありがたいです…!髪型変じゃないですか?流石に顔隠すのも失礼かなって直してきたんですけど。」
普段は基本的にうちについてからピンで分けるくらい。でも今日はもう少しちゃんとしてる気がする。
「全然変じゃないよ。大変だったでしょ?鏡とか見れた?」
「じ、実は学校のトイレでやってきたんで…。鏡あるのそこしか思いつかなくて…知り合いにバレるんじゃないかってヒヤヒヤしましたよ…。」
苦笑いしながらそう教えてくれるけど…意外と大胆。
聞いてるだけでこっちまでヒヤッとする。
「む、無理に顔出さなくても良かったんだよ?隠したいってこともわかってるしさ。」
「いえ!それはだめですよ。やっぱり家まで上がってるやつが顔も見せなかったら怪しすぎますから!」
気合いの入ったような表情は少しだけ幼さも感じられて可愛いと思ってしまう。
リビングに入るとすぐにひなが抱きついてきた。もちろん私ではなく。
「陽向、大事な話があるから静かにね?それならお母さんの隣か膝の上に座っていいわよ。」
ポンポンと膝を叩いて呼ぶけど…これには少しだけ嫌な予感…。
「ううん、ひなお兄ちゃんのとこすわる。いいでしょ?」
ちらっと私の方を遥くんが見る。私も内心焦りつつ頷いた。お母さんの顔を見るのが怖い…!
「ひ、ひなちゃん静かにね。お話終わったら遊ぼうね?」
元気に頷いてニコニコで膝の上に登る。ニコニコの娘が真正面に座ってるんだからお母さんも優しくなるかな?それとも娘取られて逆に怒るかな…。
「あなたが…桜井遥くん?」
「は、はい!その…いつも娘さん達にはお世話になってます。」
ひなはにっこにこだけど二人は真剣な面持ちだ。
「こちらこそお世話になって、いつもありがとね。まぁ結衣が自宅まで招いてるとは思わなかったけど…。」
「すみません…ちゃんと挨拶したいとは思っていたんですけど、今日までできなくて。そのうえ…いろいろ私物まで置かせてもらっちゃってて…。」
こう客観的に話を聞いてるとたしかになかなか珍しい話かも…。
「いいのいいの!二人には寂しい思いさせてるし、あなたのおかげで娘たちも嬉しそうだし!…まぁ陽向の懐き具合にはびっくりしたけど…。」
すごい複雑そう…。お母さんのあんな顔初めて見たよ。とはいえその後は和やかに会話を交わす。
「遥くんってやっぱり…モテるでしょ?かっこいいもんねー!」
「え?いや…全然そんなことないです…。」
あれ…?なんか流れが変わった…?
「うそだー!私びっくりしちゃったもん!」
遥くんも想定と違った質問や顔の話になってしまったからか気まずそうだ。
「その…学校じゃ顔も隠してて…。それにほんとにモテるってこともないですから…。」
「あら…それは…理由なんか聞いても大丈夫なのかしら?」
「お、お母さん!もうこの話はいいじゃん!」
隠してる理由なんかはたしかに私も気になってる。だけどこんな親の圧力みたいな感じで聞き出したいわけじゃない。
「結衣さん、大丈夫ですよ。俺もそろそろ言わなきゃなって思ってましたから。別にそんな重い話ってわけじゃなくて、ほんとによくある話なんです。…中学の頃に…付き合ってた子がいたんです。」
遥くんはただ淡々と話をしてくれた。
「もっと小さい頃は女顔とかっていじられてたのがいつの間にか変わって。最初はちやほやされるのも嬉しくて。だけどそれと同時に妹の面倒とか、家のことをしなくちゃいけなかったし、俺もそれを望んでて。そのせいでその子とあんまり遊んだりもできなくて、それでそのうち振られちゃったんです。期待してたのと違うとか、妹のことばっかりって。まぁこれに関しては彼女の相手もろくにしなかった俺が悪いんですけどね。でもそっからその子と仲のいいグループとは疎遠になったり、特に女の子が少しだけあたりも強くなった気がして。」
苦笑いしつつ話してくれるけど、ちょっとだけ寂しそう。
「それでイメージとか期待してたのと違うとか、顔がいいからちやほやしてただけだとか。その後ちょっとだけ変な噂が流れた時なんかもあって。」
そう言うと少しだけ黙ってしまった。
「結局俺を信じてくれた人は昔から仲の良かった友人だけで。それでなんか嫌になっちゃって、外見で勝手に期待されて勝手にがっかりされても困るっていうか…。だから別にそれだけのことなんです。そんな絶対見せたくないとかじゃなくて!ただ面倒だし、少し抵抗あるくらい。それも今じゃだいぶ抵抗なくなってきた気がしますから!」
重そうなところはふわっとした説明だったけど、苦労したんだろうなってことは少しくらいは分かる。
ひなはよく分からなかったらしいけど、ほんとは顔を見せたくなかったのかもとは感じたらしい。
「お兄ちゃん、やだった…?」
不安そうな顔を見せないように下を向いてひながつぶやく。
「ううん、全然!むしろひなちゃんのおかげかな。ありがとね。」
いつもより少しだけ強くひなを抱きしめて撫でている。ほっとしたのかひなもいつもの笑顔に戻ってくれたみたい。
「遥くん…あなた芸能活動なんか興味無い?すごい人気出ると思うんだけど。うちの事務所でやってみない?」
「お母さん!話聞いてた!?冗談ならそういうのやめてよ…。」
普段はこんなこと言わない人だけど…。
「あら冗談なんかじゃないわ。別にあくまで興味を持てたらってだけだけどね。きっかけなんてなんでもいいのよ、人に無理やり始めされられたことでもなんでも。」
お母さんはいつもより少しだけ真剣な顔。
「あのね遥くん自信を持ちなさい。昔のことは私には分からないわ。でも自信は人を何倍も素敵にするのよ。それに話してみて分かったもの、あなたは今だって素敵な人よそれはもちろん中身も、外見もね。だからこそもっと自信を持っていいと思うの。うちの娘たちだってあなたの人柄を気に入ってるんだろうしね。」
「そうだと嬉しいですね。…まだ全然勇気はないけど、もう少しだけ自分に自信持ってみようと思います。友人にも口うるさく言われてますから。」
少しだけ晴れたような笑顔に戻ってくれて嬉しい。でも少しだけ寂しさもある。彼がこの先変わっちゃっても…私は上手に喜べるかな…?喜べるといいなぁ。
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