2話 迷子少女との再会
1話から呼んでもらえると嬉しいです!
ティッシュとトイレットペーパーの特売狙いで少し遠いスーパーに買い物に来てから一週間程があった今日、俺は再びこのスーパーに足を運んでいた。
当然今日も特売狙いである。今日の狙いはコーヒー豆と醤油だ。何を隠そう俺はこの醤油とコーヒーには特にこだわっている。特にコーヒーは重要だ。これはめったに特売にならない豆が今日は安いのだ。
しかし今日もまたコーヒーだけはお一人様一点限りである…!妹の紬にも声をかけたがあいつはコーヒーを飲まないから当然無視された。
「肉なんかは家の近くで十分だし、あんまり買ってもシンプルに重くてしんどいからな。ここは余計なものは買わずにターゲットだけを確実に仕留めよう。」
とは言いつつもスーパーに来たら1回は全部回ってチェックしてしまう。こんな高校生は日本中探してもそんなにはいないだろうな。
ついつい余計なエリアまで見てしまい誘惑に負けそうになる。
「高いけどやっぱりこれくらいの豆買ってもいいと思うんだよなぁ…。けど紬にバレたらまた面倒だし…。」
そんなふうに俺が商品を物色していると後ろの方から聞き覚えのある声がする。
「あー!お兄ちゃんいたー!いつでも会えるって言ったのに!」
先週の迷子少女のひなたちゃんである。そしてそのまま俺の足にしがみついてきた。
「あれ、ひなたちゃん。もしかしてまた迷子かな?今日もお姉ちゃんと来たの?」
頬を膨らませて不満げだ。頭を撫でてもごまかされないんだからご立腹らしい。
「迷子じゃないもん!お姉ちゃんはそばにいるから!」
「あーそれはごめんね、ついつい心配になっちゃって。…お姉ちゃん慌ててるけど、何も言わずに飛び出してきたの?」
俺がそう聞くとさっと目をそらした。この子やっぱり結構こういうところは大人だな…。
「ひな…急に走り出さないでよ…。あ、もしかして先週…ひなの面倒見てくれた方ですか…?あのときは急に帰って申し訳なかったです。その…知らない人だったので…不審者とかの可能性もあるかなって…。」
お姉さんの顔は帽子で見えないが様子から申し訳ないという気持ちは伝わってくる。それに別に俺は今でも知らない人だからある意味で不審者というのは間違ってない。
「いやいや大丈夫ですよ。俺も逆の立場なら絶対同じことしてる気がしますから。」
「帰ってからひながお兄ちゃんには次いつ会えるんだってうるさくて。それで話を聞いてみたらずいぶんとお世話になったみたいで…本当にありがとうございました。」
きっちりとお礼も言ってくれたわけだし、何よりひなたちゃんのお姉さんなんだからやっぱりいい人だった。
「行くよ、ひな。これ以上は邪魔になるから。」
お姉さんはひなたちゃんの手を取って立ち去ろうとするけど、全く俺の足から離れる素振りがない。というか結構ちゃんとしがみついてる。
「ひ、ひな!ダメだって!この人は別にひなのお兄ちゃんじゃないんだから!」
「いーやー!お兄ちゃんはいつでも会えるって言ってくれたもん!」
俺はとっさに首を横に振る。これじゃまるで俺が誘拐もどきみたいじゃないか…!
あまりにも離れようとしないひなたちゃんに根負けしたのかお姉さんも諦めたようだ。
「す、すみません…満足するまでこうしてても大丈夫ですか…?毎週毎週ほんとに申し訳ないんですけど…。」
何度も謝ってくる姿に俺も思わず笑ってしまう。
「全然大丈夫ですよ!ここまで懐いてもらえると嬉しいですし、それに俺も妹がいるんですけど懐かしくなりますよ。もうこんなにくっついてくれなくなっちゃって。」
もう引き剥がされないと分かったのかひなたちゃんも俺の足から離れて手を繋いできた。俺も特に拒否する理由もないのでそのまま握り返す。
「ひながこんなに誰かに懐くのも珍しいんですよ…。その…お礼に何か出来ることは無いですか…?私に出来ることならなんでも言ってください。」
そんなことを言いつつどこか強ばった表情や、少しだけ緊張したような様子だ。
「えーっと…じゃあ恥ずかしいお願いなんですけど…。」
「は、はい…!なんでも言ってください…。」
「コーヒー豆を買いたくて…!その…特売のやつなんですけど、一人一品までで…ひなたちゃん含めて三つ!買ってもいいですか…?」
どうしてこう、特売のものを買うのって恥ずかしいんだろうか。別にスーパー側が特売です!って宣伝してるんだから気にしなくていいはずなのに、謎に気恥ずかしいんだよね…。
「あ、はい。それくらいなら全然大丈夫っていうか…いやほんとに大丈夫ですよ」
俺は思わずほっとする。同い年くらいに思える女の子に特売買ってるよ…ダサ…とか思われたら俺立ち直れる気がしないからさ。
「ひないてよかった?お兄ちゃん嬉しい?」
ひなたちゃんが俺の方を見上げながらそんなことを聞いてくる。その仕草がかわいくてついつい笑みがこぼれてしまう。
「ひなたちゃんのおかげだよ、ありがとね。嬉しいよ、ほんとに。」
嬉しそうに繋いだ手を大きく振っている。
「お兄ちゃんはね!ひなのことひなって呼んでいいよ!お兄ちゃんはとくべつだから!」
ニコニコと笑顔でそう教えてくれる。たしかに愛称は特別なものかもな。
「ありがとうね、ひなちゃん。嬉しいよ。」
嬉しいんだけどお姉さんに引かれてないよな…?嫌だよ、俺妹にデレデレしてキモイと思われてたらさ…。
そして俺はコーヒー豆を三点カゴに入れてウキウキでレジを通る。ひなちゃんで一人分をいけるか内心心臓がバクバクしながらだったが無事に買うことが出来た。
「ほんっとにありがとうございます!これでしばらくコーヒーには困りません!」
スーパーを出て俺はお姉さんに頭を下げてお礼を伝える。こういうのはちゃんとやるのが大事だからな。
「い、いえほんとにこちらこそありがとうございました。ひなもすっかりお世話になっちゃって…。」
「お兄ちゃん、もう会えない?」
お別れの時間を察したのかまた足にしがみついてしまう。かわいいけど…お姉さんは困り顔だ。
「ひなちゃん、また今度ね。これでお別れってわけじゃないからさ。」
「いつ!次はいつ?あした?」
ぐずりそうな表情になってくる。お姉さんも顔はよく見えないけどおろおろしている。
「あーお姉さん、ここってよく来るんですか?」
「いや…その…たまに?でも今週はひながお兄ちゃん探すって騒いでて…。」
「なんかすみません…じゃあ明後日って来たりしますか?明日はちょっと微妙なんですけど、明後日は来るつもりなので!」
二人の間には沈黙が流れる。ひなちゃんは喜んでくれてるけど、よく考えたらお姉さん的にはよく分からない男だしな…。
「あー…ごめんなさい、変なこと言ってますね…。忘れてください。」
「あ、いえ!その…ひなが喜ぶので…明後日、待ってますから。」
お姉さんはそれだけ言うとひなちゃんの手を引いて帰って行った。先週と同じようにひなちゃんは俺の方に大きく手を振ってくれて。それでも次に会う約束をしたからか俺の心も前より晴れやかだ。
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