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17話 慣れ

俺は今日もひなちゃんと結衣さんにお呼ばれして自宅を訪れている。流石に一緒に帰宅したりするわけには行かないので先に彼女が帰宅してから俺が家を訪れるという流れだ。


「はるかくーん、アイスコーヒー飲む?今日はなかなか美味しくできたと思うんだけど…。」


「あ、ください!嬉しいなぁー、最近の楽しみになりつつあるんですよ。」


こんなふうな会話や光景もすっかり当たり前になっている。そしてはっきりと言おう、我ながらだいぶ馴染んでる…!だってもう俺のマグカップとかあるもん。


「お兄ちゃん、コーヒーっておいしい?ひなあれあんまり好きじゃない…。」


ほんとに苦そうな顔をしてひなちゃんが聞いてくる。まだ飲んだことはないが匂いが好きじゃないらしい。


まぁあんまり子どもが好きなものでは無いからね。


「んーまぁ俺は結構好きかな、はっきりした味が好きなんだよねー。あ、ひなちゃんもジュースかなにか飲む?結衣さん冷蔵庫って開けても平気ですか?」


「うん大丈夫ー!ひなの分は適当にあげてね、コップはあるから。」



冷蔵庫を開けて最近のひなちゃんお気に入りであるリンゴジュースと、棚からコップを出しながら思う。もう大体の食器の位置も覚え始めてる。人様のお家の食器やらまで使うことに抵抗がなくなってるのは少しだけ問題な気もするけど…。


俺はそのままアイスコーヒーとジュースを持ってテーブルへと戻る。からからと氷を混ぜているとひなちゃんも隣でそれを真似して楽しそうに笑っている。


「んっ!美味しい!やっぱり俺がやるより美味しい気がしますよ!」


俺がアイスコーヒーを好きだと知ってから結衣さんは家にあったというコーヒーメーカーで作ってくれるようになった。それだってまだ一週間ちょっと経つか経たないかだけどすっかりお馴染みになってしまった。


「一緒だよー!だって全自動だもん。最初は分量もよく分からなかったから微妙だったけど、今は完璧!」


そう言ってひなちゃんの横に座るとテレビをつけてそれを眺める。最初は少しだけ気まずかった沈黙でさえ今はもう自然なものとなった。無理に喋るようなことはしなくても落ち着く時間を過ごせるんだからすごい。


「あ、そういえば遥くんあれありがとね。一応洗ったので。」


差し出されたのは長袖のジャージだ。最近結衣さんはわざわざ俺のジャージを借りに来ることが多い。というよりほぼ毎回借りに来る。それ自体は別にいいんだけど…


「もしあれだったらこのままずっと貸しててもいいんですけど…。いちいち洗うの大変じゃないですか?」


体育は週に二回あるわけだが俺が放課後にここ宮島家まで来る時は彼女が、来ない日は帰りには俺のロッカーに入っているのでそれを持ち帰り、俺が自宅で洗っている。そしてそれをまた彼女に渡すというわけだ。まるで麻薬の密売でもしているような気分になってくる。


「ううん、それは全然!あ、もしかして迷惑だったりした…?さすがに私も変なこと頼んでる自覚はあるからさ…嫌だったら言ってね?」


「嫌ではないですけど…これ俺が着る意味あります?せっかく洗ったのに俺が着ちゃったら汚れちゃいませんか?」


最近結衣さんは時々こういう意味の分からないことをさせたがる。


「着なきゃダメなんだよ…!着た後と着る前じゃ全く別物になっちゃうんだから!いいからいいから、何も考えずに着てくれるだけでいいんだから。今日は帰るまでそれを着ててください。それで明日の体育が終わったら返します!」


ニコニコと楽しそうなので俺は特に反論することも無くジャージを着ることにする。ここで変にじたばたすると怒られるからな。俺が着たのを確認すると満足げに頷いて再びテレビを見始めた。


(やっぱり結衣さんの家で洗うと俺ん家で洗った時より少しだけ匂いが違うんだよな。なんか申し訳ないけど俺のジャージから女の子っぽい匂いがするちょっと緊張するな…。)


他人の家で俺だけ、しかも制服の上からジャージって…。なんかマヌケな絵面だけどまぁいいか。


「お兄ちゃん、これできる?お姉ちゃんはよくわかんないって。」


ひなちゃんが折り紙と折り方の説明書的なやつを見せてくれる。難しかったのか少しぐちゃぐちゃになった折り紙に少しだけ恥ずかしそうにしている。そんな姿を愛おしく感じた。


「ん?あーこれね、昔作ったなぁ…。よし!ひなちゃんも一緒にやってみようか。」


「うん!がんばる!」


俺がひなちゃんと一緒に折り紙を折っていると気になってきたのか結衣さんも混ざり始める。


「ちょ、ちょっと待って!早い早い、もう少しゆっくり…。」


「お姉ちゃん、おそいー!もうここまでできるんだよー?」


さすがに幼い妹には負けたくないのか結衣さんも必死だ。ちなみに俺はもうできている。紬にせがまれて俺ももっと小さい頃にやってきたからな。早くできるとかっこいいという理由で一時期凝ってた時期があったんだけど…ある程度上達した頃にはあいつ飽きてたからな。ここでこうして発揮できて嬉しいよ。


「できたー!ひなー?お姉ちゃんの方が早くできちゃった!教えてあげよっか?」


余程悔しかったのか、妹相手に本気で煽ってる…。最近つくづく思うのは俺の目の前の女性と学校での結衣さんが本当に同一人物なのか怪しい。ちょっと前までならこんな姿想像もできなかっただろうな…幼い子ども相手に本気になってるなんて。


けどまぁ俺はやっぱりこっちの時の方が好きかな。俺もすっかり緊張しなくなったなぁ、びっくり。


「いい…お姉ちゃんには聞かないもん。お兄ちゃんおしえて…!」


ぶすっとして不満全開という表情でこちらにたずねてくる。こういう感情全開なところも可愛らしいな。


「んー?いいよ、ここはね、こうすると簡単に出来るんだけど…そうそう、そんな感じ。ちょっと難しいよねー、一回コツ掴むとできたりするんだけど。……うん!ひなちゃんやっぱり上手だね!」


みんなでやった時に説明が分かりにくかったらしくつまずいていたが、改めて教えるとすぐできるんだから頭がいい。それに途中で投げ出したりもしないんだから立派だと思う。俺が小さい頃なんてすぐ諦めてた記憶しかない。


「お兄ちゃんの方がやさしいから好き。…お姉ちゃんはしらない。」


意外と辛辣…!目の前でお姉ちゃんショック受けてますよ…?まぁこれに関しては余裕で結衣さんが悪いけどね…。俺の事軽く睨んでも無駄なんだよなぁ…。


「ご、ごめんね。ひなー?」


その後俺が帰るまで結衣さんは必死にひなちゃんのご機嫌取りをしていた。


この光景を見てももはや驚きなんかはなくて、あーまたねってくらいなんだから…慣れってすごいよねぇ…。





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