14話 体育は隣のクラスと一緒にやりがち
俺はいま、ぎらぎらと輝く太陽の下で校庭を走り回っている。
「はるかーパスパス!髪なげーから視野狭まってるんだよ!」
隣のクラスとの体育で一番嫌なことは透が一緒なことだ。こいつはわりと熱が入りやすいタイプでシンプルにしんどい。
「お前の位置がオフサイドなんだよ…!せめてルールを把握してから指示しろよ…!」
ディフェンスも体育のサッカーと思えないほどに荒い。流石に怪我をさせるようなタックルはないが、審判がザルだからこそ成立するようなファウルすれすれのプレーが横行している。
「はるー…僕もう限界かも…。去年の体育ってもっと楽だったよね!?一瞬部活に入ったのかと錯覚しそうだったよ…。」
薫はもう体力の限界らしく棒立ちで守備もせずにいる。
俺は別にそれでもかまわないのだが…コート内からは怒号が飛び交っている。
「かおるーてめぇちゃんと走れよ!」
「ディフェンスしっかりー!」
「フォワード陣が点取らねえからだろ!」
いやぁ…元気だねえ…高校生はこうじゃなくっちゃ。
「はるかー!止まんな止まんな!走れよ!なんか知らねえけどみんな気合い入ってるからさ、負けるのは嫌だろ!」
透はもはやなんでみんなが張り切ってるか分からずに張り切っている。そして俺はサボるとあいつが怒るから走っている。
みんなが張り切っている理由なんて一つだ、女子が見ている。たったこれだけのことで男子の体育というものはとんでもない熱量をもつようになる。
そして俺たちの隣のクラスには結衣さんがいる。ということはこの試合は結衣さんが見守る試合というわけだ。それだけでうちのクラスの男子はガチになってる。
「だぁー!負けたぁー!あいつら気合い入りすぎなんだよ!てか遥、お前後半完全にばてただろ?もう少し体力つけた方がいいって。」
余計なお世話だ。そもそも負けたの俺のせいじゃないし…。あっちに運動部多すぎるんだよ…!偏りすぎだろ!
「は、遥はまだいいよ…センスいいから上手く抜いててさ。僕なんかセンスも体力も根性もないからしんどくて…。
薫は水も飲めないほど息が切れている。肩で息をするってこういうことを言うんだな…。
「みんな女子がいると気合い入るからな…てかそろそろ戻るか?俺はこのまま休んでてもいいんだけど…。お前らどうする?」
薫は教室に飲み物を取りに行くらしく、透は元気よくグラウンドへと駆けて行った。あいつは元気すぎる…!
「遥くん!おつかれ!見てたよー!」
結衣さんが元気よく話しかけてくる。俺は顔を洗うのを慌てて止めて振り返る。
「びっくりしたー…。ありがとうございます、負けちゃいましたけどね。みんな気合いがすごくて…こんなに汗かいたの久しぶりですよ!こうなるとこの髪もうっとうしくて…。」
結衣さんの前なら特に気にせずに髪をまとめられるから楽だ。まぁ散々顔晒して会ってるからな。正直今なら髪を切ってもいいと思える。けど今から切ったら絶対なんか思われるよ…。
「ううん、かっこよかったよ。ま、まぁ正直顔結構見えてたけど…。あ、でもはっきり見たことないと全部は分からないと思うから大丈夫だよ!」
「ま、まじすかー…ならもういっそのこと縛ろうかな…。仲良いやつだけの時はたまにやるんですけどね。どうですか?似合います?…なんてー。ごめんなさい…変なことしました…。」
やばいな…疲れて変なテンションになってきてる。なんかちょっと気まずい…。
「全然、全然大丈夫!むしろ私としては結構ありっていうか…。あー…でもあんまりみんなの前ではやらない方がいいかも、顔隠したいんだもんね?」
「うーん、それもそうっすね。でも最近結衣さんとかひなちゃんのおかげで多少は抵抗なくなったんですよ!まぁ髪切ったりするのはまだハードル高いですけどねー。」
完全に俺の自意識過剰なのは分かってるんだけど、それでもまだ少し怖い。意外と思ってるよりもトラウマなのかもな。
「あれ、そういえば女子の方のフットサル行かなくていいんですか?俺は話しててもいいんですけど、みんな待ってるかもですけど…。」
「大丈夫だよ、私次のチームだもん。今はみんな見学してるか適当に練習してるだけだから。それに今くらいじゃない?学校で二人で話せるのって。ちょっと新鮮で嬉しいかも。」
「ずるいなぁ…そんなの言われたらもう少し話してたくなりますよ。そういえば体育の授業被るのって意外と初めてだったりします?選択被らないと一緒にならないですもんね。」
男子はサッカー、女子はフットサルを選択すると同じ授業になる。他にもいくつか選択があるが、たまたま被ったらしい。うちのクラスの男子も結衣さんと選択が被ったと大盛り上がりだったからな。
「伊織…えっと私の友達がフットサルがいいって言うからついてきたんだけど、遥くんがいるなら選んで正解だったよ!私の試合も見ててね、私だけ半袖だからちょっと恥ずかしいんだけどさ…。」
聞けばなんでも普通に忘れたらしい。洗濯がどうということでもなくただシンプルに。なんかちょっとかわいい…。
「あ、じゃあ俺のやつ着ます?俺もう今日は使わないですし。」
「いいの!?あ、いやその、やっぱり一人だけ半袖って恥ずかしいし…借りていいなら嬉しいなって。」
「もちろんですよ、少しだけ大きいかもですけどね。」
全然平気だと笑顔で言ってくれるから俺も少しほっとする。ちょっとだけ変なこと聞いてる気もするし。
「あ…ちょっと待ってくださいね…!…多分大丈夫だと思うんですけど…その匂い的な?一応持ってきただけで今日は一瞬しか着てないですし、試合前には脱いだので!多分、多分いけると思うんですけど…。その…嫌だったら言ってくださいね…?」
「全然大丈夫!え、ほんとに借りていいんだよね?洗って返すから!ありがとね!」
そう言って結衣さんは走り出してそのままグラウンドへと行ってしまった。
「あれ、誰かと一緒にいたの?僕もしかして邪魔しちゃった?まいったなぁー…。」
飲み物を取りに行っていた薫が戻ってきていたらしい。正直俺は全く気づいていなかったので、結衣さんはすごいなという感想しかない…。
「…お前のこと待ってたんだよ。薫も俺も、ひとりじゃ戻りにくいだろ。てかさ、髪もう乾いてる?自分じゃいまいち分かんなくてさ。」
「うーん乾いてるんじゃない?透じゃないけどさ、君のその髪は暑苦しいよ…。去年の夏なんてすっごい後悔してたじゃない、そろそろ切ったら?…もう今はみんな大丈夫だよ。それに君の顔がいいってのも自意識過剰だからさ。前より中性的でもないし、わりと普通だから。」
うーん…ちょっと傷ついちゃうよ…?こいつの気遣いってちょっとだけダメージあるんだよ。
「あれ?君長袖ジャージどこやったの?ろくに着ないくせにずっと持ってたじゃない。もしかしてなくした?君にしては珍しいけど…。」
「なくしてないよ、別にちょっとね。有意義なことに使ったから!まぁ気にしないでさ、グラウンド戻らねえと。まぁどうせ自主練と称して女子の試合見てるだけだろうからゆっくり行こうぜ。」
「あ、ねえリフティング教えてよ!僕リフティング2.3回しかできなくてさー、実技試験やばいんだよ。」
「俺が教えられるようなコツはない。もし今すぐ上手くなりたいならサッカー部に聞けよ。まぁ俺の素人知識でいいならマンツーマンで教えてやるよ。」
主人公とヒロイン二人の視点を中心にしていますが、もし読みにくいなどあれば教えてください!
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