13話 桜井遥の評判(和泉調べ)
「はー!美味しい!ここ前からずっと気になっててさ、結衣と来られて良かったー!」
私は今日伊織と和泉の二人と一緒に比較的近所に出来た喫茶店へと来ている。
「伊織さん、うるさいっすよ。一応ここ落ち着く雰囲気の喫茶店なんですから静かにしてくださいよー。」
和泉は意外と場所の雰囲気にちゃんと合わせられるタイプだ。伊織が楽しそうにしてくれて私は嬉しいけどね。
「それにしても最近は放課後一緒に出かけられる日増えたけど、やっぱり例の彼のおかげっすか?」
「私もそれ聞こうと思ってたの!今日は思う存分問い詰めないと!」
和泉の無邪気な何気ない質問に重ねて伊織が聞いてくる。
いや…そりゃ聞かれないなんて思ってないよ?覚悟も当然してきたけどさあ…改めて聞かれると…ねえ?
「きょ、今日は普通にお母さんが仕事早く終わるからって…。それで自由に遊べるってだけよ。遥くんがどうってわけじゃなくてね。最初こそ面倒見てもらっちゃったけど…流石に一人でひなの面倒を見てとは言えないし、言わないもん。」
さすがにそこまでは甘えすぎというか…なんかだめだと思う…。
「お母さんのお仕事って芸能事務所で働いてるんだよね?それも色々えらい人?なんだっけ。そうなると忙しいのもしょうがないかー…。」
「小さい事務所だから余計にね…。でもひなももう少しで小学校だからちょっとは楽になるかなー。遥くんと遊び始めたからか、少しだけ人見知りもマシになってきたみたいでね。最近楽しそうに幼稚園のこと話してくれるようになったんだー!」
ひなもこうしてどんどん私から離れていくんだろうなぁ…。嬉しいような寂しいような。
「でもそうなったらさー、例の桜井遥くんとはどうするの?」
「ん?どういうこと?」
伊織は不思議そうにたずねてきたがいまいち意味がわからない。
「いやだって彼ひなちゃんに会いに来てるんでしょ?そのひなちゃんがそのうち幼稚園とか学校の友達と過ごすようになったらその彼も来ること減るんじゃない?」
「い、言われてみれば…。けど!ひなも懐いてるし!今だって別に毎日ってわけじゃないんだから、そんなに変わらないって!」
うんそうだ。多少減ることはあるだろうけど、そもそも多いときで週に何回かくらいなんだから!
「そうだといいねえ…。あれ、そういえば彼に自分の正体教えたの?」
「え、うん。あれ、言ってなかったっけ?ちょっと前に家に来てもらった時に。だって流石に家の中で帽子とかかぶってたらおかしくない?ちょっとびっくりしてたけど、特に問題なく過ごせてるよ。」
「は、はぁー!?家呼んでんの!?あんたさすがに大丈夫!?」
伊織は声を荒らげて叫んでいる。和泉も目を丸くしているからもしかしたら私がおかしいのかもしれない…。
「え、だって…悪い人じゃないし…。それにひなも呼びたがってたんだもん…。」
「いやいやいや!もし何かあったりしたらシャレになんないからね!それに今までは顔も知られてなかったけど、相手が誰か分かっちゃったらそれこそ変な気起こすことだってあるかもじゃん!」
「う…でも…何もされなかったし…!それにそんなことするタイプの人なら私だって家まで呼ばないよ!」
でもたしかに言われてみればなかなか警戒心なさすぎるのかなあ…。
「そ、そりゃ結果論だよ。もし万が一にも何かあったらさぁ…それに一応は相手は男の子なんだよ?今まではそうでもなくてもさ、相手が可愛いって分かったら急に…みたいなこともあるじゃん。いや分かんないけどさ。」
「は、遥くんはそんな人じゃないもん…!なんか分からないけど、他の男の子とは違う気がするんだ。変…かな?」
信用しすぎだと言ってくれる伊織は私のことを心配してくれているということは分かる。それでも私は彼なら大丈夫だと思う。
「そんな中お伝えするのは申し訳ないんですけど…。」
和泉はおそるおそる私たちに話し始めた。
「最近ちょっとだけ、密かに人気になってきてますよ彼。前より明るくなったとか、前より壁を感じないとかで。まぁ元々地味に顔がいいとかで一部からは受けてたらしいですからこのまま人気拡大もありえますね…。」
感心したように頷いている。いや…そんなこと言われても…私には関係なくない?
「関係ないとか思ってるかもしれないけど、向こうに彼女が出来たりしたら遊びになんて来れなくなるからね?相手の子はめちゃくちゃ嫌だろうし、本人だって彼女優先になるんだから。別に結衣がそれでもいいなら私たちは何も言わないけどねー。」
うう…いや…でもそれはしょうがないよね…。ひなは泣きそうだけど…。私だって別に平気なわけじゃないけど…せっかく仲良くなれたんだし…。
「まぁ向こうからアプローチされるなんてことはないだろうからさー、どうにかするなら結衣からいかなきなだよね。」
「な、なんで!?そんなの分かんないじゃん!」
思わず私も声を荒らげてしまってから慌てて席に座り直す。
「えっと…別にね、そういうことじゃないんだよほんとに。だけどさ、絶対ないなんて言えないじゃない?ほ、ほら…告白とかはされたことあるし…。」
もちろん!もちろん彼が他の男の子とは違うとは思ってる。しかし!それでも全くなしではなくない…?
「だってここまで何もアプローチされてないんでしょ?全く意識されてないんだとしたらそれは…もう…ねえ?」
伊織は少しだけ可哀想なものを見るかのように私を見つめている。
「…私ってそんなに魅力はなかったりする?たしかに思い返してみたら告白してくるのなんて話したこともないような人ばっかりだし…。」
「はぁー…結衣に魅力がないなら私たちなんてどうしたらいいのよ。まぁでも…好みって人それぞれだから…。結衣派じゃない可能性は否定できないよねえ…。和泉、あんたの調査で何かしら情報ないの?」
伊織の言葉が全て私をえぐってくる。こういう一番ダメージを受ける言葉というのはたいてい無意識に発せられる気がする。伊織はなんの悪意もなさそうに、ひたすら心配そうだ。それが余計に悲しい…。
「うーん…全くそういう話題を聞かないんですよねー…。でも興味無い人では無いと思いますよ。全く根拠なんてないですけど…。あーでもうちのクラスの透くんと仲が良いらしいですよ、それで結衣さんの話?をしていたみたいなのは隣のクラスの子から聞いてますね。全然関心なさげというか、なんなら気まずそうだったらしいですけど。」
上げて落とすタイプ…!いや気まずそうって…それはもうどうしたらいいの…?
「そもそもの話!好きじゃないから!…ちょっと、ちょっとだけ…特別ってだけよ…。だって…初めて素の自分を受け入れてくれた気がして…。」
別に誰かに否定されたわけじゃない。それでも誰かに否定されたくなくて、必死に隠してきたことを平然と受け入れてくれたことが嬉しかった。ただそれだけのことだったけど…それだけのことをずっと求めていた気がする。
だからこそ、なにか特別な関係になりたいわけじゃないけど彼にとって私がそんな存在になれたらなと思う。
「ふーん…まぁ余計なお世話だったかもなあ…。もしさ、ほんとに好きだなって、恋愛として、一人の男の子として好きになった時はさ、頑張んなよ。私たちもすぐからかっちゃうけど…本心では嬉しいんだ。まぁでも私のもとから巣立って他の男のところへ行くのは寂しいなあ…。いずれ私が彼のことは見定めてあげるからね!」
「いやいや!私はからかってないですから!伊織さんとは違いますよ!ねえ!そうですよね!?」
メンテナンスで仕様が変わって少しまだ分かってないところがあるので、もしなにかおかしなところがあれば教えてください!
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