11話 妹と遥くん
ついに私はこの桜井遥という男の子を自宅へと招いた。流石に私が誰かということもバレてしまい、彼も最初こそ気まずそうというか居心地が悪そうにしていたが、すっかり今まで通りの関係へと戻ることができたと思う。それどころか私の中にあった罪悪感のようなものがなくなって、私としては以前よりもずっと楽に、自然に話すことができるようになった。
というのも最初こそ私のことを知らない人ということに居心地の良さを感じていたが、少しずつ人となりを知り親しくなっていくうちに今度は罪悪感が生まれていった。
何より心配だったのは私のことを知ったことで彼の態度が変わってしまうことだった。変に気を遣われたり、距離を取られたりすることも嫌だし、他の男の子たちと同じようになってしまうのも少しだけ不安だった。しかし結果として彼は態度が変わるどころか想像よりずっと自然だ。なんなら私のことがどうというよりもひなが自分にべったりなことで気まずそうに私を見ている。
「お兄ちゃん、あのねーこれがひなの宝物なの!」
ひなはそう言ってお気に入りのぬいぐるみを部屋から引っ張り出してきて遥くんに見せている。
「かわいい子だね、クマかな?」
いま二人はソファに並んで座って話している。ひなは本当に遥くんのことがお気に入りらしくずっと隣をキープしている。全く私のことを気にかけるそぶりさえないのだ。いや別にいいんだけどさ…!お姉ちゃんのことは!?お姉ちゃんも隣に来ない?くらいの言葉があってもよくない…?
「深刻そうな顔してどうしたんですか?」
遥くんは不思議そうな顔をしてたずねてきた。
「ううん、ひなたが楽しそうで良かったなぁって。でもちょっとだけね、ちょっとだけ寂しいなーって。ひなが遥くんにべったりなんだもん。」
自分でも大人げないことを言ってるのが分かるし、言わなきゃ良かったと後悔。
「…意外と顔に出るタイプですよね!なんかちょっと新鮮でいいですね!」
なぜかちょっと嬉しそう…。最近思うけど、遥くんは多分変わってると思う。
「いや…まぁ小さいこと言ってる自覚はあるよ…。私にべったりじゃなくなったのはいいことだし。だけど…もうちょっとお姉ちゃんのことも気にして欲しいの…!これってやっぱりわがままかなぁ…。」
「ひなちゃんお姉ちゃんの話を楽しそうに聞かせてくれてますよ。俺は…ほらあんまり会えないですから。新鮮で物珍しい?みたいな感じ。自分で言うのも変な話ですけど…。」
彼は照れくさそうに耳たぶを触っている。そんなことを聞いて嬉しい気持ちとほっとする気持ちもある。だけど一番は…あの子変なこと話してないよね…?すごい無邪気に余計なことまで話してそう…。
「そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫ですよ、そんなに変な話してないですから。でもひなちゃんほんとにお姉ちゃんのこと大好きだから、こっちが微笑ましくなっちゃって!」
楽しそうに話してるけどさあ…!そんなにってなに!?ちょっとはあるの!?
それにしても…まさか同年代の男の子とこんなに話すようになるとは思わなかったなぁ…。あれ…冷静になって考えるとお母さんに黙って家に男の子あげたのは…怒られるかなぁ…。
「その…さっきはごめんなさい…。」
急に遥くんが申し訳なさそうに謝り始める。正直全く心当たりがない…。
「え?ほんとに分からないんだけど…なにかしちゃったかな?」
「いや…結衣さんの顔が初めて分かった時に変な対応しちゃったなって。俺が一緒に過ごしてきたあなたよりも、話したこともない学校でのイメージで勝手に決めつけてしまって…俺が一番されたくないことを、結衣さんにしてしまったなって…。」
真剣にそう話してくれることが、そしてなによりもその言葉が私の外見だけでなく中身を知ってくれているような気がして。そのことがただひたすらに嬉しかった。
「ううん、全然大丈夫だよ!私の方こそとっとと言うべきだったんだから!その…迷惑はかけないようにするからさ、学校でも…避けたりしないでくれると嬉しいな…。」
「その表情…ひなちゃんにそっくりですね!あー…いやひなちゃんがそっくりなのか…。…それに避けたりなんかしませんよ。俺…度胸ないので…そんなに積極的に話したりはできないかもしれないですけどね。」
ひなには少しだけ申し訳ないけど、二人でこうして話していると落ち着く。なぜだか彼には悩みや弱みなんかを吐き出せる気がする。きっと彼の持つ穏やかな雰囲気や性格のおかげなのだろう。
どたどたと走る音が聞こえてくる。
「お兄ちゃん!これ!これ見て!」
ひなが手になにか握りしめて走ってきた。
「ひなー!いつも走っちゃダメって言ってるでしょ?下の人に足音響くんだから!」
「だってーお兄ちゃんに見せてあげたくて…。」
う…この顔をされると私はひなに何も言えなくなる。我が妹ながらとにかくかわいい…!
「ありがとね、ひなちゃん。でも別に俺は逃げたりしないから焦らなくていいからね。見せてもらってもいいかな?」
「これ!見て見て!どれがかわいい?」
ひなは髪ゴムやらを握りしめて持ってきた。それをばっとテーブルの上に並べて遥くんに選ばせている。
「どれもかわいいねー!んーでもこれなんか似合いそうじゃない?ひなちゃんのお気に入りはどれなの?」
「ひなもこれ好きー!かわいい?」
かわいいよ…!なんか心なしかいつもよりかわいい…。最近は遥くんが面倒を見てくれることもあるので友達とも前より遊べるようになって余裕ができたのか、大事だという気持ちは変わらないが、前よりももっとひなのことを好きになっている。そういう意味でも遥くんには感謝しかない。
「お姉ちゃんどう?お兄ちゃんが見せてきてあげなって。かわいい?」
そう言って私の前で何度かクルクルと回って見せてくれる。
「かわいい…!ひなー…もうあんたかわいすぎるよー!いい?変な人に話しかけられたり、話しかけたりしたらだめだからね?もし連れていかれそうになったりしたら大きな声で周りの人に伝えるんだよ?」
元気に返事をするひなを私が撫でていると遥くんは気まずそうに苦笑いしている。
「…?どうしたの?あれ、私何か余計なこと言っちゃった?」
「あー…いや…今でこそ自然と家まで来てますけど…俺も不審者といえば不審者な気がして…。迷子のひなちゃんに声かけて連れ回したといえばそうですから…。」
うっ…たしかに言葉にしてそう言われてみれば確かにそうだ。
「で、でもほら!制服だったし!そ、それにひなもあんなに懐いてたからさ!」
「だから心配なんですよ…!ひなちゃん誰にでもついて行ったりしそうだし!な、なんだかんだで結衣さんも抜けてるところありますから…!」
「そ、そんなことないよ!最初はちゃんと警戒してたもん!感じ悪かったかもだけど…。それにひなは人見知りだからあんなに懐いてる方が特殊っていうか…私ほんとにびっくりしたんだから。」
「え、あーそうなんですか?なんかちょっと嬉しいなぁ…。」
そう言って遥くんは照れている。いやなんかちょっとかわいいな…。
私は相当ガン見していたのか恥ずかしそうに口元を隠してしまった。
「な、なんですか?…だって嬉しいじゃないですか…!」
これには私も思わず微笑んでしまう。あまりにもからかいが過ぎたのか遥くんは顔を真っ赤にしてひなと一緒にテーブルを離れてソファの方へと行ってしまった。
「やーだー!もっと遊びたい…!」
遥くんが帰る時間になって、ひなが寂しいのか帰って欲しくないと言い出した。ひなは途中寝ていたこともあってか物足りないらしい。
「ひな…遥くんもそろそろ帰らなきゃなんだよ?外で会う時もいつもそうでしょ?」
いつもなら自分も帰るから平気なのか、素直に帰ってくれるんだけど…。今日は家から帰るのを見送るという立場になって、いつもより寂しいのかもしれない。
「ひなちゃん、今日はもう帰らなきゃだけどまたすぐ遊ぼうね。俺としてはその…笑顔で見送ってくれると元気に帰れるんだけど…。」
「すぐ…?じゃあいいよ…。」
うん聞き分けが良くてお姉ちゃん助かるよ。もう全然私の方見てないや、遥くんの足にくっついてる。
「それじゃまたね、ひなと一緒に私も楽しみに待ってることにするから。」
「はい、それじゃあまた。ひなちゃんもまたね!」
それからも少しだけ足にしがみついたままで遥くんは苦笑いしていたけど、最後は嬉しそうに微笑んでひなを撫でた後に急いで帰って行った。
ひなも寂しそうだったけど、私も少しだけ寂しくなってしまう。それでも次もまた会えるということが嬉しい。少しだけ学校でも話してみたいと思ってしまったのはわがままかな?
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