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花も実もあるお付き合い  作者: 七都あきら@書籍化『明日好きになる人』角川文庫より発売中


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酔っ払いラプソディー 4

  * *


 風呂からあがって純の家に置きっぱなしだった部屋着のスウェットを出して着る。地下の部屋に戻ってきたら純はもう寝ていた。

 少し迷ったけれど、勝手に純が寝ているベッドに潜り込む。

 ソファーに一人は寒いから、いつも一緒に寝てるから。――親友だから。

 背を向けて寝ていると、後ろから純がひっついてきて腰に手をまわしてくる。温かかった。

 だから安心する。ずっとこのままが良いと思った。

 変でもいいから、けれど、これ以上、純の未来を壊したくない。邪魔したくない。


「おやすみ」


 ぼそりと、背中に向けて結斗は言った。


「――ゆい、ごめん、酔ってた」

「ほんとにな。俺も酔ってた」

「だよね」


 くすくすと、背中で純は笑っている。

 酒を飲んで待っていたのは、純の優しさだったのかもしれない。結斗が望んでいることをして、気まずくならないように。

 もっと、ずっと、一緒にいたい。もっと、隣でくっついていたい。昔みたいに、昔よりも。


 ――覚悟決めたから。


 純はそう言っていた。やっぱり、逃げているのは、自分だったのかもしれないと反省する。純がいうように、考えないといけないと思った。

 この先、純とどうしたいのか。



 + + +



  目を覚ましたくない朝だった。

 けれどベッドの隣から時間通りに抜け出した純は、いつも通りに身支度を済ませていく。結斗はベッドで狸寝入りを続けていた。先に出かけてくれないだろうかって思った。

 しばらくして一階から地下に戻ってきた純は、なぜかピアノの前に立った。


 布団から少し頭を出し隙間から純の様子を伺った。

 グランドピアノの蓋を全開にする。右方向には結斗の寝ているベッドがあった。

 準備が終わると発表会みたいに椅子に座る。純の背がきれいに伸びていた。

 そこから、すっと息を吸う音が聞こえた気がした。

 昨晩の少しの気まずさを問答無用で破壊したのは、ストラヴィンスキーのペトルーシュカだった。けれど、ちょっと違う。

 出だしのところを何回も何回もしつこく弾かれる。ガンガンガンガン。


 フォルテ・フォルティッシモ。


 ――目覚まし時計かよ!


 防音室だし近所迷惑にはならないけど、朝からうるさい。


「ウルセェ!」


 体を起こして叫ぶと純は笑いながら、やっと続きを弾き始める。おもちゃ箱みたいな楽しい音。昨日の余韻を払拭するように明るい陽気な音楽だった。

 音で殴られた。近くにあった純の枕を投げたがピアノが置いているところまでは届かなかった。

 のろのろと歩いてピアノの横に立つ。


「おはよう、結斗」


 クラシックに詳しくなくても純が話してくれるから、結斗はいつの間にかいろんなことを覚えていた。

 ピアノが弾けなくたって、なんの才能もなくたって、純は変わらずいつもそばにいてくれた。


「……は、よ」

「目覚めの気分はいかが? 二日酔い?」


「新聞紙で後ろから殴打されたあと、往復ビンタされて、階段の上から背中蹴られて突き落とされた気分」

「まぁ、そんな感じに弾いてるからだけど、結斗の楽曲分析は個性的だね」

「……そう」

「まぁ、俺は好きだよ」

「なんか、それ、もっと、軽くて、キラキラした曲じゃなかったっけ、どうして出だしがバケツ叩くような重い音になるんだよ」


 純の家のピアノは最近よく音が変わる。

 子供の頃にあった例のスタインウェイさんと今使っているピアノとの違いみたいな話ではなく。色が違うと感じることがあった。

 ピアノの音色。ミが赤色に感じるとか、ファ♯が黄緑とか。共感覚の一種だ。

 それが純の弾き方のせいなのか結斗が知らない間に、違うピアノになっているのかは分からない。純のピアノの音色は、いつだって楽しい色だった。


「結斗のために、弾いてるからね」

「……なんだよそれ」

「今は、結斗にさっさと起きて欲しかったから、そういう演奏にした」


 結斗の寝起きの頭がしっかりしてきた頃、演奏は途中で終わった。


「え、最後まで弾かないのかよ」

「聴きたいなら弾いてもいいけど。ところで結斗、今日は朝から講義とってなかった? 金曜日だけど」


 純に言われて慌てて床に放り出してあった自分の黒のデイバッグからスマホを取り出す。スケジュールを見ると社会学の講義が入っていた。


「……やべ、二限入れてた」

「起こしてあげたんだから、感謝してよね」


 したり顔で言われて、あぁ、いつも通りの純だなと思う。

 気を使われたのかもしれない。


「うん、ありがと」

「今日は素直だなぁ」


「な、なんだよ」

「別に。ほら朝ごはん作ってるから、さっさと顔洗っておいで」


 純はそういうと自分の荷物を持って、先に一階に上がってしまった。




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