雪山近くの我が町の風景〜言わせたいだけの物語〜
私が雪山を背景に町の様子を眺めていると、おかしなたまごが屋根を駆け回る姿が見られる。
いくつかあった会社や工場は、大企業のオカルト女が指名した金星人のマヤの傘下になり、金魚人達がビールと温泉たまご造りに励んでいる。
マヤには社長秘書のジーコと、黒いコスモスと呼ばれた黒里桜子という護衛がついていて、町を取り仕切る三日月商会も彼女達の味方だ。
三日月と言えば三日月堂の和菓子、あれは当たりだと思う。
この町にのみ存在する金魚人は黄金郷の住人だ。某国の密偵もうろつく。
雪山では奴らに山荘が破壊され暖炉しか残らなかった。ただでさえ雪山では子供の冬期遠足の事故が多いのに、誘拐事件まで起きたという。
それに、最近は帽子を被るお地蔵さままで出始めたと聞く。
騒がしい町だが、学校の文化祭などは楽しめた。私以外にメイド喫茶に泣いた連中の顔も見たいものだよ。
おっと、また一人消えた。あれはお人好しの男だから異世界に飛んでも苦労しそうだ。
なにやらゲームのクエストとやらでパスワードを入力すると、この地に呼ばれ、旅立つ事になるようだな。
金星人を名乗る連中もいるので、案外異界への扉が開いているのかもしれんな。
温泉も楽しみに調査に来て五年住んでみたが、まったく飽きない町だよ。
のんびりと暖炉の炎のゆらめきとを前に、私は自分が何者なのかをひたすら考える。
この町において、私は役割を与えられていない。何かを追うわけでもなく、作るわけでもない。
──────そして私は自分自身の存在意義に気がついた。
三日月堂では新年に「はっぴっぴ団子」なる和菓子を売り出すんだとか。私の役割は、ただそれだけの為にある。それを言わせたいがためにある。
魔法のような「はっぴっぴ」を繰り返す事で、聞いているものも楽しくなる。
ここは閉ざされた雪の降る世界。神の声を持つお方よ、我々のために、幸せの呪文を唱えてほしい。
「はっぴっぴ」と。
────幸せに包まれるといいな。
だいそれた無理な願いを祈った私は、もうじき消えることになるだろう。
人の業は深い。聴衆の熱望がひとつの思想に凝り固まってゆくさまを見ると、叫ばずにはいられなくなるのではないだろうか。
そして封印されたもう一つの魔法の言葉、禁忌の呪文のように聞かせるようにと、神の声を持つ方がまた一人導かれてゆく。
消えゆく私の最後の悪あがきに答える数多くの声が集まれば、あるいは奇跡は起きるやもしれないか……
お読みいただき、ありがとうございました。この物語は、なろうラジオ大賞5の投稿作品となります。
数え間違いでなければ、なろうラジオ大賞5投稿三十一作品目になります。あるワードを聞いて、作品に入れてみようとなって生まれたものなので、主人公の存在意義は正しいのです。はい、遊びが過ぎました。
本来なら毎日投稿により、期間最終日にあたる総集編的な作品でした。
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