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Take On Me 2   作者: マン太
24/33

24.静けさ

 その後、帰宅すると既に深夜を回ると言うのに、亜貴も真琴も起きていて出迎えてくれた。

 ただ、もう遅い。俺も岳も疲れているだろうからと、先に帰っていた真琴は軽く声をかけただけで、寝室へと戻って行った。

 亜貴もそれに続く。色々聞きたいし言いたいけれど、また明日。そう言って。


 その夜、ようやく岳に抱きしめられて眠りにつく事が出来た。遠慮せずその温もりに身を委ねる。

 スタンドの下には、例のコツメカワウソの縫いぐるみ。岳の帰還まで無事に守りましたとばかりに、端末の前に鎮座していた。

 岳の腕の中でようやくひと息つけた気がする。こうして間近に岳を感じられる事に感謝しかなかった。

 ちなみに俺と岳の寝室は別棟の離れの二階になっている。亜貴と真琴のいる母屋とは廊下で繋がっていた。

 階下は客間になっているが、あまり使われてはいない。やたらと部屋数のあるこの洋館は、まるで迷路の様で面白くもあった。


 帰ってきた──。


 眠る岳の寝顔をじっと見つめる。

 すっかり無防備になって眠るその姿は、どこか幼くも見え。十歳も上の岳が自分とそう変らない様にも見える。

 岳は普段、自室で眠るときは下着以外は身に着けない。寒くないのかと聞いたことがあるが、別段、気にならないと言う。

 特に今は俺がいるから寒くはないと──。


 照れくさい。


 ただ、先ほど寝る前、ローブを置いてベッドに入った際、小さくあ、と漏らした。

 そんな声を漏らすとは、岳にしては珍しい。それから髪をかき上げつつ。


「…これは、浅倉にやられたんだ。不覚をとってな…。けど、何もなかった。余計な心配はするなよ?」


 言った胸もとに近い場所に、うっ血した跡が微かにある。これは、前に大希が撮って送ってきた例のアレだろう。


 ううん。これは…。


 俺は内心唸ったが。


「…気にしない。ってか、気にならなくはない。けど。岳がそういうなら信じる。それに──」


 俺は横になっていた身体を起こして、同じく横になろうとした岳の胸元に抱き着くと、口づけた。少しだけ意図をもって。

 薄い僅かに残った跡の上へ、新たな赤い跡が残る。


「──よし。これで終わり。消えた消えた──って、おわぁ?!」


 残した痕に満足げに頷いた俺を、岳は押し倒す。


「くそっ…。今日は手を出せないってのに…」


 別にしてもいいのだが、岳はもう遅い時間に疲れているだろうからと、事に及ばないことに決めたのだ。


「別に…少しくらい──」


 なら、いいと言いかけた俺の唇を岳が遠慮なく塞ぐ。待ちきれないとばかりに。


「…大和以外は、もう、抱く気はない。触れたくないし、触れられたくもない…。大和がいい…」


 そう囁きながら、キスを繰り返す。

 お互い熱が高まって、もう止められそうになかった。岳とこうして向き合うのはいつ振りだろうか。

 俺はぎゅっとその首筋に抱きつき、筋の浮いたそこへキスをすると。


「俺も、岳以外にそんなこと、したくない…」


 されたくない。岳にしかこうしたいとは思えない。


「大和…」


 岳の掠れた声が耳元に響き、心臓がトクリと鳴る。


「好きだ…。大和しかいらない…」


「ん─…」


 岳が見下ろしてくる。

 目があったのを合図に、岳の手が頬に伸び、もう一度深く重なるキスをした。

 それから岳に求められるまま、互いの熱を確かめ合い。

 岳に触れられ、求められるとそれだけで幸せを感じる。自分でいいのだと、そう思えた。

 岳に触れられ、あらぬ声を上げるのも、あられもない姿を晒すのも、相手が岳だからで。他の誰にもこんな自分をさらけ出したくはない。

 それに、そんな風に自分以外に触れて欲しくない。自分だけの岳でいて欲しかった。

 それでも、岳は一度だけで遠慮して。


「…後は、明日にオアズケだ」


 何度目かのキスを終え、呼吸を整えながら岳は自分に言い聞かせる様に呟いた。


「って、無理してる…」


 くすくすと笑って、岳を見上げる。

 そんな俺を見下ろす岳は、ぐっと何かをこらえるように唇を噛みしめたあと。


「早く明日にしたいから、寝るぞ。大和…」


 そう言うと、俺を腕に抱き眠りについた。

 それで冒頭に戻る。

 岳の健やかな寝顔を見られるだけで、なんて幸せなんだろうと思える。


 俺は──ここにいて、岳の傍にいて、いいんだよな? 岳。


 そっと頬に触れてから、腕の中で目を閉じた。


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