幽霊でも『恋』がしたかった
とある、とある中学校。
そこに一人……『住んでいる』幽霊が居たそうな。
彼女の名前は、静川天音。
誰にも言い出せない、というか言えない、そんなひとときの物語。
▪▪▪
夏休みが終わった、新学期。
「みんな、おはよう!」
「「おはようございまーす!」」
校門にぞろぞろと、学生が入っていく。
『……また、賑やかになるな』
青々と葉が茂る桜の木の下で、そう私は呟く。
『夏休みは人が少なくなるから、寂しかったなぁ』
自分自身、幽霊だから人と話せる訳じゃ無いんだけどね。
皆の顔を見ていると、安心するって感じ。
▫▫▫
この中学校に住み始めて、どれくらいが経ったのだろう。
まあ、正直な話……所謂地縛霊っていう分類なのかな。
学校外に出ようとしても、謎の力に跳ね返される。
それに、生きていた時の記憶も殆んど無い。
……地縛霊の類いだから、何かしらこの中学校に関係してるのは確かだけどね。
▪▪▪
新学期が始まってから、1週間が経った。
どうやら、2年生のあるクラスに転入生が入ったと聞いた。
『どんな子、だろうな』
こっそり見に行こう。
……まあ、幽霊だし誰にも見えはしないだろうけど。
「……ねえ、君」
校舎内に入った瞬間、誰かに話しかけられる。
『ひぃっ?』
思わず声が出た。
後ろを振り向くと、男子学生が居る。
……見たことが無い。もしかしたら、彼が転入生だろうけど。
「やっぱりあんた。幽霊でしょ」
『……はい?』
思わずそう返してしまった。
………いや、ちょっと待って?
『もしかして、貴方……私の事が見えるの?』
そう私が言うと、彼は頷いた。
『………えっ、えぇぇぇっっ!?』
そう叫んだ時、チャイムの音が鳴った。
「ああ、時間だね。僕はもう教室に戻るから、昼休みに裏庭で」
そう彼は言うと、そのまま階段をあがっていった。
『な、何なのよ……あいつ……』
▫▫▫
で、その日の昼休み。
彼が言った通りに、私は裏庭に行った。
そこにはもう、彼がベンチに座っていた。
「……あ、こっちこっち」
彼は私の事に気が付いたのか、手招きをした。
彼の隣に座る。
「……さてと、自己紹介がまだだったね。僕の名前は天王寺未来。よろしく」
『え、えっと。私は静川天音と言います』
「天音さん、か。良い名だね」
そう彼……未来が言って、微笑んだ。
『……あの、その。私の事、見えるんですよね』
私が言うと、彼は頷く。
「僕、幽霊の気配は感じ取れるんだ。で、特に地縛霊に対しては姿が見えるんだ」
『だから、あの時私に話しかけたんだ』
「うん」
でも、一つだけ疑問が浮かぶ。
『私は、他の人から見えないでしょ?怪しまれたりしないの?』
彼は苦笑いした。
「まあ、僕はあまり『人』と関わりたく無いからな。そう思われても別に構わないのさ」
『人と関わりたく無いって、変わった趣味ね』
変わった趣味……そう言ったものの、もう数十年ぶりに話せたなぁ。
そう思うと、なんだか嬉しくなっちゃう。
「きみ、笑顔が素敵だね」
『……え、うそぉ?』
思わず、そう返す。
「本当だよ」
そう彼が言った時、チャイムの音が鳴る。
「午後の授業だ。……また明日、話さない?」
『う、うん』
「……じゃあね」
彼が手を振って、その場を後にした。
《……何だろう、この気持ち》
話していて、楽しい感じ。
……もしかして、これって『恋』なのかな。
▪▪▪
彼と話し始めて、1カ月が経った。
話すのが楽しくなっている。
そして、相変わらず……と言いたいところ、なんだけれど……
《なんだか、身体が薄くなってきた気がする》
手の先やら、足の先。
そこから徐々に薄くなってきたのだ。
その事を、彼に話した。
「……その、地縛霊って言うのは、自分が死んだのを受け入れられない事が理由で、最期に居た場所に居続けるとネットで見たことがある。もしかして、自分が死んだ時の記憶が戻ってきたとか」
《……そうだ》
断片的に、思い出す。
私、気になっていた人に告白して、振られて、そして―――
涙が頬に伝うのが分かる。
「……大丈夫?」
彼が顔を覗き込む。
『わっ、私……』
過去の記憶を思いだした事、そして彼……未来の事が好きと伝えた。
「そっか。じゃあ、僕からも……君の事、好きだよ」
《私……私、ずっと、縛られていたんだ……》
好きと言われたかった。
恋がしたかった。
ずっと、何十年も――
そう思った瞬間、私の身体が消え始めたのが分かった。
……もう、この世から居なくなる。
『……未来君、私……逢えてよかったよ……!』
私がそう言うと、彼は目に涙を浮かべながら頷いた。
『……ありがとう』
その言葉が、彼女の最期だった。
▫▫▫
それからというもの、未来が感じ取っていた『幽霊の気配』は無くなった。
もしかしたら、彼女に出逢う為だったのかもしれない。
(今頃、僕の事を思い浮かべているかな)
そう、未来は思っていた。
▪▪▪
私……幽霊でも恋はするものとは、思って居なかったの
でも、出逢えて良かった
……本当に、本当に
かけがえのない、思い出と共に
ありがとう、未来君
ちょっと難アリな内容だとは思いましたが(アセアセ)
読んで頂き、ありがとうございました。