9. 幼女の人形さん
千恵美ちゃんの従兄の浩介さんがやってきて麟子さんに処分された後、翌日麟子さんもまだこの人形屋で新しいお客さんを迎えている。
「いらっしゃいませ」
今回のお客さんは小学生くらいの小さい女の子一人だ。彼女は美歌ちゃんよりも幼く見える。人形にされてもおかしくないくらい可愛い女の子……。そう思ったら、なんか嫌な予感が……。
「この人形すごく可愛い~。あ、この子も。これも」
女の子は色んな人形を触って持ち上げて盛り上がった。
「あ、この大きい人形さんはちっちゃい人形を抱いているね~」
女の子は美歌ちゃんと私のいる棚に歩いてきて、興味深そうな顔で私たちをじっと見つめている。
「この大きな人形は可愛いな~」
彼女は美歌ちゃんの顔を撫で撫でしている。
「この小さな人形も可愛いね~」
今の『小さな人形』って……つまり私のことだ。彼女は私の体を掴んで、美歌の腕から外して持ち上げていく。こんな風に巨人の手に乗らせられるのはもう何度かわからない。不本意だけど、今みたいに人形として誰かの手で持ち上げられて浮遊感を感じるという感覚に慣れてきてしまった。
あれ? 今のは何か……? 気の所為かな? 私の顔を撫でたこの子の指からは何か薬の匂いがする。何の薬かわからないが、この匂いはちょっと安らぎを与えられたような気もする。
「この子たちを外しちゃいけませんわ」
「なんで?」
「2人はずっと一緒にいたいからですわ」
こういう設定なの? 実際に全然違うし! いや、別に美歌ちゃんのことが嫌ってわけじゃないけど……。
「お姉さん、人形の心読めるの?」
「そうですわ。みんなのこと幸せにして欲しいですわ」
嘘吐き! むしろ地獄だよ! 私たちのことを騙してこんなことをしたくせに。
「ね、お姉さん。この子たちと友達になりたいの。みんな好きだから。一緒にいたい」
女の子のこの言葉は何かのフラグみたいなものだった。
「じゃ、一緒にいさせますわ」
「やった~」
そんな……。まさかこんな小さい子まで……。酷い。駄目だよ。お願い気づいて! 騙されないで!
「おまけに、お茶は淹れておきましたわ。どうぞ」
やっぱり! いつの間にかお茶は準備しておいたし。この子は結局私たちと同じ運命なのね……。
「ありがとう。いただきます~」
そして女の子は縮小薬の入ったお茶を飲んでしまった。……もう手遅れだ。
次の展開は何の以外もなくいつも通りだった。こうやってこの女の子は5分の1サイズの人形にされて、この店の商品の一つとなった。
また被害者が増えたか。もう嫌だよ。これ以上見たくない!
女の子が人形にされた後、数時間が経った。閉店時間になって麟子さんは奥の部屋に入っていった。
この店の部屋にはもう夕日に与えられた光しかなく、暗闇に落ちるのを待っているだけ。
私は暗い気持ちでその光景を見て思いを馳せている。周りにはいっぱい女の子たちはいるけど、みんな私と同じようにただ動けない人形にされているから話すこともできない。しかも人形になったみんなはどうやら息さえしていないし、心臓の音も聞こえていない。完全に静かだ。こんなの一人ぼっちと同じじゃないか。
でも次の瞬間に何かの異変に気づいた。部屋に立っている人形、いや……、人形にされた女の子の一部は動き始めた。
「あれ? 私、体動ける?」
「あたし、動けるよいになった?」
「やっぱり、動いた。やった!」
次々と、この騒ぎが広がっていく。やっぱりみんなは人間だったね。動けるようになったら当然に喋ることもできて、喜びの声が響いてきた。
なぜかよくわからないけど、これから何か起きている。よし!
微かな希望が湧いてきた。