7. 抱き締める人形さん
私の名前は戸川夢未花、普通の女子中学生……だったはず。だけど、今はもう……。
「いらっしゃいませ!」
「わー、可愛い人形いっぱい」
店にお客さんが入って来て麟子さんが挨拶した。そして私はこの光景を見つめて声を聞いていることしかできない。
だって私は今ただの人形だからね。そう、ただ麟子さんに人形にされた可哀想な女の子の一人に過ぎない。昨日まで私はまだ普通の人間だった。まだ歩き回っていたのに、今はちっとも動くことができない。
動けないのに、なんでまだ意識が残っているの? 見えたり聞こえたりすることはできるけどそれだけだ。これって地獄のようじゃないか。こんなつまらない時間はもうずっと続いてきた。
この店はお客さんが少なくて、一時間で一人くらいかな? 人形を買った人もいる。買われた人形の運命はこれからどうなるかな? りっかちゃんみたいに? でもりっかちゃんも私の所為でまたここに戻ってきてしまったね。
「閉店時間だ。ご飯ご飯~」
麟子さんは店の中で晩ご飯を食べている。私はただの人形で息をしていないはずなのになぜか料理の匂いがしているの? それなのに食べることはできないなんてつらい。寝ることさえできない。こういう状態で永遠に生きていても意味がない。人形にされたみんなもこんな状態になっているの?
「お休みですわ。人形のみんなさん」
もう閉店時間か。そして麟子さんはこの部屋の電気を消して、中の部屋に入って消えた。ここは彼女の家でもあるらしい。他に誰もいないから、やっぱり一人暮らし?
夜になったらこの部屋に暗闇がやってきた。月の光は少し窓から覗いてきているけど、やっぱりあまり足りなくてまだ暗い。こんなの嫌。家に帰りたいの。ずっとこのままでは絶対に嫌よ!
夜が明け、朝がやってきたら日差しが入ってきて、部屋は少し明るくなってきた。それでもまだ静けさが何時間も続く。
「こんにちはですわ、人形のみんなさん」
やっと麟子さんはまた店を開けた。今何時なのかよくわからないけど、多分放課後の時間くらいかな。彼女はまだ高校生のようで学校に通っているはずだから。
一人で店を運営しているのかな? 親は? 高校生なのに大変そう。
「いらっしゃいませ!」
またお客さんだ。今回やってきたのは、私よりちょっと年下ように見える女の子。多分小学5-6年生くらいかな。彼女は私の置かれている棚に向かってきた。
「この子可愛いの!」
女の子は私を棚から持ち上げてじろじろ見つめて、巨大な指で私の体のいろんなところを触りまくった。
「美歌はこの子が欲しいの」
自分のことを『美歌』と呼ぶ女の子は私を気に入ってるみたい。
「この子の名前は『ゆかちゃん』にしよう」
いきなり名前を付けられたの!? 私は『ゆか』ではなく、『ゆみか』ですけど……。でも偶然かな、ちょっと本当の名前と似ている。
「この子は前日この店に入ってきたばかりですわ。お気に入りですの?」
「はい、あ、でも高そうよね。美歌はあんなにお金がないので、残念……」
「そうですのね。でも本当に好きなら簡単に諦めないことですわ」
「でもどうしよう?」
「仕方ないですわ。可愛いお嬢さんだから特別に……」
なんかこのような台詞は前日の私に向けたのと似ていなくもないけど……。嫌な予感だ。
「本当!? って、美歌は可愛いだなんて、へへ」
「本当ですわよ。お嬢さんは人形みたいに可愛いと思いますわ」
やっぱり何というデジャヴュだ……。
「よく言われてます。えへん」
「一応訊いておきたいのですが、もし自分の体が人形みたいに小さくなれたらどれくらいのサイズになりたいですの?」
予想通りの展開か……。そんな質問が出た時点で私はこの子の運命を知ってしまった。
「そうね。美歌はあまり小さすぎるのは嫌かな。だってこの子を抱きしめられなくなるし! この子は小さすぎてあまり抱き締めたら潰れそう」
私が潰れるまで抱き締めるつもりなの!?
「この子を抱きたいですの?」
「はい」
「じゃ、4分の1くらいでいいですわね」
「これもいいね」
「じゃこれで決定ですわね」
やっぱり麟子さんはこの子の体を狙っている。この流れではやっぱり私と同じだ。どうしよう? 助けたい。
「お茶は淹れておきましたわ。どうぞ」
駄目よ! 美歌ちゃん、絶対このお茶を飲んじゃダメ! 忠告したいのに身体も口も動けないからやっぱり無理だよね。
「美歌はあまりお茶があまり好きじゃないの」
「お茶は身体にいいですわよ」
「でも……」
「飲まないと、この子をあげませんわよ」
「それは嫌! いただきます」
そんな! 簡単に引っかかるとは。結局飲んでしまった。もう手遅れだ。
そして数分後……。
「あれ? なんか身体が変……。きゃっ! 美歌の服が……」
お茶の効果で美歌ちゃんの身体が小さくなって服がだぶだぶになって結局地面に落ちた。
サイズの変化が止まった時に彼女はさっき言った通り4分の1くらいのサイズになっているようだ。
「お嬢さんのために新しい服は準備しておきましたわ」
小さくなって裸になった美歌ちゃんに、麟子さんは今美歌ちゃんサイズの服を渡した。この人、どれくらい服を準備しておいたかな!
「お姉さんなんでこんな大きくなったの? 巨人みたい」
「違いますわ。美歌ちゃんは小さくなりましたわよ。4分の1サイズにね」
小さくなったとは言っても、美歌ちゃんはまだ20分の1サイズの私よりも大きいよね。今でも私にとって彼女は巨人だ。
「あ、ゆかちゃんは大きくなってる!? でもこんなサイズも可愛い」
さっき美歌ちゃんの手にいた私は今美歌ちゃんの腕の中で抱き締められている。さっきよりサイズが近いおかげか、抱き心地はさっきよりよくて優しく感じる。てか美歌ちゃん、今裸だよね? せめて服を着なさいよ! 彼女の小さな胸からの温もりを直接感じてしまう。
「お二人、似合ってますわ。でも裸のままでは風邪ひいちゃいますわよ。わたくしが服を着せてあげますわ」
「はい? よくわからないけど、お姉さんがそういうなら……」
この子、どれくらい天然か!? 自分の置かれている状況をまだ全然理解していないようだけど。
でもそのおかげで私みたいに恐怖に落ちることなく、私もこの子の苦しがる姿を見なくて済みそうだ。
「やっぱり可愛いですわ。この服似合いますわね!」
着替え終わった美歌ちゃんに絶賛した麟子ちゃんの手の中には、今青いハンカチがある。あれは間違いなくあの……。
「お姉さん? 何を……っ!」
「これで君はこの子と一緒ですわね」
そして美歌ちゃんは動けないようにされた。私は彼女の胸に抱きしめられたままで、一緒に棚に上げられた。美歌ちゃんは4分の1サイズで身長35センチくらいだから一階ずつ30センチの棚では立てられず、可愛い女の子座りしている。
「親子人形ができましたわ。可愛いですわね」