6. 売られる人形さん ⊙
5話から続き、麗華視点です。
これからの展開はかなりダークですよ。
あたしが人形になった日から数日は過ぎた。どうやらあの薬の効果で、ただ体が動けなくなって、寒さも痛みも感じなくなったけど、意識はこのままずっと残って、目も見えている。だからこの数日店の中に起きている出来事をあたしはずっと見ている。
この店は毎日開店しているようだ。お客さんはあまり多くない。あたしのことを持ち上げて見つめたり抱きしめたりする客もいたけど、買われなかった。
まあ、別にあたしも買われたいわけではないしね。ここに出られてもまだ小さくて動けないままでは何も変わらないだろう。
時々可愛い女の子が店に入ってきたら、あたしと同じようにこの女に惑わされて縮小化薬の入ったお茶を飲ませられて人形にされた。
そんな光景をあたしはただ一つの人形として静かに見つめることしかできない。好きで見ているわけじゃない。これしかできないからね。目はちゃんと見えているけど、動けないからそっぽを向くこともできない。
「いらっしゃいませ」
また客が来た。今回はあたしよりちょっと年下の女の子だ。中学生くらいかな。彼女はあたしを持ち上げて微笑んだ。
「可愛い人形! この子なら夢未花ちゃんはきっと喜ぶ」
と、女の子は嬉しそうにそう言った。随分あたしのことを気に入ってくれているようだ。
「お嬢さん、この子がお気に入りですの?」
「はい、この子が欲しいです」
どうやらあたしはこの子に買われることになったね。
「プレゼントボックスありますか? 友達の誕生日プレゼントにしたいです」
「ありますわ。はい」
プレゼントボックスって、まさかあたしを入れるの? 嫌だ!
「よろしくね。そうだ。君の名前は……『りっかちゃん』だ」
女の子はそう呟きながらあたしを箱に入れていく。てか『りっかちゃん』ってあたしのことなの? いきなり名前付けられてしまった。嫌だよ。あたしは『りっか』ではなく『れいか』よ。それに中学生に『ちゃん』付けで呼ばれるなんて侮辱だ!
でも今のあたしはそう扱われてもおかしくないよね。この女の子から見ればあたしはただの小さな人形だけだから。何をされても抵抗することができないただの『品物』。
そして箱の蓋が下ろされて、あたしは暗闇に包まれていく。
止めて! あたしを外に出しなさい! 暗いのは嫌だ! ね、お願い!
あたしの悲鳴は全然彼女に届けなかった。当然だよね。口が動いているわけではなく、ただ心の中の叫びだから。
「あした楽しみね。夢未花ちゃん」
箱の中は暗くて何も見えない。ただ女の子の声だけは響いてくる。ここから出たい。どうでもいいから私を出してよ! 早く彼女の友達の……あの『夢未花ちゃん』って子のところに行って欲しい。
そして翌日……いや、ずっと闇の中で何時間経ったかわからないからよくわからないけど……。とりあえず、やっと……。
「夢未花ちゃん、誕生日おめでとう! これ、私からのプレゼントよ」
「ありがとう、千恵美ちゃん。何が入ってるかな~」
ようやく箱は開けられて、光がこっちに入ってきた。でもあたしの前に現れたのは巨大な女の子の顔。この子はあたしを買った子の友達?
「わー、可愛い人形さん! ありがとう」
彼女はあたしを箱から取り出して見つめて笑った。よく顔を見たらとても可愛い女の子だ。今のあたしから見れば彼女は巨人で怖いやつであるはずだけど、なんか天使にも見えてしまう。
彼女はあたしのことを随分気に入っているらしい。『可愛い』だなんて、あたしなんかより彼女の方こそ……。
こうやってあたしは暗闇から解放された。それでもどうせ動けないのだからこの状況は何も変わらないよね。
あたしの持ち主となった女の子は夢未花ちゃんっていう名前のようだ。あたしのことをよく抱き締めてちゃんと大切にしてくれているみたい。このまま彼女と一緒にいたら少なくともあの女のあの店の中に飾られるよりましかもね。
どうやらあたし、思考まで人形らしくなってしまったようだ。ただ可愛がられたり、抱き締められたりしたら喜ぶような人形……。
しかし数日後……。
「よし、りっかちゃん。また友達と会わせるね」
おい、まさかあの店に行くの? またあの女と会うの? やだな。全然行きたくない。あそこには友達なんていないわよ!
それにこの子は随分可愛い子だ。あの店に行ったら……やばいかも。どうしよう……。
べ、別にこの子を心配しているわけじゃないんだからね。あたしはただあの店に戻りたくないだけ。あの女に会いたくない! また何をされるかわからないし。
でもあたしの声は彼女に届くはずがなく、結局またあの店に連れて行かれたしまった。もう何が起きても知らないわよ!
「ぎゃ! 私、小さくなっている!?」
そして予想通り、結局この子も人形にされた。あたしより更に小さい人形に……。可哀想。あ、これってあたしの所為なんかじゃないわよね? この子たちは勝手にここに……。
「お嬢さん、また会いましたわね。うふふ。おかえりなさいませ。また可愛がってあげますわ」
あの女は微笑みながらあたしに向かって言っている。嫌だ。あたしはまたこの店の商品になるの!?
こうやってあたしはまたこの店の人形に戻ってしまった。今回はあたしを買ったこの子たち……確かに夢未華ちゃんと千恵美ちゃんって名前ね、彼女たちも一緒に……。
めでたしめでたし……。
次からはまた夢未花ちゃん視点に戻ります。