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15. うちの人形さん

 「夢未花(ゆみか)様、ありがとうございます!」


 体が自由に動けるようになった小人の麟子(りんこ)さんは、小さな手で私の指を抱いて必死に礼を言った。彼女は今私の左掌に乗っている。本当に小さい。ちょっと手加減を間違えれば潰れちゃいそうだから気をつけないとね。


 「あの、なんで『様』なの!? 普通に呼べばいいですよ」

 「今わたくしはただ夢未花様の人形ですから」

 「いいえ、そんなこと……」

 「今までのこと申し訳ございません! 罰は何でも、どんな酷いことでも……」


 立場が逆になって、今麟子さんから見れば私の方が大きくて恐ろしい巨人に見えるだろうね? だからこんなに怖いのも当然。彼女は以前私たちにやったことを悪く思って、罰を受ける覚悟をしているようだ。


 「罰ってどんなことですか?」

 「夢未花様の手でわたくしの体を(にぎ)(つぶ)してください」

 「えっ!?」

 「それとも巨大な足で存分に踏み(にじ)ってもいいです。よろしければ口に入れて飲み込めば……」

 「そんなことしませんよ……!」


 何を言っているの!? こんな小さくて可愛い女の子にあんな(ひど)いことなんて……。私は弱い者を(いじ)めて喜ぶような悪人ではないし。


 「え、そんな……」


 あれ麟子さん、今なんか残念そうな顔していない? まさか実はそうやられたいのか!? そんなことないよね?


 「大丈夫です。怖がらないでください」


 私は右の人刺し指で彼女の小さな頭を()()でしながら落ち着くように言った。やっぱり可愛い。小動物みたい……。いや、彼女は人間だよ。そう考えるのはやっぱり失礼だよね。


 「夢未花様、なんでこんなに優しいですの? わたくしあんな酷いことやったのに」


 その『様』付けは定着したの? まだちょっと抵抗感があるけど、まあいいか。


 「麟子さんの事情は聞きました。いろいろ大変なことありましたね。私は力になりたいです」

 「いいですの? わたくしを許してくれますの?」


 そう言って麟子さんは泣き始めた。


 「はい、麟子さんは別に悪い人ではないとわかっていますから」

 「違いますわ。わたくしはあなたたちを人形にしようとしましたの。すごく悪い人ですわ」

 「いいえ、人形好きに悪い人はいないと思います」


 私たちはちょっと違うかもしれないけど、人形好きっていう共通点はある。私と同じ好みを持っている人だから、きっと仲良くなれるよね。


 「夢未花様……」


 麟子さん私の親指を抱いて泣いている。随分懐かれたようだ。彼女の涙でちょっと濡れちゃったけど、これでいい。


 「麟子さん、あの……、私とお友達になってください」


 玩具(おもちゃ)でも、愛玩動物(ペット)でもなく、私は彼女を友達にしたいと思う。


 これからよろしくね。小さな麟子さん~。






 「あの女は夢未花ちゃんの家にいるの!?」

 「まあ、こういうことだ」


 新学期になって、私も千恵美(ちえみ)ちゃんも高校生になった。今一緒に登校している。麟子さんのことを教えたら彼女はなんか驚いた。


 「夢未花ちゃんだけ(ずる)い。私もあいつをやっつけたいのに」

 「私は別に何もしていないよ! するつもりもない。千恵美は何をするつもりなの?」

 「そうだね。いろいろよ。うふふ。ね、夢未花ちゃん、私にもあいつに会ってみたいね。いいかな?」


 今の千恵美ちゃんの顔はなんかちょっと怖い。ニヤニヤして何か悪いことを考えているみたい。きっと麟子さんに何かするつもりだろう。私と違って彼女はまだ根に持っているよね。だからそもそも麟子さんのことを千恵美ちゃんに言うかどうか迷っていたのに。


 「会ってどうするの?」

 「ただ可愛がってみたいだけ。いいでしょう?」

 「それは……」


 そんなこと言ってもね……。今会わせたら、きっと麟子さんは酷いことされちゃうだろう。やっぱり私は彼女を守らないとね。


 「いや、駄目だ! 絶対に会わせない」

 「夢未花ちゃんの吝嗇(けち)……。あ、逃げるな!」


 私は走って千恵美ちゃんから逃げ出した。


 「あ、学校着いたよ……っわ!」


 学校の門の前まで走ってきたら、私は誰かにぶつかった。


 「気をつけろよ……あ! お前は……」

 「ご、ごめんなさい……あ! りっかちゃん!」


 ぶつかった相手はりっかちゃんだった。私の人形だったりっかちゃん。でも彼女は今私より少し背が高い。それに私と同じ高校の制服を着ているようだね。さすがりっかちゃん、制服姿も可愛い!


 「あ、りっかちゃんだ」


 後ろから追ってきた千恵美ちゃんもりっかちゃんの名前を呼んだ。


 「また『りっかちゃん』ってうるさいわよ! あたしはそんな名前じゃ……」

 「りっかちゃん、また会えて嬉しい!」


 再会できた喜びのあまりに、私はりっかちゃんに抱きついた。


 「お前、人の話聞いてないのか?」


 あー、こんな大きいりっかちゃんも可愛くていいよね。柔らかくて抱き心地がいい。


 「いい加減に!」


 りっかちゃんはちょっと抵抗しているようだけど、無理矢理(むりやり)私を突き放そうとしてるわけではないみたい。やっぱりりっかちゃんも実は私と会いたかったよね。今抱かれて嬉しいはずだよね。


 「ね、もしかしてりっかちゃんもこの学校なの?」


 と、千恵美ちゃんはりっかちゃんに訊いた。


 あれから会っていなかったけど、まさか同じ学校だとは。何という運命。


 「だーかーらー、『りっか』ではなく、あたしの名前は『立花(たちばな)麗華(れいか)』よ。それにやっぱりお前たちこの学校の新入生だよね? あたしは2年生だから『先輩』と呼んで!」


 先輩……か。そうだよね。やっぱり彼女は年上だった。今のりっかちゃんは私の人形だった頃とは全然雰囲気は違うね。……でもやっぱり、顔は相変わらず人形みたいに可愛いりっかちゃんのままだ。だから私にとってやっぱりりっかちゃんはりっかちゃんだ。


 『パシャッ!』


 スマホのカメラの音。千恵美ちゃんだった。彼女は抱き合っている私とりっかちゃんを見てニコニコしている。それになんか興奮していない?


 「夢未花ちゃんとりっかちゃん先輩、素敵だ。人形みたいに可愛い美少女2人(そろ)ってイチャイチャしている。いい絵になる」

 「えぇっ……!」


 千恵美ちゃんったら、私たちをこんな(ふう)に見ているの? あ、それにどうやら千恵美ちゃんだけでなく、周りからいっぱい人が私たちを見ている。なんか恥ずかしいから、私はついりっかちゃんから離れた。


 「ちょっと、見世物(みせもの)じゃないわよ!」


 私よりりっかちゃんの方が随分恥ずかしがっているようだ。こんな赤い顔をしているりっかちゃんもやっぱり可愛い。


 「ここでお前たちと会うなんて最悪。もう付き合っていられないわ!」


 そう言い残してりっかちゃんは校舎に向かって逃げ去っていく。


 「待って、りっかちゃん」


 やっぱりまた抱き締めたいな。私はりっかちゃんを追っていく。


 「付いて来ないで! この人形馬鹿!」


 まあ、本当にいろいろあったけど、新しい出会いもある。とにかくこうやってこの事件で出会った『りっかちゃん』とも仲良くなれた……そうよね?


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